閉じた家 はいはい、僕しかいませんよー。
葛ノ葉探偵事務所の固定電話が鳴る。事務所で一人待機していた狐は、心の中で軽口を叩きながらデスクの電話を取った。
「お電話ありがとうございます。葛ノ葉探偵事務所、稲荷田です」
大学時代から手伝いをしてきた賜物か、舌の上に乗った言葉が滑らかに出る。
「あの…」
電話の主は小さな女の子だった。探偵業に就いて初めて知ったのだが、未成年からの依頼は珍しいものではない。多くの場合はイジメの証拠集め、友人の人間関係の調査だ。その場合は保護者を依頼人に変更してもらい、引き受ける場合がほとんどだった。
恥ずかしそうな、躊躇うような第一声は緊張のせいだろう。探偵事務所に電話をかけてくる人間は、多くの場合不安で緊張している。この女の子も例に漏れずそうだろうと狐は思った。
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