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    時雨子

    フェリディミ

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    時雨子

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    支部「どうせ誰も〜」のフェリは踊り子になってるし剣舞も上手い…という脳内設定が蛇足のためカットされてる。
    作者的に踊り子といえばサロメなのでそういう…のはずが雰囲気的に結婚初夜みたい事し始めた

    ◆我が愛しのオムファタール


    視線を感じる。大広間の最も奥で玉座に座して冠を戴く自分へ。
    居並ぶ諸侯から、王城を食い荒らし腐敗させる輩から。
    無遠慮に品定めされるような、媚びへつらうような視線には慣れている。この者たちが見ているのは冠か、外套にあしらわれた紋章か、それとも背後の大司教か。
    利権、派閥、搾取、謀略。
    くだらない連中にはうんざりしている。だが、この倦んだ空気が、待ち望んでいた清涼な音で切り裂かれた。

    ――しゃん、しゃん、しゃらん。

    それは、玉座までの長い絨毯を、堂々たる足取りで進んでくる。
    繊細な金属の飾りが涼やかに音を立て、薄い紗をサラサラとはためかせ。常と異なり頭上高くで一つ括りに縛られた髪がふわりと広がる。
    両手に握るは蘇芳と淡青の宝玉が連なる一対の美しい双剣。広間の中心で立ち止まると同時に、それが手の上で舞った。
    濃紺の艶やかな髪を靡かせ軽やかに剣舞を演じるは、王家へ代々忠義を捧げる公爵家嫡子。此度の即位式に新王へ捧げる演目――肩書きは、そうだ。
    抜き放たれた鋼が造作も無く流麗な線を描き、室内の明かりを受けて煌めく。剣舞のために用意されたそれは戦場で人を斬るための剣よりは切れ味が悪いだろう。しかしあのような速さで舞う刃が、激しく翻る装束を裂き、たなびく髪を断ち、剥き出しの白い腕を傷つけないないとも限らない。
    にも関わらず男の顔は完全に凪いでいる。一切の恐れも迷いも無い。剣は、この男の身体の一部も同然だからだ。鈍く光る固い鋼がまるで蛇かのように身体に絡みつきながらも、それを容易くいなしている。この男にかかればその刃の牙を剥かせ瞬きをする間に血飛沫を上げさせ、この場にいる幾人もの命を奪うことさえ容易なのだろう。それを承知で帯剣を許可したのは、王位についた自分自身にほかならない。

    思考を邪魔するように、至る方向から囁き声がさざ波のようにざわめいた。

    さすが、フラルダリウスの嫡子。武芸にかけては右に出る者はいないな
    騎士ならば槍術の方はどうなのだ。長子は槍術に秀でていたと聞いたが
    ああ、ダスカーで犠牲となった、あの。十五で騎士の叙任を受けていたらしいな。残念なことだ
    決して劣るということはないだろう、大紋章持ちだぞ
    だが目立った武勲も何もない。まだあのように年若い者が、
    しかし見てみろ、あの美しさを。剣舞の巧みさもあるが――


    ……ああ、やはり煩くて敵わない。

    最後、双剣が中空へ放られ、誰もがそれに視線を奪われる。広間の灯りを受けて嵌め込まれた蘇芳と青の宝玉が煌めく。回転する刃には、ヒヤリとする者も多かっただろう。しかしその下で直立する男は無関心とも思えるほど表情が無く、剣を一瞥もしない。
    そのまま柄が吸い込まれるようにして両手に収まる。流れるような優雅な所作で静かに鞘に収める様子に、誰もが魅入っていた。

