会話が徐々に途切れていき、静けさに着地する。それでも気まずさを感じることはなく、穏やかな空気にふたりはそのまま身を委ねた。サーフは黙ったまま、目の前の碧色にきらめく双眸をじっと見つめた。
どこまでも透明なそれは、以前地上に降りたときに見た、底に緑を湛えた湖面をサーフに思い起こさせた。
話の中で、瞳の色を褒めそれに乗じてやたらと物を買わせようとする商人に旅先で何度か出会った話をゲイルから聞かされた。
商売の為の口実だろうが、商人たちの言うゲイルの瞳を綺麗だという言葉はまごう事なき本音なのだろう、とサーフは思う。
「リーダー」
ゲイルの薄い唇がサーフを呼ぶ言葉に形をつくる。
ゲイルは椅子から立ち上がるとそのままサーフのほうに身を寄せ、その手を握り指同士を絡ませてくる。さらりとした肌の感触と低い体温が、サーフの手の中にゆっくりと入りこんでいく。
「少し焼けたか?」
サーフは視線を手元に落とし、指でゲイルの手の甲を撫でながら訊ねた。
今見える顔や首元に比べ、手は少しだけ肌の色に深みがさしていた。杖をつき肉体を地上に固定したまま旅を続けている影響だろう、露出のある部分には以前会った時とは違う変化があった。
「……以前にあなたと会った後に海を見た。そのまま海沿いに歩きながら、その時代を見回ることをエンジェルと決めた……日差しの強い時期に降り立ったから、そのせいかもしれない」
ふいに与えられたくすぐったさに、ゲイルの反応が遅れる。
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眩暈に苛まれそのまま寝込むときのように毛布へ吸い込まれる参謀を、サーフは気がかりそうに見つめる。ゲイルは身体を横たえるとそのまま膝を折り、顔までを毛布で覆った。同衾するときはサーフの側に顔を向けるのが常だったが、今はそれすらもしない——できない。
サーフはゲイルの心情を察し、そのまま隣で自身も横になることにした。できないことは誰にでもあるし、なにより自分しかしよりにもよって肌を重ねるときにそれが判明したことは、行為をサーフへの奉仕とも捉えているゲイルにとってあまりにも不意打ちで、認め難いことだったのだろう。行為を続けることより己の内省を優先してしまうほどには。
「おやすみ、ゲイル。すまなかったな」
丸まった背中を抱きしめながら、サーフも瞼を閉じる。
ゲイルは応えることはなかったが、サーフの温もりを遠ざけることはなかった。