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    愛恋奇譚2開催お目出とう御座います。残り少ない時間なのでpw解除しました。どなた様でもご覧になれます。この作品も皆様のお好みに合えば幸いです

    ※この作品は稚作27作品目「Letter of the 6th day」のスピンオフです。ご興味がおありの方はリンク先作品からお先にどうぞ。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15888559

    #愛恋奇譚2
    loveStory2
    #杏炭
    charcoalUsedForTeaCeremony
    #煉炭
    refinedCarbon
    #全年齢
    year-roundAge

    Letters from afar※この作品は稚作27作品目「Letter of the 6th day」のスピンオフ作品です。このままでも読める物を書いておりますが、ご興味がおありの方は先にご案内しておりますリンク先の作品からどうぞ先にお読みください。



     あなたはファンレターって出した事はありますか? 返事はいらないけどこの物語の感動を、読んだ時間が得難い幸福な時だった事を伝える手段。そんな物語です。
     
     
     先生の小説との初めての出会いは学生時代でした。恩師がたまたま読んでいて綺麗な装丁だなとじっと見ていたら貸して貰えたんです。借りたその日には読めなくて、週末に読み始めたら読むのが止まらなくなり、読後は暫く本の世界に浸って戻れなくなり、そしてその日は何をしてても読み終えた作品の事ばかりを考えていました。その時に借りた本は先生の二作目です。それぐらい、現実から作品世界へぐいぐいと引き込む力が凄く、今でも先生の作品を読み返す時はこの二作目へ手が伸びることが多いのです。
     
     本を貸してくれた恩師とは卒業後の今もやり取りが続いています。先生の著書のおかけで暫くぶりに会っても話題には事欠きません。有難う御座います。
     
     そして先生のお書きになる全ての作品は、根底に人への愛と慈しみがあり、幾重にも重なるような人間模様と群像劇で心を揺さぶるものばかりです。いつも新刊が発売され、読む度に自分に置き換えて考えさせられます。
     
     私は今、新作を半年後にしか読めない環境なので歯痒さもありますが、ネット上で先生の作品に対する色々な人の考察を見る度に、これを読んだら自分はどんな感想を抱くのか、百八十度違う考察をするのか、はたまた迎合するのか。そんな、直ぐに読めない日々でも先生の作品を楽しむ為の準備期間だと思いながら毎日を過ごしています。
     
     こうやって久しぶりにファンレターを出したのは、日本国内で本屋大賞をもらった作品を先日やっと読めたからです。
     
     凄かった。まず第一声はこれです。次は、また読みたい、今度は相手方の気持ちに寄り添うように読んでみたい、です。最後はもう一度主人公の視点から読み込みたい。
     
     結局、先生の本が手元に届いてから二日で三回読みました。(その時は寝不足のまま仕事へ行ってしまい部下からしゃんとして欲しいと叱られてしまいました)
     
     今回の作品は、私の中では絶品の恋愛ストーリーと解釈しましたがどうでしょうか。読み進めるにつれて物語が、文字が、フワリフワリと本から浮き出てクルクルと自分の身体を巡りだし、幸福で温く柔らかな表現が散りばめられ、夢の中にいた様な感覚。それでいて読後の余韻はとても熱くて火傷した時のピリッとした痛みが走る。
     
     この、身体の熱を吐き出してしまいたくなるような感覚は、まるで自分が生涯一度きりの、大切な恋をしている様でした。本当に、本当に素敵な作品を届けてもらえたと、この手に掴む事が出来て幸せだと思っています。この世の中へこの作品を発表してくれて有難う御座います。

     日本を離れて三年経つのですが、この三年間で私の周りも随分と変わりました。仕事、価値観、習慣、言語、私を取り巻く人々。そんな慣れない環境下で先生の本が私の心の支えになっています。何度も読み返して没頭すると、また前を向こう、頑張ろうと心を燃やせるのです。
     
