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    時雨子

    フェリディミ

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    時雨子

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    酔っ払いながらいちゃついてほしいな~と次の話を練り練りしてたけど時間設定を昼にしたせいで二人が昼から泥酔しなくない?昼からエロいことはしてほしいが!という謎判定が出た。酒の話だけ短くまとめよう。酒の話書くの何回目?お酒はそこそこ好きです。
    この二人付き合ってないのにこんなイチャイチャする

    一個前の漫画スタンプいっぱい来てる?ありがとうとざいます!


    男の膝の上に座らされているこの絵面を誰かに見られたらと思うと不本意極まり無いが、生憎と誰にも見られる心配は無いこのディミトリの私室で、離れる理由を見つけられない。
    長椅子に座っていると言えど、横抱きのような姿勢で抱えられている。他の誰かが相手であれば屈辱に怒り降ろせと暴れただろう。だが、ことディミトリに関して自分の感覚はどうにもおかしいらしい。やはり嫌か、と寂しげな表情を向けられてしまえばつい舌打ち一つで容認して、浮かれた能天気な顔を見ていれば自分の矜持など取るに足らないもののように思う。


    部屋に漂う酒精の香りと窓から差し込む月の光でとろりと蕩けた薄青は、神秘的な湖を思わせる。片方だけ残った瞳は先ほどからずっと飽きもせず見つめてくる。
    それが慈愛からか他の何かからなのか。愛しげに細められたその瞳に、僅かかばかり癇に障る感覚と、それを上回る諦めにも近い感情が胸の中に渦巻いた。自分自身どうかと思う甘ったるさを纏っているそれを、今日は抑えずにいるのは、ただこの空気に流されているだけだ。服を隔てても伝わる互いの体温と、夜の帳が静かに下りてこの世界に二人きりでいるような、そんな空気に。
    どのくらい時間が経ったのかも分からないが、飽きもせず見つめ返している自分も大概なのだろうと頭の片隅で呆れた声が聞こえる気がする。しかし、いかんせん酒で鈍った感覚では、その声が意識に浮上するより前に目の前の男の一挙一動、発する声に気を取られて上書きされていく。
    「フェリクス、フェリクス」
    「……どうした?」
    「もっと俺に甘えてくれ」
    「…………」
    ニコニコと邪気無く告げられ、ため息をついた。
    共に酒を飲むのは初めてでは無い。酒に弱い様子も見せていた記憶は無い。だが、その時にディミトリが普段と変わらないように見えたのは周囲の目があったからなのか、それとも飲む量を調節していたのか。
    ともかく、ただ気持ちよく酔って体面も気にせずに行儀悪くだらだらと晩酌をすることは、これが初めてだったのだろうか。長椅子にだらしなくもたれかかり、俺の体を引きずるようにしてその膝の上に乗せようとした時、ようやく深酒をしていることに気付いた。
    「何を期待しているか知らんがお前の好きにしろ……」
    兄ぶっているのかなんだか知らんが、やたらと甘い顔をされると居心地が悪い。実のところ兄上にそんな扱いを受けたことなど無いのだから、自分が考える兄とは根本から違う気がする。シルヴァンの奴も兄貴分を気取ってはいるが、どこか決定的に違う。だから、そのような振る舞いをされてもどうしてやったらいいのか分からない。
    しかし、能天気に甘やかそうと構ってくるのは――たとえそれが的外れとしか言いようの無い頓珍漢で妙な方向であったとしても――気分を害するものでは無く。好きに、満足するまでこの腕の中に収まっているのも悪くないと思うのは、随分と絆され流されているのだろう。
    ところがそんな葛藤を余所に、ディミトリは俺の態度があまりお気に召さないようだ。
    「分からないやつだな、お前の好きに甘えてくれていいと言っているのに」
    頭には大きな手の平が押し付けられて、ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱されている。
    「ほら、遠慮はいらないぞ」
    酔っ払いの加減の効かない動作では、きっとぼさぼさになっていることだろう。それを見ておかしそうにクスクスと笑うのだから、本当に手に負えない。
    甘える、というなら物理的な手段として抱きつきでもしたらいいのだろうか。それは既に強制的にやらされている。では何か甘えた言葉でも吐けばいいのか。そんなものを吐きたくも無いという以前に、全く思いつかない。幼く未熟な自分は素直だっただの純真だっただのと評されるが、遙か昔に記憶の隅へ追いやってしまった。甘えろと言われてもそのような行為を不要と断じて久しい。
    「大体な、俺のような可愛げの無い男を捕まえて甘えてほしいなど何を想像しているのだ」
    万策尽きて問いかけてやれば、何を言っているんだとでも言うように眉を顰められた。
    「お前は可愛い」
    ――お前こそ何を言っているんだ。
    「お前の感覚はおかしい」
    それを言うなら今のお前の方が愛らしい、などと血迷った言葉はすんでのところで呑み込んだ。酒で顔を真っ赤にさせていじけたように唇を尖らせ、上目遣いで見つめられているのだとしても相手は猪だ。仕草が多少フラフラとしていて、あどけなさがあったとしても筋骨隆々で堂々たる体躯を誇り自分より頭一つ分は背の高い大男だ。
    その大男は、俺の頭を胸に抱きこんで獣がじゃれるように頭を頬ずりしてくる。
    「なんだ、昔は何をするにも俺と一緒が良いと言ってくれたのに」
    「またその話か。今の俺がそんなことを言うと思うのか?」
    「……もう、そう思ってくれないのか?俺と一緒は嫌なのか?」
    段々と威圧的な口調になってきている。が、酒精で緩んだ声音では怖くも何ともない。
    「何を馬鹿な」
    嫌ならばそもそも酒にもこんなじゃれあいにも応じているわけが無い。仕方なく背中に手を差し込んでゆるく抱き締めてやるが、それだけでは大人しくなってくれず、よく分からない唸り声を上げている。本当に獣か何かなのかお前は。
    「俺はあの頃結構傷ついたぞ」
    「は?」
    あの頃とは、どの頃だ。話の流れが突拍子も無い。
    「お前が、修道院の厩舎の雑用も草むしりも俺とするのを嫌そうな顔をするから」
    「傷ついたようには見えなかったが?」
    その程度でこの猪が俺に対してそんな繊細さを発揮するようには思えない。しかしディミトリは俺の頭を掴んで頭突きを仕掛けた。おそらく額を合わせたかっただけなのだろうが、酒で勢い余ったのだろう。
    「っっだ、おい!」
    頭がぐらぐらとして目の前が揺れる。だが思わず上げた抗議の声がまるで聞こえていないような素振りでディミトリが高らかに言い募る。
    「いいや傷ついた!お前は俺がお前をどう思っているのかちっとも理解していない。どうしてそんなに鈍いんだ。俺のことを一番よく分かっている癖に!」
    すっかり機嫌を損ねたディミトリの主張は、ただ売り言葉に買い言葉なのかそれとも何が意図があるのか読み取るのは難しい。そも、酔っ払い相手に酔っ払った頭で対応しようなどということ自体が不毛に違いない。
    理解しているも何も、ただ慕わしいと感じているだけだろう。いっそ愚かなほどに好意をあらわにして無条件に懐かれたら、誰だって庇護欲なようなものは生まれるのだろう。全く。守ってやりたいのはこちらの方だというのに。
    ともかく、対等な友人と成り得た存在が幼く未熟な俺だった。俺だけ、だった。
    ……そう思うなら、言ってやってもいいのか?ディミトリと一緒でなければ嫌だ、と。
    不意に、酷い気の迷いとしか思えないような衝動が沸き起こった。一緒が良いとか悪いとか以前の問題として、叶わぬ望みは口にしないというだけだ。どうせ酔っ払いの戯言に過ぎない。仮に明日覚えていたとしてもシルヴァンなどとは違ってディミトリはそういうことを引き合いにして後々に揶揄うような真似はしない。
    いや、言いふらすか。先生あたりにやたら自慢気に話していたのは正直言って理解不能であった。だが、強欲な本性に反して日頃は抑制的に振る舞うこいつの何かを満たしてやれるなら、それでも良いような気がする。
    結論が出れば行動に出るのみ。しかし、それは敢え無く不発に終わってしまった。
    「ふぇ、り……く……」
    取り留めも無く黙々と考えこんでいたら肩に重いものがのしかかっていた。顔を向けた先には、この頃になって漸く手入れされるようになった金糸が迫ってきている。
    「……おい、ディミトリ?」
    「…………」
    重苦しい体は完全に脱力している。腹に力を込めて押しのけ、頭をそっと持ち上げれば、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てる腑抜けた顔があった。

