Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    時雨子

    フェリディミ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐺 ⚔ 🐗 💙
    POIPOI 98

    時雨子

    ☆quiet follow

    遡って見てくれた方がいらしたのかしら~ありがとうございます~
    もちろんいつも見に来てくれてる?方々?も!

    サントラの「ガルグ=マク大修道院の日常」をアラーム設定にしてから目覚めが最高なんですが二度寝はします(いつもそう)
    春眠暁を覚えず…あと5年寝たい。
    眠いから睡眠の話とか安直なネタ出しよくするけど内容は全然実体験を直接ネタにしてない


    修道院の鐘の音が聞こえて、どれくらいの時間が経っただろうか。
    眩しい。ほとんど動かせない頭の角度を僅かに変えて目線を動かすと、修道院の石造りの窓から光が差し込んでいるのが目の端に写った。
    ああ、微かに階下からの喧噪も聞こえる。下働きとして働いてくれている者たちはもちろん、軍の皆も起きだしている頃だろう。保護した戦災孤児の跳ねるような高い声に、修道士達の静かな話し声、せわしない足音と、見回りをする飛竜や天馬の羽ばたく音。今日の食堂の当番は誰なのだろうか。炊事も、洗濯も、掃除も。その他にも様々な雑務の工面を先生やセテス殿を取り纏めとしてやってくれているのだろう。
    俺も、先生やギュスタヴに殆ど丸投げしていた軍の管理やら資金やらの仕事を引き取ってやらねばならない。
    この数節、そういった日々の営みから目を背けてきた。獣と変わりない生活をしてきて、王子でも何でもなくなった己には不要だった。
    ――それでも、軍の旗印に祭り上げられたのは、皆に悪意あってのことでは無い。こんな俺でも王子の役目を求めて縋りたくなるのは仕方がなく、他にあても無かった。この身に相応しくない期待であることは誰の目にも明らかであり、自らが一番よく知っており、しかしそれを認めてしまえば見出した希望を叩き壊さなくてはいけないのだから。
    だが、不甲斐なく愚かな俺を遠巻きにする皆から抜けだして、真剣に見つめる視線があった。
    最後に会った時は忌々しげに目線を逸らされ。再会した後は後方から刺すように。そしてそれは次第に片目を喪っている俺の視界に入るように踏み込んで。
    正気を失った獣だと罵りながら、その獣の中に人の心を見出し引き留めようと必死に足掻いていたのだろうか。きっとそうなのだろう。酷く不器用で、頑固で諦めが悪く、結局誰よりも俺のことを思ってくれる男だ。今ならばそれを心から理解していると信じられる。

    はずなのだが。

    その男は今、俺の背中に引っ付いて腹に腕を回し、がっちりと体を拘束している。
    お前の願う通りに人の営みに戻ろうという時に、他ならぬお前が引き留めるのは一体どういう了見なのか。