     これからも先生を応援しています。
     
     先生の書く主人公ではありませんが、俺も同じ気持ちです。 
     
     どうぞお元気で。また新しい作品を拝読できる日を楽しみにしています。
     
     
    ◆◆◆
     
     何通かの中から幼馴染のマネージャーがつまみあげた手紙。
     
    「先に読ませてもらったが、これ、あそこの元店長のじゃないのか? エアメールでファンレターが来るのは何通もあるが、何となくだがそんな気がしてな」
     
     自宅の書斎で仕事をしていたが、暫くぶりに訪ねてきたマネージャーにいそいそとコーヒーを準備し、リビングへ戻るとテーブルに数通の手紙を広げて先に俺宛のファンレターをその綺麗なオッドアイで読み進めていた。
     
     俺もすぐに読ませてもらい、念のため彼から以前に貰った手紙を書斎から引っ張りだして見比べる。書体からみてもこれは間違いなく彼からの手紙だ。
     
     彼が海外勤務で日本を離れた後、暫くしてから編集部宛に手紙とクリスタル製の小さなペーパーウエイトが届けられた。その綺麗な輝きを放つペーパーウェイトはいつでも俺の目に入るようにデスクに飾られている。
     
     届いた手紙は俺が出したラブレターの返事かと思っていたが、海外へ行く時に見送った事と新刊を渡した事への丁寧なお礼の内容だけだった。何度も繰り返し読んでみたがそれ以上でもそれ以下でもない。
     
     だからまだ、俺は彼に振られてもいないし、彼と恋仲にもなっていない。
     
     あの日から俺の彼への気持ちは心の隅にある蓋付きの小箱に仕舞われたままだ。良い事があると、たまに彼へ報告する為にそっと蓋を開けて報告をして、君なら一緒に喜んでくれるだろうかと小声で呟き尋ねてみる。こうして、寂しくとも一人で過ごす時間を、この恋心を満足させていた。
     
     彼への想いは俺の心のうちで消える事なくゆっくりと燃えている。
     
     この手紙と言う酸素を急に胸に送られてパチリと、爆ぜる音が心の何処かで鳴った。
     
    「…この原稿が終わったら少し長めの休暇を貰えるだろうか? 直接、彼に逢いに行きたい」
     
     咄嗟に口からでた。マネージャーは驚く事なく確か期限切れだろう? 新しくパスポート申請しないと行けないから早めに原稿を済ませろ、なんて言ってくれた。
     
    「では、良いのか? 二、三週間日本を離れても?」
     
     二日に一度の連絡と滞在先のホテルを大きめの所にしてくれれば、原稿の為の取材と理由も付けられる。一ヶ月程ならどうって事ない。編集社からも少し出してもらえばいい。
     
    「しかしやっとか。迎えに行くにしては遅かったな」
     
     カチャリとソーサーにコーヒーカップを置き、真剣な眼差しをマネージャーに向けられた。
     
    「俺は最初からお前達は難儀な恋をしたなと心配していた。だからお前から動くなんて感無量だ。必ず良い返事を彼からもらって来い」
     
     人の機微に聡くて他人へ繊細な気の使い方をするマネージャーからこんな応援をされたら俄然とやる気も出る。
     
    「ああ! 彼から必ず良い返事を引き出してみせる」
     
     それから、出来上がった原稿と共に編集部へ顔を出し、取材旅行の承諾を得て日本を出たのは彼からの手紙を読んでから三週間後だった。
     
     俺のマネージャーは彼の事を良く調べてくれていた。現在の勤務先や役職、帰国予定。いつ尋ねられても良い様にと準備していた事に俺は驚きつつも感謝する。
     
     そして彼自身は帰国の意志が無い様だが、彼の会社は帰国を勧めており、本社勤務を打診中だと仔細を教えてくれた。
     
    「だから上手くいった際には彼を日本へ連れ帰って来ても問題無い。思い切り行って来い」
     
     肩をパシっと強めに叩かれて空港まで見送りに来てくれたマネージャーが俺に気合いを入れる。
     
    「有難う。じゃあ行ってくる!」
     
     この飛行機に約十時間乗って次に降りる時は彼の住むシアトルだ。俺の計画通り上手く初日に逢えれば良いのだが、何日か通うのもまた楽しいのだろう。待つのはこの三年で慣れている。彼がいつ俺に気がつくか。気が付かれ無かったら……とは考えないでおこう。
     
