シャッターチャンスを与えるな 血の気が引く。眼下には送信済の画像があった。そこまではまだいい。すぐに送信を取り消せばまだ取り返しはついた。しかしそんな期待も悲しく、その既読は私が送信した直後につけられてしまっていた。
これはアイメリクに送るつもりなど更々なかったのだ。新しく購入した下着なのだが可愛らしいデザインに感動し、自分で写真を撮っていた。そのまま「似合う?」などと軽く話題に出して軽く流せばよかったものの、考える間もなく着信が入った。
「誰に送るつもりで?」
背筋が凍る。先に嫉妬が芽生えているのは可愛らしいことだが、大の大人の嫉妬は大変可愛らしくない。
「似合う?」
「似合っている。……が、これは私に送るつもりはなかっただろう」
「ああもう、間違えたんだってば。好きなデザインだったから嬉しくなって撮ってたの」
突然悪かったね、と画像を消す。次の瞬間、何かのリンクが貼られた。覗いて見れば下着の通販サイトで、またもや可愛らしい下着がそこに表示されていた。
「これを贈ろう。次はこれを着てくれ」
「いやかわいいけどさ」
「先程のは保存したから問題ない。実際目にする機会を楽しみにはしているがな」
「消してよ」
「断る」
軽快な電子音と共に通話が切られる。アイメリクのことだから見せびらかしたりするようなことはしないが、手元に持たれるのもどうにも気味が悪い。さきほど送られたサイトに再び目を通せば、やはり自分好みのデザインをしていた。私の好みを把握している向こうも向こうで恐ろしい。
そうしてラッピングの施された荷物が届く。レースやフリルが揃ったデザインが顔を覗かせている。……なぜサイズの合ったものが届いたのかは聞かないことにしておこう。
「これも撮ればいいんだっけ? うーん、気が乗らないな」
カメラを自分に構える。ふと、何かを思いついた。モードを録画に切り替えると、改めてカメラを向ける。手を振ったり上からのアングルで撮ってみたりして、見返す。多忙なアイメリクを煽るには十分すぎる材料になった、と我ながら自信を覚えた。
着信が入る。どうせまた保存したとでも言うのだろう。今度ばかりは狼狽える私ではない。
「今から向かう」
「え」
「何かいる物はあるか? 飲み物、菓子……」
「い、忙しいんじゃ……」
「……“構って”をされては行くしかないだろう?」
怒っているのか喜んでいるのかわからない声色でそう告げた。通話を終えると、呆然と部屋にひとり残される。自分は取り返しのつかないことをしてしまったと後悔しながらも、渋々服を着て彼を出迎える準備に取り掛かった。