    「フェリクス……その……離してくれないか」
    とっくに起きている気配はあるし、力づくで引き剥がすことは容易い。だが、幼い頃ならばいざ知らず、成人を迎えて既に数年経過している男相手に子供のように背中に抱きついているというこの状況はなんなのだろうか。寝起きの頭がついて来ていない。
    確か昨日はフェリクスの部屋で現状の軍備について話をしていた。フェリクスの肩に顎を乗せて一緒に書類を見ていたはずだが、そのうち心地よいリズムで優しく背中を叩かれるのに誘われて意識を手放した、ような気がする。
    だとしたら俺はまだ夢を見ているのだろうか。願望なのか。俺はそんなにフェリクスに対して昔のように甘えてほしいと思っているのか。幾年にも渡って毎日見続けていた悪夢でないのは有難いが、こんなことでいいのか俺は。
    益体も無い思考がぐるぐる回るが、しかしそれは全て無意味なものだった。寝間着越しに伝わる体温と首筋にあたる生暖かい呼気が、夢ではないことをありありと物語っているのだ。
    「……邪魔をするな。俺は今寝ている」
    更に畳みかけるように、一欠片の可愛げもない唸るような低く掠れた声が聞こえた。うん、そうだな。理解しがたいことだが、これは現実のフェリクスだ。日が高く昇る時間まで寝台で惰眠を貪ることも、自分に抱きついて離さないことも全くもってこの男に似つかわしくないことだが。
    「起きてるだろう。大体な、朝寝などお前らしくも無い」
    空が白み始めたばかりのような朝早くに起きて鍛錬に行く習慣は幼少の頃から変わらない。それがどうしてこんな時間まで寝台で俺にしがみ付いているのだろうか。やはり力づくでも腕を外してやろうか、しかしこの男が本気で抵抗すれば腕の骨を折るまでに発展しかねない。
    そうして次の行動に迷っているうちに、フェリクスは心底不本意そうに、且つ諦めたように鼻を鳴らした。
    「フン、つべこべ言わずに俺に付き合って寝ていろ」
    「もう朝だぞ。鍛錬はいいのか」
    「お前の知ったことでは無い。俺の睡眠の邪魔をするな」
    「邪魔はしないから離してくれないか」
    「なんでもお前と一緒が良いと言う俺が好きなのだろう?ほら、お望み通りだ」
    「おいフェリクス」
    「ああもう黙れ、寝るぞ」
    不愛想な言葉とは裏腹に更にぎゅうっと抱き締められて思わず絆されそうになる。別にそんなことを言ってくれなくても、俺はいつまでも心のどこかでお前を可愛く思っているだろう。そのことを分かっているのだろうか。
    大人しく可愛がられるだけの男でもない。兄に引けを取らない立派な武人に成長した。一人の人間として尊重に値するとは十分すぎるくらいに認めている。それでもやはり変わらないのは、不思議なことなのかもしれない。
    更に困ったことには、非常に心地良い。幼馴染との添い寝に安心感を覚えるなど年甲斐も無いことだが、自分を絶対に害することのない存在の腕の中で自堕落な眠りに誘われるのは、抗いがたいものであった。
    「あのな、フェリクス。俺にはやることが、」
    だからこそ誘惑に屈しないように、聞き分けの無い子供を宥めるように諭そうとした。だが、それは途中で遮られた。
    「無いぞ」
    「は?」
    「今日一日はお前は要らん」
    「どういうことだ」
    「言っておくが先生に頼まれただけだ。それと、昼にはその散々放置した怪我を診せに行く」
    そう言ったきり、フェリクスは会話を拒むように肩口に顔を埋めた。サラサラとした髪の毛が首筋を滑っていく。
    説明が少なすぎる。自分も人のことは言えないが、フェリクスは口下手な奴だ。必要最低限しか言わない。無駄が無く簡明で率直な言葉はフェリクス自身の在り方に等しいのと同時に、ひとたび行き違いがあればそれを汲み取ることは難しい。
    しかし、フェリクスの真意を読み取ってやりたい。だから、寝ぼけた頭を懸命に巡らせて、慎重に言葉を選んだ。
    「……つまり、今は休めと?」
    お前が俺の身を案じてくれているのも、かねてより先生を通して俺を気遣ってくれているのも察している。だが、本人の口から認めさせようと迫ることに意味は無い。癇に障ったから、倒れられては困るから、などと。それらは全て同義なのだから。お前が自分の行動をひねくれた捉え方をして口悪く言い表しているだけで。
    だからこちらも端的な言葉で十分だ。お前が俺に休んでほしいと思っている。たとえ先生に頼まれたとしても、日課の鍛錬を放り出して大の男の添い寝をしてやるなど、相手が俺でなければ不快そうに鼻を鳴らして一蹴しただろうに。
    「それ以外の何がある」
    淡々とした不遜な物言いと、行動が一致していない。素直でなくて、とても素直だ。そう思えば意地を張る理由も分からなくて、少し笑いがこみ上げてしまった。
    「……ふ、はいはいそうだな。俺の物分かりが悪かった」
    「……分かったらその口を閉じて目を瞑れ」
    早々に折れてやったことに意表を突かれたのか、聞こえる声色は少々歯切れが悪い。少し乱雑に掛布を引っ張られて、バサリと頭から被せさせられたのは、それを誤魔化すためだろうか。隙間から日の光が僅かに差し込むが、それすらも優しく瞼に覆い被さった手のひらに遮られ、暖かな暗闇に包まれる。

    不意に、形容しがたい衝動が沸き起こった。その所作のひとつひとつ、指先の感触と手のひらの温度に。ほんの一瞬、自分の心臓がトクンと脈打つのが嫌に生々しく感じられ、じわりと余韻を残しながら落ち着いていく。
    変に思われたりしていないだろうかとも思ったが、背中から伝わるフェリクスの鼓動も体温もさして動揺している様子が無い。
    それを少しばかり残念に思うのと同時に、何が残念だというのかと疑問を覚える。だが、ふわふわと浮かんでは消える雑念は全て、押し寄せる微睡みに吞まれていく。
    窓から届く喧噪が遠くなっていく。数刻もしたら、そこへ戻る。この男と共に。
    けれど、今ひとときばかり。心地よく閉ざされた眠りへ、二人一緒に。

    2021/03/28
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😇😇😇😇😇😇💒💒💒💒💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works