    シン、と静まりかえる広間の注目を集めるようにして両手を打ち、立ち上がった。
    「見事だ、フェリクス」
    途端、拍手が沸き起こる。その中心で歩み寄る自分を跪いて待ち受けるフェリクスは、相変わらず少しも動ずる様子はない。それどころか、激しい剣舞を演じたというのに息ひとつ乱していない。
    「今日はよく来てくれた。幼き頃より友誼を交わしたお前が、こうして即位のこの日にも変わらず馳せ参じてくれることはなんと感慨深いことか」
    わざと大声で、皆に聞こえるように言った。面をあげたフェリクスの表情には不機嫌そうな色が一瞬走ったが、すぐに意図を察してくれたらしい。跪いたまますぐに臣下の礼を取り、常よりも幾分か声を張って応えた。
    「いいえ、陛下。我がフラルダリウス家の忠義にかけて、そのようなことは当然と言えましょう」
    「それにしてもお前の剣技は舞踊に於いてでさえも冴え渡っている。心強いものだ」
    「過分な評価にございます。しかし陛下の剣としてお使いいただけるのであればこれほど光栄なことはございません」
    「それこそ、この身に余るというものだ。お前のような者を得て、まさしく幸運と言えよう。……ロドリグ。お前も久しいな」
    「陛下。そうお呼び出来る日を待ち望んでおりました」
    後方にいるロドリグも同じく膝を折っている。周囲から突き刺さる視線を涼しい顔で受け流す様子は、流石この国の公爵に相応しく泰然とした優雅な立ち振る舞いだ。しかし、フェリクスのそれとは違う紺碧に瞳には心配と、問うような表情が微かに揺れる。
    それに瞬きひとつで返して、口を開いた。
    「ああ、お前にはまた改めて時間をもらいたいが……今宵、これからはお前の息子を借りていいだろうか。数節ぶりの親友との再会だからな」
    ロドリグにはどのぐらい悟られているのだろうか。フェリクスとの関係を。フェリクスがあけすけに話すとは考えづらい。しかし、推し量るように視線を返せば、優しく許容するように細められた。
    「愚息で宜しければ、なんなりと」
    礼儀正しくも、どこか慈しみが微かに混じる柔らかい笑みが形作られた。少なくとも、修復したように見える息子との仲を察して安堵しているのだろう。伏せられた部分へ疾しさ感じないと言ったら嘘になる。だが、どうあろうとフェリクスを手放せないこともまた事実だ。
    「礼を言う。……皆、ここにいる者全員も、我がファーガスの栄えある国儀に参じてくれたことに感謝を。何より、この冠を授けていただきましたレア大司教。神聖王国の名に置いて、我が父の槍に懸けて我が国は教会と共に歩むことを誓いましょう」
    周囲をぐるりと見渡す。レア大司教、セテス殿、王直轄領の司教殿。王城の大臣たち、ゴーティエ辺境伯、カロン伯、ガラテア伯。ローべ伯、クレイマン子爵、ドミニク男爵。更に多くの王国小領主、レスター諸侯同盟からの使者。そして、魔導士コルネリア。
    折角の祝宴だ。皆は引き続き楽しむといい、表向きはそう言って軽く挨拶を済ませた。いつかフェリクスの言ったような"気味の悪い笑顔"を彼らに向けて。だが、跪いたフェリクスから突き刺さる視線には嫌悪は感じられず、ただ首元に剣を突きつけるような鋭さがある。それが無性に心地良くて、こっそりと熱を忍ばせて見つめ返した。


