偶像は羽ばたかない 英雄殿が断れない性格であることは、自分の頭にも入っていたはずなのに。とはいえ、如何なるときも彼女が私の支配下に置かれているなどとは考えていない。気心の知れた仲だとは思っているが、彼女のことを恐れ多く感じて距離を置こうとしてしまう部分はまだ、ほんの少し残っている。
アルコールにより熱を帯びた身体が寝返りを打とうとして藻掻いた。寝室へと歩みを進めながら彼女を抱え直す。首が程よい位置に落ち着いたのか、安心したように大人しくなった。
英雄殿の身体がひとつ落とされたところでベッドは簡単には沈まない。警戒心もなく放り出された足から靴を脱がせ、薄らと傷の浮いた肌はそこから見え隠れしている。
「英雄殿」
「んー……」
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