七海が単独任務で遅くなる時によく聞く言葉。
ただいま。それと、いただきます。
ただいまは最初は出なかったのに、いただきますは結構すんなりと出る。
きっと七海のご両親はその挨拶の大切さをしっかりと教えていたんだなぁと思いながら、夜食であるおじやを作っていく。
残っていた野菜と豚肉を入れて、味噌で味付けしたおじやは七海からのリクエスト。
風邪の日に作ったものが気に入って、何か気が滅入るような任務がある日はこれかかきたまうどんをお願いされる。
今日は呪霊はそんなに強くなかったらしいけど、数が多くて大変だったようだった。
大きめの丼2つに出来上がったおじやを移して、リビングの方に持っていけばすでに待機している七海が目を輝かせていた。
「おまたせ〜!」
「今日もいい匂いですね」
「ありがとう。リクエスト通りに短く切ったうどんも入っているよ」
「いつもありがとうございます。いただきます」
「いただきま〜・・・ぁえ?」
いつものように一緒に手を合わせて、いただきますと言い切る前にいつもと違うことに気がついた。
なんか・・・・七海、僕の方を見てる?
「えっと・・・・??」
「?どうかしましたか?」
「いや・・・・なんで僕の顔見て、いただきますって言うの?」
今まで料理から目を離さないで言ってるのに、今日はどうしたんだろう?
僕自身を指さしながら首を傾げると、心底理解できないという顔で見つめる七海が僕の顔をじっと見つめてから口を開いた。
「灰原が私のために作ってくれているのに、灰原に言わなくてどうするんですか」
「・・・・・え!?」
「違うんですか?」
「ちっ、違わない・・・けど・・・・」
確かに七海と一緒に食べたいから連絡してって言ったり、こうして七海からのリクエストも出来うる限りは答えているつもり。でも、それは全て僕のわがままだからさり気なくやっていたつもりだった。
全ては七海に一目惚れした僕自身が七海の胃袋を掴んで、離さないように必死になっているだけで、七海に言ってないはずなのに、どこで気付いたんだろう。
「あの・・・・七海からそう言われると、少し期待しても良い・・・かな・・・」
「期待?」
「あ・・・・ううん。なんでもない」
小首を傾げる七海にそう言って、小さな声でもう一回いただきますと言ってからおじやを口にする。
なんだかいつもより、味が薄く感じた。
「期待なんて、いくらでもしてください」
「?なにか言った?」
「いいえ、なにも」