花びらの姫むかしむかし、あるところに。
眠りに囚われて目覚めないお姫様がいました。
姫の肌には赤い花びらのような紋様が浮かび上がり、それは夜ごとに増えて、色も艷やかな赤へと深まってゆくのでした。
赤い花びらが増えますと、まるで反比例するように姫の肌は青白く透き通って生気が抜けていくのです。
何かの呪いをかけられたのだと云う者がおりました。毒を盛られたのだと、または自ら毒を口にしたのだと。昏々と眠り続ける姫の様子を見た者は噂に噂を重ねました。噂にはたくさんの尾鰭がついて、ついに隣国の王子の耳にまで届いたのです。
隣国の王子は『天馬の御子』や『不戦の王子』と呼ばれておりました。穢れなき乙女にしか背を許さないはずの天馬を自在に操り、そのいななきは瞬く間に戦いを収束させてしまうのです。
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