"I hate you."『キミのことなんて嫌いだよ!』
頭上から影を落とすソイツは、声高らかに叫んだ。
忌々しく思いつつも、俺は上に目をやる。
「……なんだ」
『聞こえなかった?それともキミの頭じゃ、ちゃんと理解できなかった?いいよ、もっとはっきり言ってあげようか。僕は、キミの、キミというその存在そのものが、嫌いだ。』
嘲笑を含んだような口ぶりと、わざとらしい大袈裟な手振り。……どこまでも俺のことを苛立たせたいらしい。
「嫌いなら嫌いで結構だ。好きでいられたところで迷惑極まりない。不愉快だ。そこまで言うなら失せてくれ。」
自身の口元から薄黒い煙がくゆる。タバコの煙でも浴びせるかのように、俺はそれをソイツの顔目掛けて吹きやった。一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐにまた薄笑いを浮かべくるりと宙返りをして黒煙から離れる。
『……何?怒っちゃったの?』
「俺は"失せてくれ"と言ったんだ。お前こそ俺の言葉が理解できていないんじゃないのか?」
『あは!ごめんね!僕の頭がキミの言葉の理解を拒絶してるらしい。キミのことは大嫌いだよ。でもね、それと同時にキミのことを不愉快にできることは僕にとって一番の幸せだ。』
「たいそうな趣味をお持ちなことで。」
自身の苛つきとそれによる行動が相手の読み通りであると思うと心底腹が立つが、今はそれよりもコイツを上空から叩き落としてやりたいという衝動の方が遥かに優っていた。
自分の思考が追いつく前に、俺は反射的にサーベルナイフを数本浮かべていた。
『やっぱり怒ってるじゃない!』
「黙れ。」
クスクスと笑う奴の声が頭に響く。
「お前だけは死んでも追いかけ回してやる。」
『あれ?失せて欲しいんじゃなかったの?』
「お前は口を閉じるという行為を知らないのか?」
剣を一つ、奴に向かって振り下ろしたが、相手はそれをわかっていたかのように悠々と身をかわす。そのあとの攻撃も全て読み切られていた。
『別に僕たちは"楽曲"じゃあないんだから攻撃パターンを変えたって誰にも怒られないんだよ?知ってた?』
……これにばかりは我慢がならなかった。足を一本、奴の足首に巻き付け思い切り引っ張り下ろす。そのままぐるぐると身体に巻き付けてやった。
「これで満足か?」
鼻先が触れるぎりぎりのところにまで顔を近づける。ここまでコイツと近い距離にいるのはいつぶりだろうか。
捕まえてやったという気の高昂りからか、俺は興奮の混じった笑みを浮かべていた。
肝心の奴はと言うと、肩で息をしながらもやはりいつものように薄ら笑いをしている。
『……ああ、やっぱりこうでなくちゃ』
「なんだって?」
『キミに関係あると思う?』
ぼそりとつぶやいた奴の言葉は……聞かなかったことにしよう。
でないと未来の歯車が狂ってしまいそうな気がした。俺はこのままの関係でいい。
……一生離してやるものか。