     だからこそ俺にすぐ気がついてもらえたら、もう遠慮などしない。その場で抱きしめて彼へこの愛を囁くんだ。そしてどうする事が二人にとって一番良いのか、彼と夜通しでも話し合って決めたい。


     日本を出てシアトルへ。フライト時間は約十時間だが時差は十七時間。時差ボケしない様にオーソドックスな市内観光を一つだけスケジュールに入れておいて良かった。夕方には滞在先ホテルにチェックインし、すぐに彼の居るコーヒーショップへ下見に向かう。
     
     シアトルはアメリカ国土の中でも巨大都市に入る。アメリカ最古のマーケットプレイス(市場)が有名だ。そして土地面積が広いが故にサマータイムもあり、また有名な最先端IT企業も多く存在する商業活動が盛んな街。
     
     こちらの季節は春。日本より少し寒いが体温が高い俺には薄手のコート位で十分と過ごし易い。
     
     今日は下見だからと目立つ金獅子色の髪を纏め、黒のキャップを被り瞳の色を誤魔化す為に薄いブルーグレーのグラスを掛けた。
     
    「よし、これなら目立たないだろう。今日は覗いてみるだけだ」
     
     はやる足で彼の店近くまで来ると帰宅時間と重なった様で行き交う車の数が多く、歩道も人が溢れていた。店前ではすぐに気が付かれてしまうと考え、対面の歩道へ行く。錆びて薄汚れた車避けのポールに軽く腰掛け君のいる店に目を向ける。あそこが彼の職場なんだな。
     
     初めて君に会いに行った時の事を今更だが思い出す。君が載った企業誌を隠す様に手に持ち早朝の時間帯に何食わぬ顔で入店したんだ。
     
     最初から俺に素敵な笑顔を向けて朝の挨拶をする君。なんて良い笑顔だこれは誌面の笑顔の比じゃないとあの時は目の前の君をじっと見つめてしまった。
     
     そうしたら照れた様子であのー、ご注文は? 何になさいますか? なんて可愛らしく声をかけてくれたな。きっとその時には自覚してなかったが、俺はその笑顔を見て君に恋をしたんだ。
     
     車のクラクションが甲高く二回鳴る。
     
     その音でハッと顔を上げると、対面の店から一人の客が大きめな扉から出てきた。その開いた扉の隙間から入れ違う様にまた一人の客が入る。短い時間で四、五人ほどだろうか。結構、人の出入りがある店なんだな。
     
     彼が勤めている店舗は大きめなフィックス窓で黒くシックな細工が施された枠組みが目をひく。まるで店内を絵に見立てた高価な額縁の様だ。窓ガラスには大きくレタリングされた日本でも使われている店名が金色の文字で綺麗に窓へ貼られている。そのせいか店内が見え難い。スタンディングスタイルの客が文字越しに多少見えるだけだ。日本と同じで奥の方はテーブル席があるのだろうか?
     
    「ここからじゃ車もあるから対面の店内は良くわからないな。やはり明朝か昼前に来てみよう」
     
     もうホテルへ帰ろうと立ち上がって最後に店内へ視線を向けた。少し見えづらいがあの背格好、もしかして君なのか? 荷物を沢山持った客だったのか君が店舗のドアを開けている。
     
     やっぱり君だ。三年ぶりだ。到着したその日に君を見れるとは運がいい。元気そうで良かった。振り向かない客に向かってニコニコと見送って手まで振って。一途に客の後ろ姿が雑踏に飲まれて見えなくなるまで外にいるその優しさは相変わらずだ。
     
