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    COMOYAMA

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    COMOYAMA

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    寂しがりは手をとって(1/3)

    ##小説

    あるアジトの夜。ソロモンはテラスに立って、大広間を見渡していた。
     運動と称して追いかけっこをして遊ぶ者、デザートをおかわりする者、ソファでうたたねする者。それから、酒好きの仲間たちと酌み交わしているベリトの姿が目に入った。

    (いいな。今日もにぎやかだ)

     視線に気づいたのか、ベリトと目が合った。なんとなくひらひらと手を振ると、こっちに来いと顎で合図された。

    (もう寝る時間だしなあ)

    小さく首を振ると、むっとした様子でベリトは席を立ち、階段を上ってきた。

    「ヒマそうなくせに、なんで酌に来ねえんだ」
    「飲める仲間に注がれる方がいいかと思って」
    「テメェが決めるな」
    「あともう眠いし」
    「お子様め」

     ベリトの手が伸びてきて、髪に指が添う。
     元々ベリトはソロモンに対して距離を置かない方だったが、邪本の一件以来、こういうことが増えた。大人に頭を撫でられて喜ぶ年ではないが、彼にそうされるのは嬉しいような、むず痒い気持ちだ。

    「ベリト、アジトの居心地はどうだ?」
    「あ?」
    「最初は一人で飲んでることが多かったろ。今は飲み仲間も増えて、寂しくなくなったかなって」
    「俺様がいつ寂しがった」
    「なんとなく。飲んでる背中が」
    「テメェ」

     とうとう髪をめちゃくちゃにされてしまう。それでも悪い気はしないのだが、他の仲間がしてくるスキンシップとは何かが違う気がして、少し心が落ち着かない。
     ベリトが他の誰かにこうしているところを見たことはないし、こんなに自分に構う理由を知らない。

    (動物を撫でている感覚なのかな…)

     そうだとしたら、小さな落ち込みを感じるけれど。なんとなく聞けず、いつも気の済むまでさせてきた。

    「さびしい、か。いくら触っても足りねえことを、そう言えばいいのか」
    「え?」

     気づけばベリトの指は耳の下をくぐって、首の後ろに。そのまま引き寄せられて、胸に飛び込む形になった。

    「ベリト?!」
    「なるほどな。少し紛れたぜ」
    「酔ってるのか?」
    「酔ってねえよ」
    「あの、下にみんないるし、見られたら…」

     慌てるソロモンに構わず、もう片方の腕も背中に回される。お互いの胸がぴったりとくっついて、他人が見れば完全に抱き合っている状態だ。

    「見られたら何だ」
    「う…わ」

    目の前にベリトの顔がある。細められていてもわかる、綺麗な青い瞳に見つめられ、腕の中で固まってしまう。暖かな素肌が触れ合って、心臓が跳ね上がった。

    「テメェ、他にこういうことする奴いんのか」
    「え」

     酔っていないというのは本当のようで、問いに答えないと機嫌を損ねそうだ。

    「い、一回離してくれ…」

    ギュ。

    (なんなんだ、本当に!)

     体をよじりながら考えを巡らせる。こういうこと、と言われて思いつくのは、仲間と励まし合うときに肩を抱いたり、小さなメギドにねだられて抱っこをしたり。あとは腕に組み付いて胸をくっつけてくるメギドもいるが、どれもこの状況とは違った。

    「いねえんだな」
    「…いないよ。ベリトぐらいだよ、こんな、わからないことしてくるのは…」

     戦いの中でよく目にする、ベリトの剣を振るう長い腕が、今は自分を離すまいと包んでいる。
     自分の中に湧いた、喜びのような、興奮によく似た感情が受け入れられない。
     からかっているだけなら早く飽きて欲しいのに、ベリトはさらに顔を寄せ耳元で囁いてきた。

    「いねえんなら俺様にしとけ」
    「な、なにが…?」
    「俺様だけにしとけっつったんだ。こんなこと他の誰にもやらせるな」

     もう一度腕に力がこめられる。まるで、これは。

    「ベリト…本当に酔ってないのか」
    「しつけえぞ。ほら確かめてみろ」

     取られた手のひらが、ニイと笑うベリトの頬にあてがわれる。

    「わ、わからない」
    「テメェの体のほうが熱いだろうが」
    「違うよ、これは」

     言い訳を探してぱくぱくするソロモンの口の、すぐ横を。

    「んっ」

     ちゅっと音を立てて、ベリトの唇がくすぐった。

    「悪くねえ」
    「はっ…?」
    「じゃあな。そんなら今日はさっさと寝ろ」

     あっけなくベリトは腕を離し、呆然とするソロモンを置いて軽快に降りていってしまった。下から再び「乾杯!」と歓声が上がれば、我に返ったソロモンの顔がみるみる真っ赤になる。

    (…なんで?!)

     逃げるように部屋に戻り、ばたりとベッドに倒れる。ただ立っていただけなのに、一日の終りに思いもよらない出来事。
     触れられた頬が熱い。ばくばくと鳴り続ける胸が苦しくて、声も出ない。

    (メギドって…ああいうものなのかな…)

    いつもの毛布にうまく包まれないでいるソロモンをよそに、酒盛りは明け方まで続いた。

    「テメェ、起きろ」

     翌朝。部屋のドアが乱暴に開かれ、ベリトが入ってきた。数刻前まで飲んでいたというのにぴんぴんしている彼は、丸まって動かない毛布にずかずかと近づく。

    「起きろつってんだろ」

     毛布はぴくりともしない。苛ついたベリトはどすんと腰掛け、腕をついて話しかけた。

    「俺様的には、今から昨夜の続きをくれてやってもいいんだぜ」

     もそり。ようやく毛布が動き、ソロモンが頭を出した。ベリトの方へ向いたのはまだまだ眠そうな顔だった。

    「寝たりねえのか」
    「誰のせいだよ…」
    「ククク」

     ベリトは喉で笑うと、労るように少年の額を撫でた。気持ちよさそうにゆっくりとまばたきをしている。ソロモンはぼそりと尋ねた。

    「なんで俺に、そうやって構うんだ…?」
    「逆にテメェはなんで構われてるんだ?」
    「逆らったら怒るから」
    「……」
    「ベリトの番だ」
    「もういい。寝ちまえ」
    「ずるいぞ」

     ソロモンが体を起こすと、ベリトがきっちりと剣を携えているのに気づく。
     
    「どこかに出かけるのか?」

     もしかして、どこかに連れ出してくれるのか? 
     期待の目でベリトを見ると、いつものように顎で合図をされた。
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