「お二人さま、カップル割で大丈夫ですよ」
ふいにそう声をかけられたのは、水族館のチケット売り場だった。財布を出しかけた真島に係員の女性が微笑みながら言った何気ない一言で、ユキの指がぴくりと動いた。
「……カップル、って……」つぶやく声は ごく小さく。ユキはチケット売り場のガラスに映った自分と真島の姿へ目を向けた。並んで立ち、手をつないでいる。ちゃんと『恋人同士』に見えるらしい。
「ふふっ……へへ……えへへっ」少し遅れて頬がにやけてきた。気付けば指先が胸の前でくるくると踊り、足元では軽くつま先が交差する。恥ずかしさと嬉しさが入り混じったその仕草は、まるで花が咲いたみたいに幸せそうだ。
「カップル、って……わたしたちが。ふふっ、ちゃんとそう見えるんですね……真島さん」小声で呟きながら真島の袖をくいと引っ張る。言葉にはしないけれど、その目が、「うれしいです」と言っていた。
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