声入間が妊娠し十月十日、その日はやってきた。
男性にしては小柄な入間は母子共にリスクの少ない帝王切開が行われる事となった。少ないとはいえリスクは、ある。事前に「何かあれば覚悟を決めてください」と医者・看護師に伝えられた。
なにが覚悟だ。俺にも入間にも「覚悟」はある。だが、何かあった際の覚悟ではない。この先の未来、三人で歩む「未来」への覚悟だ。
手術室が始まり一秒一秒がまるで何時間のようにも思える。なにも出来ない自分に腹立たしく思いながらも、祈ることしか出来ない自分に「無力だな・・・」深い溜め息を吐きながら天を仰いだ。
入間の妊娠を知ったあの日を、今でも昨日のように思い出せる。
入間が本当の意味で心の内側に俺を受け入れてくれた日の事を。
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