     その君らしい光景を一人みて俺はふと、考える。
     
    「俺と離れていた間に誰か君と付き合っていた人がいるのだろうか」
     
     あんな風に君が笑い掛ける相手。君が日本を離れて随分経つからそんな相手が居てもおかしくない。今まで考えない様にしていたが、君を目前にするとどうしたって俺は俺の知らない、俺に見えない君の周りの誰かに嫉妬してしまう。
     
     俺はくるりと店に背を向けてホテルへ向かって歩き出す。
     
    「やはりホテルへ帰ろう。明日以降で君が俺に気がついた時にちゃんと告白するんだ。弱気になるな!」
     
     フライト疲れも多少あるのか気分が落ち着かない。こういう日はさっさと食事をして寝てしまうに限る。
     
     戻ってからは夕飯を手早く済ませ、広いホテルの部屋とベッドで明日の事を、君へどうやって告白しようかと考えながらゆっくりと眠りについた。
     
     
     ◆◆◆
     
     
     
    「おはようございます。皆さん今日も一日元気に気持ちよく、無理せずに働きましょう」
     
     早朝、数人のスタッフに向けた挨拶から一日が始まる。これからアルバイトも来るからもっと賑やかになる。もう三年、やっと三年。受け入れてもらえたと感じてからは時が経つのが早い。本社から来る日本人スタッフは評判が悪かったのだが、今ならなぜ評判が悪いと言われていたのかよくわかる。異動半年から一年で帰国してしまうからだ。出世の為に海外勤務を希望しても永住を考えるほどの人が今までいなかったんだ。
     
     俺が一年以上いる事を不思議に思った現地スタッフが恐る恐る俺に聞いてきたから分かった事だが、今まで着任していた日本人スタッフはあからさまに出世の話をしていたと言う。それじゃあ日本人スタッフの評判も悪くなる。
     
    「俺はすぐに帰国するよりここでお店を繁盛させて、地元に愛されるスタッフとコーヒーを作り上げたい。できればここを基点とした海外ショップの総統括職になるつもりです」
     
     俺に色々と聞いてきた現地スタッフにそう答えてから一週間もしないうちにバイトも現地社員も今まで以上に俺へ話しかけてくれるようになった。受け入れられたと、日々を一生懸命と過ごせば良いんだと感じた瞬間だった。
     
     オープン時間になると朝イチのいつもの背が高い細身の男性客が扉を開ける。まだ冷たい外気が店内に流れ込む。
     
    「やあおはよう。いつものセットと今日はラージのコーヒーをテイクアウトで」
     
     春先の朝はまだ寒く温かいコーヒーと甘いドーナツやマフィンがよく売れる。俺がきてからは初めからいくつかを朝セットにしてレジ横に置いておくと客はみな忙しい人達ばかりだったのかコーヒーと一緒に注文が入るようになった。選ぶのが億劫な人は世界共通なんだな。
     
    「店内じゃないなんて珍しいですね。お仕事忙しいんですか?」
     
     紙袋に商品を詰めながら簡単な会話を楽しむのはお手の物で、日本でもこうやってリピーターを増やしてきた。初めは俺が日本人をいうこともあって話しかけると結構と戸惑われたが今ではわざわざ世間話をしにきてくれる客もいる。
     
    「ああ、そうなんだ。でも君もこれから忙しくなるだろう? 何せ君がきてからこの店の春はランチボックスがジャパンベントウなんだから。楽しみにしているのは僕だけじゃないんだ。今年もよろしく頼むよ」

     異動直後に会社に進言して通った春の企画。日本食も海外で受け入れられているから米食と洋食のハイブリットな春のランチを店内で販売したら日本茶と一緒によく売れて本社から表彰された。オニギリ二個と日本食の惣菜を一品。定番サンドイッチをハーフサイズにしてフルーツサラダを付けたものだが 「おベントウ」 の名前で出したらトンカツが入っていてもスパイシーなカレーピラフのチーズオニギリでも日本食はヘルシーだからと飛ぶように売れたんだ。
     