    黙って付き従うフェリクスを王の部屋に連れ込んで。何くれと軽食やら身支度やらに構おうとする侍従へ適当な理由をつけて追い払い。
    そしてようやく扉が閉まる。二人きり、もう誰もいない。冠を外し、念のために鍵をかけようと立ち上がった。しかし、後ろから伸びてきた手が自分の手を追い越してカチリとその部屋を完全に閉ざす。
    「ディミトリ」
    首筋に唇が触れそうな距離でフェリクスが囁く。ここに来るまでに一言も喋らなかった男の、待ち望んでいた声だ。期待を込めて振り返れば、それを正確に汲んだフェリクスが性急な動作で首に腕を絡めてくる。開いてしまった身長差の距離がもどかしくて、しかし何も言わずとも示し合わせたように唇を押し付けあえば、もうその感触を堪能することに夢中になった。
    「ンッ、……ふ」
    背中から腰へ手を滑らせて掻き抱く。いつもよりも素肌が露出している踊り子の衣装が乱れて目に毒だ。もしこの光景を覗く者がいたらならば、見目の良い踊り子を手篭めにし、色に溺れる王にでも見えるのだろうか。
    だが、実際はその踊り子の方にこれから身体を隅々まで暴かれるのだ。露骨に性的な意図を持って指先が耳朶を滑り首筋を撫で、そのまま重苦しい外套を落とす。不埒な手にそのまま腰を撫で上げられながら、扉とフェリクスの身体に挟まれ、追い詰められる。
    自分の怪力を以ってすれば男一人突き飛ばすことなど容易だ。しかし、この男に無抵抗に身を任せるのが気持ちよくてたまらない。そんな浅ましい劣情を知っていて、こんな振る舞いをしてくれるのかも分からない。
    仮にそうだとしても構わない。だって、剣舞の直後でさえ平然としてた呼気が、興奮で乱れている。獲物を捕食する狼のようにギラギラと煌めく蘇芳の瞳に孕む欲は、本物だ。
    そうだ。この目だ。見られるならば、この目が良い。この、脳髄まで貫くような視線に灼かれたい。
    差し入れられた熱い舌に応えるように自分のそれを擦り寄せ、唾液を啜る。どちらのものとも分からなくなった液体をごくりと喉を鳴らして飲み込めば、フェリクスの唇が挑発的に弧を描く。そのまま誘うように舌に吸いつかれ、同じく唾液を飲ませてやろうと覆い被さった。
    しかし顔を上向きに固定しようと火照った首筋を指でなぞれば、無粋な冷たい金属が指にあたった。首飾りだ。まるで、首輪のような銀の飾りが白い首にぴたりと嵌るように付けられている。先ほどからも衣服のそこかしこに連なった飾りがシャラシャラと耳につく。なんとなくそれが気に入らず、口付けを中断した。
    「っはぁ、……煩わしいな、これは」
    「元はと言えばお前のせいだしお前のためだが」
    まさしくその通り、士官学校の頃に半ば無理矢理に白鷺杯に出場させて踊り子にしたのも、今日この日に剣舞を舞わせたのも全て自分のためだ。
    白鷺杯は押し付けてしまったことには申し訳なく思っていたし、フェリクスの方も嫌々引き受けたことを隠そうともしていなかった。しかし、驚いたことにフェリクスは優勝を勝ち取った。確かに美しい身のこなしをすることは大いに同意するところではあるが、あくまでそれは武人としての評価だ。まさか舞踏の場でもそれが発揮されるとは思いもよらなかった。
    結果、今のフェリクスは歩兵ばかりか踊り子としても出陣することが可能だ。フェリクス自身でも理解不能だと言う顔をしているし不本意そうではあるが。
    今日わざわざ面倒をかけたのは、国の重鎮から小領主まで集まる中、その秀でた剣技を喧伝させる目的があった。その公爵家嫡子が幼少のみぎりより今に続いて王と懇意であるということも。
    ダスカーの事件以降、ロドリグ共々フェリクスの訪問はほとんど途絶えていたのだから、今やその存在感は薄い。そして、ここ王城でドゥドゥー以外に味方と呼べる者はいなく、王子でありながら権力は無いも同然だった。しかし、自分が王位に就いた以上はようやく自ら采配が取れる。本当に信の置ける者を自ら選び重用し、国政を――そして戦の、ひいてはあの女の首級を上げの皆の無念を晴らすための準備を執り行うことが出来る。
    前摂政リュファス叔父上にたかり甘い汁を吸っていた連中は、未だ多く王城へ蔓延っている。若造、青二才と舐められ、傀儡の王にせんと矛先が自分に向かないとも限らない。
    これからのファーガスに、目先の利益と私腹を肥やすことしか頭に無いような愚か者は要らない。だが、そんな奴らでも利用し活用せねばならない。
    かねてより王家との結びつきが深い公爵家フラルダリウスを改めて目立たせたのは、様子見に過ぎない。いずれ早いうちに顕示せねばならないだろう。俺は既に忠実なる臣を従える王なのだと。
    だが、着飾るフェリクスに衆目を浴びせさせたのは自分だというのに、思った以上に不愉快なものであることを自覚した。
    「おい、これはどうやったら外せるんだ」
    首飾りを弄りながら文句を言う。まるで子供の我儘にも等しい感情は的確に汲み取られ、目の前の男が嗤う。
    「気に入らないか?」
    「ああ、気に入らないな。なあ、剣舞を捧げてくれている間、お前の噂が聞こえてきたよ」
    今更、誤魔化しも取り繕いも必要ない。この男の前に限っては。そう開き直って嫌悪を露わにすれば、フェリクスは面白そうに片眉を上げた。
    「フン、あの喧しい奴らか。まったく、今の王城はくだらん連中ばかりが蔓延っているな」
    「着飾り、ただ人に見せるだけの剣を見てああだこうだと」
