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    おいなりさん

    カスミさん……☺️

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    おいなりさん

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    推しカプが別れ話をするっていうお題(?)の真スミ

    ##真スミ

    別れ話をしよう

    「別れたい」

    そう切り出してきた真珠の目は真剣そのもので、その言葉は嘘でも冗談でも無いのだとわかった。
    だから、と言うべきか。
    カスミは少しの間真珠を見つめた後、穏やかに微笑むとこう言った。

    「分かりました。今まで、ありがとうございました。楽しかったです」

    それはそれは丁寧に、優しく、慈しむように。

    休日の昼下がり。
    冬の穏やかな陽光に照らされたカフェテラスは、カップルらしき二人組がそこかしこで仲睦まじく微笑みあっている。
    春の麗らかな陽気の中、満開に咲き乱れた花畑のようなその空間ーーの、一番端の席。
    まだ湯気の立ち昇る珈琲をゆっくりと飲み下し、ふぅ、と溜息を吐いたのはカスミだった。
    しかしその溜息は全くと言って良いほど落ち着いていて、周りの空気にも馴染むようなものだった。
    それだというのに、正面にいる真珠は、ちっとも穏やかではなさそうだった。
    まるでそこの一席だけ切り取られ、別の空間にいるような。

    「真珠、冷めちゃうッスよ」

    そう掛けられたカスミの声も聞こえていないようだった。
    真珠の周りは何故か極寒の地で雪が吹き荒れ、この世の終わりような空間になっている。
    そのせいか、近くの席に座っていた客は居心地悪そうに次々と席を立っていく。
    表情のストンと抜け落ちた真珠は膝の上で拳を握り締めたまま、カスミを通り過ぎて、何処か虚空を見つめているようだった。
    そんな真珠の事を、カスミは慰めるでもなく、励ますでもなく、淡々とカップに注がれた黒い液体を飲み干していく。
    そうして最後の一滴まで飲み終わった時、カスミは漸く真珠の名前を呼んだ。

    「ここ、自分が払っとくんで。真珠はゆっくりしていってくださいッス。それじゃ、また店で」

    にこりと半円を描いた唇。
    その動きをぼんやり目で追っていた真珠だったけれど、カスミが自分の横をすり抜けて行こうとした時になって急に正気を取り戻したらしい。
    真横にあった腕を掴み、小さく「やだ」と漏らした。

    「……っ、真、珠?腕、痛いッス」
    「やだ、やだやだやだ」
    「真珠?ちょ」
    「何で!?カスミは、おれのこと好きじゃないの!?」

    そう叫んだ真珠の蜂蜜みたいな色をした大きな目は、今にも溢れ落ちそうなくらいに見開かれ、ほろほろと大粒の涙が頬の上をいくつも滑り落ちていた。
    流石にこの状況は拙いと判断したのだろう、カスミは真珠の声に集まった好奇の視線から庇うように真珠に自分の羽織っていた上着を被せると、近くに居た従業員へ伝票とお札だけを渡し真珠を連れて転がるように店を飛び出したのだった。


    「少しは落ち着いたッスか」

    グスグスと鼻を啜る真珠に、カスミはホットミルクを差し出しながら横に座る。
    マグカップを受け取った真珠は、いつもカスミの家に来ている時に使っているものなのを確認すると、止まりかけていた涙をまた溢れさせてしまった。
    困ったな、と頭を掻きながら、自分用に持ってきたマグカップにカスミは口をつける。
    チラッと横目に真珠を見ると、まだ涙は出ているが、しゃくりあげるのはもう治ったようだった。
    このまま悪戯に時間だけが過ぎていくのを待つのも意味がないだろうと、カスミは意を決して口を開く。

    「真珠、あの」
    「ごめん」

    声を出したのは、二人ほぼ同時の事だった。
    それに面食らったカスミが言葉に詰まっていると、真珠はジッとカップの中の白を見つめたまま、ぽつぽつと独り言のように喋り出した。

    「ごめん、なさい。こんなことになるなんて、思わなくて。でも、おれは……カスミがホントにおれのこと好きなのか、自信なくて……それで、確かめたくて、あんなこと……カスミと別れたくなんかない。ずっと、いっしょに居たい……ほんとに、ごめんなさい……」

    蚊の鳴くような小さな真珠の声をひとつも漏らさないようにカスミは耳を欹てる。
    何でそんな風になってしまったんだろう、なんて、考えるまでも無かった。
    ここ数日、晶が真珠にちょっかいを掛けているのは店でよく見かけていた。
    たぶん黒曜が他の事で忙しくしていたせいで、暇だったのだろう。
    しかも、普段ならカスミの目の届く所でしている筈なのに、やけに二人きりになりたがっていたし、コソコソとカスミの方を見ながら良からぬ事を吹き込んでいる風でもあった。
    恐らくその時に、別れ話を切り出して反応を見てみろとでも言われたのだろう。
    そこまで過程を立てたカスミは、しょんぼりと項垂れている真珠の頭の先でふよふよと揺れている前髪を見ながら、こっそりと溜息を吐いた。
    真珠は晶の事は口にしないだろう。
    実際にカスミを信じられなかったのも、別れ話を切り出したのも自分だから。
    晶に罪はないと、どんなに問い質してもそうやって返してくるのは目に見えている。
    なので、晶には別の機会に報復するとして、と、頭の中に思い描いた晶のデコに一先ずデコピンを喰らわせた後、カスミは現実で目の前に居る真珠の肩をそっと抱いた。