    「はい! 今年も美味しいオニギリとオカズで販売しますね」
     
     こうして、朝の通勤時間の販売が終わる頃にはスタッフが交代で昼休憩に入るようになる。昼時も利用客が多いから気は抜けない。それが終わってから最後に俺が休憩に入る。
     
    「もうすぐ春なんだな。今日は幾分あったかい気がする……」
     
    「午後の陽気が良くなれば今度はコールドドリンクが売れますかね?」
     
     店内のカウンタースタッフと交代時間前のほんのひと時で交わす言葉。あ、店長、そろそろ奥のテーブル片さないとなんて言われてつい、手が離せないスタッフの代わりに除菌スプレーとテーブル用ダスターを持ってテーブル周りを綺麗にする。
     
    「店長、ありがとう! ほら、昼に入るなら今のタイミングじゃない?」
     
     カウンターまで戻ると他のスタッフからも声がかかる。そうだな。そろそろ昼を取ろうかな。
     
     
     そんな会話を店の奥でしていた時に、その人は来た。
     
     
     遠目だが一目、その髪色を見た時から心臓が跳ね上がるほどドクドクと音をさせる。落ち着こうとしても目が離せなくて尚更じっとその人を凝視してしまう。サングラスをかけているけど間違いない。

    「……な、んで」
       
     バイトの子がスムーズに注文処理をして少し笑っている。きっと綺麗な英語を話すんだな。相変わらず、貴方はトールサイズでコーヒーを頼んでいるのか。 
     
     頼んだものを受け取った後、サングラスを少し傾けてその美丈夫な顔でニコッと笑っているけど口元はスンとしていて笑っちゃう。日本と全く違うサイズなんですよ。驚いたでしょう?

    「でも、まさかな。貴方がここに来るなんてことは……ない、はずだ」
     
     だって、だって俺、三年前に日本に置いてきたんですよ、この貴方への恋心。貴方と物理的に逢わなければいつかは落ち着く、いい思い出になる、貴方に迷惑はかけたくない。
     
     だって俺は男だから。
     
    「今の人、店長と同じ日本人だったよ。綺麗な英語を話すし凄く格好良いからシネマアクター? って思わず聞いたら違うって。照れた顔もキュートで良かったわ!」
     
     レジに入っていた子がすぐさま俺に報告してきた。
     
    「多分、俺の知っている人だよ。凄く綺麗で美丈夫で優しいんだ」
     
     だったら早く追いかけないと! 今出たばかりだし、ついでに昼休憩してくれば? なんて言われながら背中を押された。
     
     貴方が初めて書いたラブストーリーに感化されてその勢いのまま短いファンレターを出したけど、編集部宛だし俺の名前も入れていない。主人公と同じ気持ちだと告白まがいの事を書いてしまったけど、あのファンレター、俺が出したなんて貴方にわかる訳ないはずだ。なんで? どうして? 
     
     急いで重くて大きな店の扉を開けて勢いよく歩道へ出る。いつものオフィス街、人の流れが多い方へ視線を向けるが貴方はもう、いなかった。
     
    「見間違いかな。だよな。貴方がここにいる、な、んて……」
     
     後ろから声が掛かった。貴方の優しくてよく通る声で名前を呼ばれた。振り返って貴方のことを見る。
     
    「俺に気がついてくれて良かった。何日か通うかと思っていたんだ」
     
     そう言いながら貴方が大きな腕を広げているから人目も憚らずに思わずそこに飛び込んでしまった。
     
     優しく抱擁されて、頭を撫でられ、元気だったか? なんて言われて。小さな声で 「はい」 と応え、貴方の胸にもう一度、顔を埋める。
     
    「顔、よく見せて。泣き顔なんて初めて見たが、心臓に悪いな。俺じゃ君を笑顔に出来ないのかな? ほら、久しぶりなんだから俺の大好きなその可愛い顔をもう少しだけでも見せてくれないか」
     
