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    【日←福】 ※かなり注意

    神様 斜め向こうから砂利を踏む音がして、福沢はすぐにそれが日野のものだと分かった。日野の革靴のヒールはちょっとばかし改造が加えられていて、市販のものよりだいぶ固い。例えば人の指を踏んづけて骨を一、二本折ってやるときとか、顔面を踏んづけて鼻の軟骨を砕いてやるときに使うための、かなりイケてる靴だった。福沢はその革靴が立てる音がとても好きだったので、足音で日野を判断することなどお手の物だったというわけだ。

    「おい、福沢。今のお前、かなり美人だな。惚れそうだ」

     福沢の予想にたがわず、視界に入り込んできたのはやはりいつもの知的な眼鏡を見事につけこなした日野だった。おまけに珍しく誉め言葉までもらえてしまったので、嬉しくなってひとつ、血の泡を吐く。

     福沢が殺人クラブに入ったのは、単純明快、日野がいるからだった。恋多き高校一年生、好きな人のより近くにいたいと思うのは当たり前の思考回路だ。
     最初に殺した女のことを、福沢は今でもよく覚えている。左の頬にほくろが二つあるショートカットの三年生で、福沢は彼女のことをほくろ二つ女と呼んでいた。もちろん、自分の中でだけの呼称だ。彼女は日野のことが好きで、日野も彼女が好きで、ふたりは恋人同士だった。だから日野からほくろ二つ女の殺害計画を持ち掛けられたときは、それこそ飛び上がって喜んで二つ返事で了承した。どさくさに紛れて腕にしがみつきながら、恋人なのにいいのかな、と思ったりもしたが、すぐにどうでもいいことだと判断した。福沢にとってこの世でもっとも邪魔な存在を、それも愛しい日野と共に消せるのだし、余計なことを聞いてこのエキサイティングな計画が頓挫になることだけは避けたかった。
     計画を持ち掛けられて一週間後、福沢は日野の指示通り、放課後の旧校舎の空き教室に向かった。足取りは軽やかで、でも床は軋ませないようにしながら、目的の教室の前に立つ。中から聞こえてきたのは、女の喘ぎ声だった。
     とどのつまり、日野は変態だったということだ。日野は自分の上に乗る女の頸動脈にブチ開いた穴から噴き出した血を浴びながら射精して、上がった息のまま、えらいぞ、と福沢を褒めた。興奮していたからか、ほくろ二つ女はそれはもうよく血を吹いた。福沢はそんな日野を見て、わたし、この人より好きになれる人なんてこの世にはもう存在しないかも、と思った。血の霧が夕日を受けて日野の上に濁った虹をかける。神様みたい。

    「今何考えてるんだ?」

     日野先輩に惚れなおしちゃった時のことです、と返事をしようとして力んだ拍子に、頭の傷から少し血が噴き出す。福沢の頭蓋はへしゃげて、ついでに落下の衝撃で右の眼球はせり出していた。どうせ死ぬなら日野に殺されるのが夢だったけれど、どうやら福沢のその夢は叶いそうにない。福沢は日野の革靴が血でゆるんだ土を踏みしめる振動を感じながら、次第に遠くなっていく音に耳を済ませた。砂利と鉄板がこすれる音、血液だまりが揺れる音。日野の呼吸、散らばったレポートを探っているであろう紙がこすれる音。最後の瞬間、福沢は目の前に迫るあの靴底を見た。福沢の信じた神は、やはり最後まで理想の形をしていた。
     頭をつぶされながら言った好きですという音は、日野に届いたのだろうか。
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