    「今日、わざわざそんなことをさせたのはお前だろうが」
    少し声に呆れが入るが、それには構うことなく首飾りの先を辿る。すると、首の後ろで留め金らしき感触に当たった。
    「それこそ元はといえばお前とロドリグがしばらく城に出入りしていなかったからだ。お前たちにはこれから働いて貰わねばならない。お前が王たる俺にとってどれほどの存在であるか見せておきたかった」
    「ああ、分かっている」
    宝飾の類は好まない。留め金を触ってみても外れる仕組みは知らない。……ああ、無性に苛立つ。
    「だが、いざ見せてみれば不快なものだな。あの者たちはお前の真価など分かっていない。お前はこのように飾りたてずとも、」
    フェリクスの首に巻きつく銀の飾りの留め金が、パキリと音を立てて砕ける。そのまま滑り落ちるのに構わず、剥き出しの腕に手を滑らせて引き上げ、手首に口付けを落とした。
    「その剣技ひとつだけで、 何に於いても代え難いというのに」
    フェリクスは返事を返さない。しばし、無言が続いた。数秒だったかも知れないしもっと経っていたかも知れない。不安になって顔を上げて様子を窺うと、驚いたような、少しあどけなくも見える表情をしていた。
    しかし、視線に気づいたフェリクスはすぐに皮肉げに唇を歪める。
    「馬鹿力め」
    「……すまない」
    ハッとして思わず謝罪をしてしまった。いや、謝罪はすべきなのだが、気持ちが煮えきらず、持て余している。
    少し妙になってしまった空気を流すようにフェリクスが腕を組んで鼻を鳴らす。
    「フン、首飾りのひとつやふたつでも寄越せば、お前の望む通りにつけてやろうか」
    「断る。そんなもの要らないと言っただろう」
    独占欲、所有欲。そんな自分の欲を見越した提案だろう。しかし、そうではない。そのような表面的なものでこの欲は満たされない。
    衝動的にフェリクスの肩を掴んで、強引に立ち位置を逆転させた。そうだ。この煮え切らない気持ちは、お前に分かって欲しいのは、
    「お前の剣は。……いいや。お前は、俺のものだ。お前に否は言わせない」
    そうして先刻とは逆にフェリクスの方を扉に押し付ける。ああ、言ってしまった。でもとっくに後戻りなんて出来ないのだから、同じことだ。フェリクスはそんな自分勝手な振る舞いに、うってかわって真剣な眼差しで見定めるように目を合わせる。
    「ッ、……こんな俺を、恨むか?」
    しかし、情けなく震えてしまった自分の声へ、フェリクスは微かにその目に優しさを滲ませた。
    「ハッ。お前はまだ馬鹿なことを考えているな。だが、数節前より随分とましな顔をするようになった」
    フェリクスが手を取って戯れのように指先へ口付け、指と指を絡めて歩き出す。その足の向かう先は、寝室だ。
    「喜べ。俺も、俺の運命も、生まれる前からお前のものだ」
    所有権はお前にあると言うくせに、随分と傲岸不遜にものを言う。それが不思議と好ましい。
    手を引かれながら、石造りの床からカシャン、カシャンと音が聞こえた。目線を下に向ければその足取りを辿るようにして様々な意匠を象った飾りが無造作に散らばっている。鬱陶しく身に纏う装飾を、器用にも片手で自ら外し、放っているのだ。
    「……お前の意思は。望みは」
    緩慢な足取りに焦れて、もつれこむように寝台へ引き入れる。馬乗りでドサリと跨ってきたフェリクスは、その切れ長の瞳をニンマリと細めた。
    「ほう、寛大なる国王陛下は我が望みを聞き入れてくれると?」
    「フェリクス」
    「フン。……剣は未来を切り拓くもの。そうだったな」
    最後に残った飾り――髪飾りが外され、ぱさりと濃紺の髪が広がる。その艶やかさに見惚れていると、フェリクスが覆い被さってきて長く垂れ下がる夜闇色に閉じ込められた。
    「ああ」
    「ならばお前の未来。運命。拓く剣は俺にしろ」
    言いながら、腰に佩いた双剣を鞘ごと胸に押し付けてくる。
    そのまま剣の柄に嵌った青い宝玉に口付けを落とし、胸から喉元、首筋へと唇が這う。
    「誓え」
    最後に行き着いた耳朶に唇が擦り、鼓膜に直接注ぎ込まれる低音にゾクリとした。
    答えなど、ひとつしかない。
    「……誓う。お前が俺にその運命を預けてくれる限り、いつ如何なる時もお前は俺の剣だ」
    もう片方、蘇芳が嵌め込まれた方の剣をフェリクスに握らせ、指先に唇を寄せる。
    口付けながら視線を上げると、フェリクスが満足げに笑んでいた。
    「安心しろ。俺の運命はお前と共にある。この命尽きるまで、永久に」
    欲に濡れた視線が交差する。それを合図に、もはや言葉もなくして唇を重ねた。互いに剣を置いて、更に肢体を絡ませる。

    これは誓いの口付けだ。舌をねっとりと舐め合って行儀悪く互いを貪るこの行為は、ちっとも神聖なものではない。だが、俺たち二人には相応しい。
    女神でも、この身に流れる血でもなく、ただ目の前の運命に誓うのだから。



    2020/11/28
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    km64_lf

    DONEレノフィが膝枕してるところに晶くんが通りがかるだけのはなしです。
    謎時空。
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