     そっと手を添えられて顔を仰向けにされた。今更だが涙が頬を伝っている。鼻水だって。仕事で汚れたエプロン姿だしぐしゃぐしゃに泣いている顔を貴方に見られるなんて恥ずかしい。
     
     でも俺、こんなに、こんなに貴方のことが好きだなんて知らなかった。貴方がシアトルまで俺に逢いに来てくれるなんて知らなかった。
     
     道ゆく人々と店舗の中からスタッフが一部始終を見ているのがわかるけど、もう、貴方を手離したくない。強がっていたけど貴方が好きなんです。あの六通の手紙も頂いた小説も眠れぬ夜に何度も読んで擦り切れている。本当に貴方が足りていないんです。
     
     俺、もっと、貴方を強請ってもいいですか?


     それから、泣き顔だし落ち着こうと店に戻ると、店内のスタッフにやっと店長が恋人を連れてきたと思ったらこんなにイケメンが彼氏なんてとやいのやいのとハヤシ立てられた。
     
     店内で俺と貴方を見ていた客全員、気が早いような祝福の言葉を投げかけてきて、更に俺と良く話す常連客がおめでたいからとチョコドーナッツを全員へと振る舞う。
     
     それを見た貴方がじゃあ俺は全員に一番いいコーヒー豆のグランデサイズをと注文して、収拾がつかないまま俺は泣き顔のままレジにサービスにと奔走する。
     
     そして俺の恋人騒動がひと段落した頃、俺の昼休みが丁度終った。
     
    「店長、あんなに良い恋人待たせてはダメよ。今日はもう帰ったら?」
     
     スタッフ全員に言われてしまい、結局、午後の途中から俺は有給を取って貴方と二人で帰らせてもらった。
     
    「良い職場だな。君がよく馴染んでいて店員も笑顔でとても居心地が良かった。客も多くて人気店な訳だ」
     
     二人、どちらかともなく指先が触れ、次にはもう貴方に手を掬われて軽く繋いでいる。そうして、それが日常でいつもの事のようにゆっくり歩きながらお互いが話し出す。
     
    「はい。あそこまで持っていくのに随分と頑張りました……褒めていただいたのこれで二度目ですね。ありがとうございます」
     
    「そんな礼を言われることでもない。君と君のスタッフが良い店にしようと成し得た結果だよ」
     
     ファストフードで俺の昼ご飯をテイクアウトしたら、シアトル市内の循環バスで貴方の滞在先ホテルにそのまま向かった。まさかこの、昼ご飯を食べられずにタップリと貴方に三年分の重い愛を向けられてしまうなんて。日本に居た時、こんなに積極的でしたっけ?
     
    「ちょ、ちょっと、待ってください! まだ、ひ、昼間なんですよ」
     
     ホテルの部屋に入ると同時に扉を背にして躰をキツく抱きすくめられた。それから唐突に額や頬に何度もキスを落とされる。いつかは貴方となんて想像した事もあるけどこんな再会して、ついさっき告白してすぐこうなるなんて思ってもいませんよ!
     
     扉と貴方の身体に挟まれたままの俺の首に、頸に耳朶に熱い舌を這わせるからテイクアウトのハンバーガーを落としてしまった。だから空いた両手で力を込め貴方の大きな身体を押し返したんだが、貴方はピクリとも動かない。
     
    「待たない。俺はもう、三年も君を待ったんだ。俺にこれ以上待たせるつもりなのか?」
     
     美丈夫が持つ金環の双眸、その瞳には力がある。瞳に惹きつけられているうちに、貴方の薄くて綺麗な形の唇が大きく開いて赤くて艶のある肉厚な舌を見せつけてきた。もう、抵抗なんか出きやしない。お腹が空いているのは俺のはずなのに、貴方に丸ごと食べられそうだ。
     
