この世界は幸福に満ち満ちている。少年は歳に見合わず誰よりもそれを弁えた子どもだった。
　見よ、慈しみで大地を温めるエーギルの双眸。そのぬくい土を食む穏やかなジョーリアの獣たち。それらに引けを取らないほど優しく彼の名前を呼ぶ最愛の姉の声。
　この幸せは決して当たり前のものではないのだという強迫観念は、常に彼の背をついて回った。彼にとっての人生はいつ崩れるともしれない薄い世界の殻を踏んでいるようなもので、その有り難みも知らずに日々を浪費する他人を蔑む老獪さが少年にはあった。……儚いものが全て尊いわけでもなく、アナクサゴラスが尊敬しているのは最愛の姉の得難い美徳だけではあるけれど。
　風にそよぐ草原と赤土の匂い、吹き抜けるような青空ばかりの少年の視界の中で、美しい姉の心根だけが全ての支柱であると言っても過言ではなかった。生きることすらおぼつかない弟を献身的に看る姉の存在を当然のものと受け止めない良識が幼い少年にはあったし、若くして両親を失い重い仕事と役立たずの家族だけが残された娘が全てを捨てて逃げ出さなかった覚悟と愛を、彼は誰よりも尊んでいた。そんな荒れた手に金貨を降らせることはできなくても、出来る限りの好天と時折の慈雨で応える世界のことも。

隊長は大根ではない「隊長！」
　戦と戦の合間といえど、自らの部隊に訓練を休ませたことは一度もない。非常事態だからこそ日々のルーチンワークを崩してはならないし、むしろ普段通りであることが各員の精神衛生に寄与することにもなる。だから今日もストレッチ・走り込み・武器の組み立てから障害物訓練までをこなした後のわずかな休憩時間の際に、倒れ込んだ隊員から声が上がった。
「なんだ」
　隊長の部隊は個々に求める能力が高いことで知られているが、無闇に厳しいわけではない。休憩中の歓談を咎めたことはないし、そこに自らが混ざることも往々にしてある。
「オロルンは次いつ来るのでありますか！？」
　だから気軽な気持ちで返事をした自らを隊長は大変に悔やみ、思わずナタの故郷とは彩度の違う真っ青な晴空を仰いだ。

ハイノイコノチャノイチャ 嫉妬の話コノに嫉妬しちゃうハイノイのノは居るし、チャに嫉妬しちゃうハイノイのハイも居るし、ハイに嫉妬するチャノイのチャも居る。
そういう、自分とは異なる信頼関係に嫉妬しちゃうの、いいと思うんだー。

コノとハイの関係はそんなん(恋とか愛とか)じゃないって理解してても、自分に向けるのとは違う顔で話してるの見て嫉妬しちゃうし、そこにある自分とは異なる信頼関係そのものにすら羨ましく思っちゃう。そんなこと考えてる自分に嫌気がさしてくるノ。

チャとノイの関係に、超えられないものを感じてヤキモキするハイ。恋人は自分なのに、とか思っちゃう。思っちゃうけど、何回も死線を潜り抜けてきた2人に越えられない絆があることを理解しているから、ノに直接不満をぶつけないように我慢している。理解はしてるけど心は納得できなくていつか大爆発。