    「真珠、顔、見せて」
    「……やだ、今酷い顔してる」
    「いーから。体起こして、こっち向いて、ね?」

    優しく声を掛けると、おずおずと真珠の半身が持ち上がってくる。
    それでも俯いたままの顔をカスミの手が優しく包み込み、上を向かせた。

    「あー、明日は少し腫れるかも知れないッスね。フロア入ってるッスか?」

    すりすりとカスミの親指がなぞる真珠の目尻も頬も、もうすっかり赤く色付いている。
    こくんと頷いた真珠の、節目がちに下がった瞼も同じように赤くなって少し膨らんできているようだった。
    カスミは薄らと笑みを浮かべた唇を、その赤くなった場所へゆっくりと押し当てていくと、惚けた顔で見つめている真珠から手を離した。
    急に離された温もりに、真珠の顔がまたくしゃりと不安に歪む。
    離された手を掴んで、真珠はふるふると顔を横に振っている。

    「冷やすもの、持って来るッスね」
    「……、やだ、やだ」
    「何処にも行かないッスから。ほら、手、離して?」
    「……一緒に、行く」

    ふっ、とカスミの口から漏れる音にびくつく真珠。
    その手を握り返し、カスミは促すように引っ張った。


    一人暮らしの部屋、そう広くないキッチンに、大人の男が二人立つのは少し厳しいものがあったが、真珠は子どもが甘えるようにカスミの腰に腕を絡めたまま、カスミの背中に頭を預けている。
    カスミはそれを気にした風もなく、冷凍庫から取り出した氷を適当な袋に詰め、蛇口を捻り、袋の口を結ぶと、腰にくっついた真珠を引き摺るようにして、さっきまで座っていたソファを通り過ぎ、ベッドの方へ腰掛けた。
    真珠は離れる気配も見せないから、カスミは真珠に抱えられた状態のままだ。
    ごろんと横になれば、二人とも狭いベッドの上に横倒しになった。

    「真珠、目の周り冷やさないと」
    「うん」
    「明日、そんな顔でフロアに出たらマイカに怒られるッスよ」
    「うん」
    「それに、自分もマイカに呼び出されて怒られちゃいますし」
    「……ん」

    腹の上にある手に氷水の入った袋をくっつけると、真珠は緩慢な動きでその袋を受け取り、背中越しにゴソゴソと何かをしているようだった。
    すると突然、カスミの喉からひゃっと悲鳴が上がる。
    どうやら、真珠がさっきまで額を付けていた場所に、氷水の袋が押し当てられたらしい。
    真珠はそのまま袋に顔を突っ込み、手は元の位置に戻ってきた。
    冷えていく首と変に温かくなっていく腹の差が面白くて、カスミは込み上げてくる笑いを抑えられず、喉をくっと鳴らしてしまった。
    真珠の指がぴくっと反応して、なに?とぼやけた声がした。
    カスミはどう返そうかと逡巡した後、真珠には見えていないだろうと盛大に破顔しながら、

    「やっぱり、自分は真珠が大好きなんだなぁって思っただけッスよ。真珠の望みは何でも叶えてあげたくなるくらいに」

    と言った。
    腹が苦しくなり、シーツが水滴を吸い込んでしっとりと湿っていく。
    ごめんなさい、とか細く落ちる音に、カスミはまたくつくつと喉を鳴らしたのだった。



    翌日。

    「あーーきら♡はい、煙草ッスついでに火もどうぞ」
    「さすがカスミ、気が利くねぇ。さんきゅ〜」
    「いえいえ〜、真珠がお世話になったみたいなんで、ちょっとしたお礼ッスよ♡」
    「え、なになに?もしかしてめちゃくちゃ盛り上がっちゃったとか?カスミって意外と若〜い」
    「ふふふ、それじゃ自分はステージなんで、この辺で〜」
    「はいは〜い」

    なんて会話をした後、晶が煙草を咥えて「辛ーーーーっ!?」と叫んだり、ライターを使おうとして前髪を燃やしかけたりしたのは、巡り巡ってカスミの耳にも入ったようだ。

    「何で煙草に辛子塗ってあんだよ!?え!?全部!?未開封だったよな!?!?」
    「お前、カスミに相当ヤベェ事したンだろ」
    「いやいや!オレは恋のキューピッ……ギャーーーーー!?アチッ!!アチチッ!?このライター最大火力超えてない!?!?オレの前髪燃えてない!?ねぇ!!!!」
    「残念だったなー、2本しか燃えてないみたいだわ。いっそ全焼させてたら許してくれたかもな」
    「まだ何かあんの!?黒曜助けて!!」
    「ぜってぇイヤ。ちゃんと謝ってこい」
    「オレ何もしてないんですけどーーー!?」


    end.
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