    「そう、君は大人しく俺に優しくされていてくれ。君が好きなんだ。今日はもう、君が俺から離れない様にしたい。俺だけを……どうか見ていて欲しい」
     
     立ったまま上着を剥がされたかと思ったら、そのまま軽々と抱き上げられ大きなベットへ押し倒された。
     
    「ここにキス、しても良いか?」
     
     さっきまで繋いでいた指が俺の唇を何度も柔く撫でている。焦らしてくれるなと頬を舐められて 「あっ」 と声が漏れた時にはもう、大人のキスをされていた。俺へ確認はするけど……止める気は無いんですね。
     
     そこからは記憶が飛ぶほどに貴方の優しい指使いと熱い吐息に翻弄された。
     
     優しいかと思うと貴方は我慢ならずに俺の躰にキリリと噛み付き俺に紅い跡を残す。残ったその跡をじっと見つめながら貴方の指でそっと撫でられたら、痛みよりも気持ち良さが勝ってしまって躰がベットの上で跳ね上がる。
     
    「ふふっ。もう、君を離してやれない。俺は強欲だから、君のその心もこの躰も全て俺だけの物にしたい。痛くしてしまったが……すまない。どうか許して欲しい」
     
     君が好きだ、ずっと好きなんだ、君に会えなくて寂しかった、辛かった。ここ、感じているんだな? 良い子だ。俺で君をもっと感じさせたい。気持ち良い事だけを君へ与えたいんだ。好きだ。愛しているよ。ああ、お願いだから俺と結婚して欲しい……。
     
     こんな、熱烈な貴方を初めて見ました。
     
     最初の言葉通り俺が貴方から離れないように、離れられないようにと俺の心は愛の言葉で埋め尽くされ、躰は溺れる様な快楽だけを貴方は俺に教え込んでいるようだった。
     
     そんなことをしなくても良いのに。俺からもこの愛を、包み込む様な快感を貴方に与えてあげたい。
     
     貴方は何度も何度も逢えなかった時間を埋めるように俺を求めて来た。俺も貴方を受け入れてその愛に溺れる。
     
     三年、貴方と離れていたんだ。今日ぐらいは俺だって本能のまま貴方に甘えたい。貴方のその優しい、俺を愛してやま無いと言っている眼差しに応えてあげたい。
     
     貴方に触れられて感じて、上り詰める快感を上手く逃せられない。信じられない位の甘い声がでる。凄くはしたないと思うけれど、大好きな人に大切に愛され、慈しむ様に快感を与えられることはなんて気持ちが良いんだろうか。
     
     貴方も同じ位、俺で気持ち良くなっていますか? 俺はちゃんと貴方に、この愛を返せていますか?
     
     貴方のその逞しい身体の下で、俺よりずっと筋肉質で太い両腕に囲まれて守られ、愛される幸せ。俺の顔や躰に落ちて来る金獅子色した髪も汗もみんな大切な俺の、俺だけの宝物。だから、そんなに不安そうな瞳を俺に向けないで。
     
     スッと両手を伸ばして貴方の頭を軽く引き寄せると俺は耳元でそっと囁いたんだ。貴方の不安が消えますようにと窓から差し込む黎明の細い光に願う。
     
     
    「大好きな貴方の想うままに。俺は貴方だけしか見ていません……これからはどうか俺をずっと貴方のそばに」
     
     
     
    =END=
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     あなたはファンレターって出した事はありますか? 返事はいらないけどこの物語の感動を、読んだ時間が得難い幸福な時だった事を伝える手段。そんな物語です。
     
     
     先生の小説との初めての出会いは学生時代でした。恩師がたまたま読んでいて綺麗な装丁だなとじっと見ていたら貸して貰えたんです。借りたその日には読めなくて、週末に読み始めたら読むのが止まらなくなり、読後は暫く本の世界に浸って戻れなくなり、そしてその日は何をしてても読み終えた作品の事ばかりを考えていました。その時に借りた本は先生の二作目です。それぐらい、現実から作品世界へぐいぐいと引き込む力が凄く、今でも先生の作品を読み返す時はこの二作目へ手が伸びることが多いのです。
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