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    時雨子

    フェリディミ

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    時雨子

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    時々、遡ってスタンプいただいているなあ(ありがとうございます)
    FEHの二人旅出た時にヒッてなりました 待って、自分で書くから、待って…。
    雪だるま作るやつ好き

    書いてる翠風の二人旅話は終わりまでの見通しついたけど先週思いついた展開に自分でショック受けて筆が重い

    蒼月の二人旅(付き合ってる)失われた子供時代、というのは否定は出来ない。
    しかし、それを取り戻すかのように時折見せる無邪気な顔は、自分の前限りにして欲しい。
    それは親友であり臣下としての諫言めいたものであろうか、それとも恋い慕い執着する相手への独占欲なのだろうか。

    「何をしているんだ、お前は」
    ファーガスのとある小さな街の宿屋。非常に庶民的なその建物の二階の窓から庭先を見下ろすと、雪玉をせっせと転がして巨大化している姿が目に入った。
    その自分の身の丈ほどもあろうかという雪玉、いや岩か何かで表現した方が良さそうな大きさからはそっと目線を外して声をかければ、金色の小さな頭がふわりと揺れた。
    「フェリクス!お前も早く来い!」
    振り仰いだディミトリの頭にはらはらと粉雪が降りかかる。金に吸い込まれるようにして溶け、冬晴れの陽光がきらりと閃いた。

    鼻まで赤くした、フォドラで至上の地位に就く男は視線の先に俺の姿を認めると、パっと顔を輝かせてどこか自慢げに雪玉、いや雪岩とでも称することになりそうな代物を量産しようとしていた。



    国内の街道の整備が竣工した頃、実際に民にとって有用なものであるのか、特に冬には不便を強いる北方の地域の視察――と称して国王の余暇を兼ねた小旅行をしていた。
    所謂お忍びである。思うに、ディミトリは民らと親しみを得て、混じりたがるのが過ぎる。
    無論、戦乱とは程遠い市井の中においては善良で人あたりの良い男であり、穏やかな空気の中で能天気な表情を振りまいている姿を傍から眺めるのは悪くない時間だ。
    だが、民の中には善良な者ばかりではなく、身分を隠していても高貴な生まれであることは十人中十人が察する。悪人とは言わずとも良からぬ考えを持つ人間もいるだろうに、どうにもこの男の目には民は概ね善人に写るらしい。


    「女将が雪かきに困っていてな。だが、全部片づけてしまうと子供たちの冬の楽しみが無くなってしまうだろう」
    早朝、目が覚めて顔を洗うための湯を求めたら、宿の女将が立ち往生していた。だから雪かきついでに子供たちのため雪だるまを作っていると言う。
    「……お前が国王だと露見した時を思うと、女将が哀れだな」
    急いで外着を纏って庭先に降りると、ディミトリは四つ目の雪岩を肩の高さまで持ち上げていた。
    まさか救国王陛下御自らを雪かきなどという労働をさせてしまっているとは思わないだろう。恐れ多さのあまり、とてもでは無いが平静ではいられないだろう。
    「言わなければいい話だ。ここは平和でいい。……っと」
    無事に二つの巨大な雪だるまが完成し、ディミトリは誇らしげに俺の方を見た。
    なんだその顔は。まさか幼子のように褒めてほしいわけでもあるまい。
    胡乱げに眉根を寄せたが、当のディミトリは全く意に介した様子もなく、何がそんなに楽しいのか威厳の欠片も無い笑顔を崩さない。
    「上手いものだろう、最近はフェルディアに住む子供たちと作ったりもしたんだぞ」
    「フン、お前の怪力がこんなものに使われようとはな」
    呆れようとして、少し失敗した。柄にもなく微笑ましいような気持ちが湧いてきたからだ。
    人外じみた膂力が子供たちを喜ばせるために使われて、当の本人が呑気に笑っている。人を殺すために使われるよりは、余程良い。
    少し妙な表情になってしまったのが勘づかれたのか、ディミトリは小首を傾げて文句を言った。
    「こんなもの、と言うけどな……そうだ、お前も一緒に作らないか?」
    「断る。お前のように雪にはしゃだりせんぞ俺は」
    肩を竦めて背を向け、どうやら力作らしい雪だるまを検分してみた。確かによく出来ている。持ち前の怪力でしっかり固められた雪の上に、バランスよく頭にあたる部分が乗せられていた。
    「たまにはいいじゃないか。俺がこういうことを一緒に出来るのは、お前と、街の子供たちぐらいだ」
    子供と遊んでやっている、と周囲には映るのだろうが。子供相手ならば身分の隔てからくる遠慮が無い。民に混じりたがる困った嗜好を持つ王は、好き好んで構いに行っているのだろう。
    戦時中は子供に剣を向けられたこともあるというのに、全く妙なところで警戒心が育たない奴だ。
    だが、そういう優しく甘いところも好ましく思っているのだから目が離せなく、己よりも遥かに膂力を有する強者だというのに護ってやりたいなどと――つまりは、愛しているのだから、大抵のことを許容してしまう俺も大概というものだ。
    子供に嫉妬するほどの幼稚な精神は持ち合わせていない。だが、あまり甘い顔を軽率に振り撒いていると、少しばかり案ずることもある。此奴が危なかっしいのがいけないだけだ。
    と、思っていたはずなのに。
    「俺は子供と同列か?」
    何気なく揶揄しただけのつもりだった。が、実際に出たのは皮肉のような、嫌味のような、非常にいたたまれない何かのように聞こえた気がしてならない。