    ***
    ディミトリの体を抱え上げて、寝室まで運んでやる。静かに寝台に横たわらせてやれば、相変わらず穏やかに寝息を立てていた。せっかく人が、という文句はその顔を拝めたことで帳消しにしてしまうしかない。それでもやはり、安堵とも落胆とも付かない感情を持て余す。
    先ほど、自分は結局どう言いたかったのだろうか。
    衣服を緩めて、眼帯を外して、布団をかけてやる。天蓋の幕を引いてやれば、この中での言葉も行動も誰にも知られないような不思議な感覚に陥った。
    何をするにもディミトリと一緒にしたいとは思わない。けれど――
    「ずっとお前の近くで、お前を想っていられたら、俺はそれでいい」
    気付けばそんな言葉がこぼれ落ちて額に口付けを落としていた。そのままじっとしていると、なんだかもうここで共に寝入ってしまってもいいかと思えてきた。
    一緒に寝る、というのは甘えるの範疇に入るのだろうか。まあ許してくれるだろう、そんなことぐらいは。

    そんな能天気なことを考えながら、いっそ開き直って今度は痛ましい傷跡の残る右の瞼に慈しみを込めて口付けた。
    ――その下で、先ほどの俺の声に目を覚ましていたディミトリが耳まで赤く染めあげているとも知らずに。


    2021/02/11
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