小話1 白く煙る視界と、その湯気に混ざって漂うかすかな硫黄の匂い。
それらの発生源である湯に肩先までしっかり浸したまま、四肢を出来るだけ大きく伸ばす。
自宅のバスタブでは絶対に叶わない、温泉ならではの贅沢に自然と首を上向かせた凛は、冷えた身体に巡る血流をさらに感じるられるように深く息を吸った。
そんな凛から少しだけ離れた場所で、パシャリと軽い水音が響く。
ちらりと顔を動かせば、湯が熱かったのか、おっかなびっくりな様子で足先で湯を混ぜてから静かに湯船に滑り込んでくる潔の姿があった。
ほぅ、と緩く吐息を洩らした潔はいつもは下げている前髪を全てかきあげて、いくつになっても変わらぬ滑らかな額をあらわにしている。
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