    おまけに、背後からじわりと伝わってくる何とも言えない気配が鬱陶しい。
    「あ、その……」
    適当に流せば冗談で済んだものを、最悪なことに真に受けたようだ。
    くそ。失言は自業自得だが、こうも振り向きづらい空気を作ったのは九割九分九厘ディミトリに非がある。
    「チッ。別に何でもない」
    何か言おうとしたディミトリに被せるようにして舌打ちした。
    これ以上、何か、余計な言葉を重ねられたら墓穴が深くなる。強引に顔を見ずに部屋に戻ってしまいたい。時間が経てば何ということも無い話だ。

    短い逡巡の後に、顔が無駄に火照る前に振り向こうとした時だった。
    不意に、右手を掴まれ、強く引っ張られた。

    「……」
    「は、」

    額にかさついた感触と、慣れ親しんだ匂い。
    今回の旅のために誂えた毛皮の外套は戦時中に着用していたものより遥かに上等で、ふわふわと目の前で揺れている。
    腕をぎゅっと掴む手は震えていて、緊張が伝染してしまいそうだ。
    頭の片隅でこれは青痣になるだろうと、ぼんやりと考えた。

    「こ、子供にはこういうことはしない」
    「あ、ああ」
    「…………恋人が!……恋人が、機嫌を損ねた時はこうするのがいいと、え、えーと、シルヴァンが!」
    突然出た、ここにはいない第三者の名前とその内容の理解に数秒を要した。
    おそらくあの年上の幼馴染は、弟分がもう一人の弟分へ接するための助言としては想定していないだろう。
    予想外の事で関係の無いところに意識が飛ぶ。目の前のディミトリに集中しようとすればするほど痛いほど心臓が高鳴り思考が纏まらない。
    「……別に気を悪くしてなどおらん」
    漸く絞り出した声には抑揚をつけられるほど余裕は無く、そのせいかディミトリはびくりと肩を震わせた。
    「あ、……こういうのは、嫌だったか」
    「違う」
    見当違いの心配をする恋人に、苛立ちのような、別の何かが無性に掻き立てるような衝動が湧き、思わず無意識に両手で頭を引き寄せ、背伸びをした。
    「ふぇり、んん」
    「……別に、機嫌取りだの理由が無くとも良かろう」
    勢いで唇を押し付けると、ぶわりと熱が広がるように表情が変わった。
    白い肌が耳まで赤くなり、時に冷たさすら感じる青の瞳は甘ったるい飴玉のように蕩けている。
    ――そういう顔は俺の前でだけしていればいい。
    望み通りのものを見ることが叶った。というのに、愚かにも俺はそれを数秒も見てられずに早口で捲し立て、朝陽を透かして輝く前髪をぐしゃぐしゃと誤魔化すように撫でてやった。
    「い、いいのか。その……努力する……」
    何をどう努力する気なのか。聞かない方がいい気がして無心でディミトリを撫で続けていると、次第に嬉しそうにはにかんだディミトリが犬のように擦り寄ってきて、余計にこちらを動揺させるものだから油断ならない。

    むず痒い空気に耐え切れず、俺がディミトリを置いて部屋に一人戻るまで数十分。
    学習能力の無い猪が俺の右腕に新たな青痣をこさえるまで、数刻前のことだった。
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