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    hakka_soup

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    燐音と一彩の故郷のモブ♀視点。恋愛とエロの要素は特になし。故郷に関する捏造しかない。故郷を離れたモブの過去の回想。いつも通り特段何も起こらない話。2万字くらいになる予定で書き始めて去年からひとつも進んでないので一部分だけ上げてみてやる気を出し、あわよくばほめられたいやつです

    私の生まれた集落は海に向かって突き出た半島にあり、海風と山風に左右される気候がもたらす豊かな植物、それを目当てに集まる動物たちと紺碧の海に囲まれていた。半島らしい眩耀な夏と荘厳な冬に抱かれ私たちは日々の暮らしを紡いでいた。
    燐音様がお生まれになったのは初夏であったように記憶する。私より二歳年下の燐音様は当時の君主(これを書いている時点では現君主でもある)の第一子長男としてお生まれになった。当時の私はまだ幼く、詳しいことは覚えていないがその誕生は集落で盛大に祝われた。私も甘いお菓子を振る舞ってもらった記憶があるがこれはその数年後生まれた燐音様の弟にあたる一彩様の誕生の時の記憶と混ざっているかもしれない。
    お菓子について追記すると、故郷特有の伝統的なお菓子ではなく個包装されたカステラであった。どこの製品だったかまでは覚えていないが都会に出れば難なく手に入れられるものだったと思う。
    私たちの集落に古来より伝わる伝統的な団子や草餅の類も一緒に振る舞われていたのだが当時の私も含め集落の子らはより珍しい都会で売っているお菓子を得ることに必死になった。卵の風味とザラメと水あめのコク豊かなカステラは集落で蒸した米や粟で作った餅では出せないくどい甘さをしていて、年に何度かしかお目にかかれない大変魅力的なお菓子だった。
    ついでのついでで補足しておくと、私の生まれた集落は秘境のようであるとか異世界のようであるという言われ方をすることもあるが、単にアクセスの悪い田舎である。ただ、私の故郷は独立国家でないにも関わらず『君主』を擁立しており、これは現代社会との大きな齟齬である。当然ながら世界規模の視点から語ると君主と言っても名ばかりなのであるが、分かり易くいうと豪農とか地主とかそれくらいの雰囲気ではある。アクセスの悪い田舎で大きな力を持つ家、その家を無視してはその土地で生きていけない。そう言い換えれば大体のニュアンスは通じるのではないかと思う。
    しかしながら現代に至るまで『君主』が廃れなかったのは土地に住む者たちの価値観も関係している。伝統を重んじている、と言えば聞こえは良いがひと口には伝えられない黴臭い価値観のこびりついた土地にそれを嫌がらない人が固まって暮らしているのである。前君主は時代の流れに沿うことを嫌がっていたし現君主も懐古主義じみているところがあるため、ここしばらくは文明の享受を忌避しているような部分も見られる。
    とはいえ、こういったことはそこへ暮らしていると気が付かないことである。外へ出て初めて何やら様子が違うとか、実は少しおかしいのではないかとかそれこそ五年とか十年かかってやっと気付くようなことである。生まれた時からの環境と言うのはそれほどまでに後々の人生に影響することなのである。
    都会に出てきてから見知った言葉を借りれば私の故郷は非社会的である。いまこの国の多くの人が営んでいる生活、属している社会、それらとは異なる様式をとっている。しかし故郷には故郷の社会があり、規律があり、風習があった。それを取り仕切っているのが君主であり、私の家はそれを補佐する役割の神職を担っていた。私は故郷で「参の」(さんの)と呼ばれていた。

    私にも苗字と名前があり、この国の戸籍がある。これは故郷にいるときからきちんと手続きされていた。集落をあまり出ることなく生活するように、また出来るようになっていたがこの国の戸籍の手続などについてはやはり国の官公庁へ行かねばならない。新しく生まれた赤ん坊がいたり、亡くなった人が出れば集落でそれを担当する役割の人が引き受けて車を数時間走らせて手続をしている、と知ったのは集落を出る何年か前だった。そんなことに興味が無くても集落では何の問題もないからである。
    私は故郷にいるとき自動車に乗ることはほとんどなかった。集落では普段見えるところを走っていないし、大病や大けがのような集落ではどうにもできないやむを得ないことで出かけるとき以外車には乗らないので車の存在自体を知らない子もいるはずだ。
    私は神職にある父と母の第四子三女として生まれた。姉、兄、姉の後の末っ子で、この世代の巫女としては三番目なので「参の巫女」として「参の」と呼ばれていた。姉はそれぞれ「壱の」「弐の」と呼ばれていたが兄は男の子なので名前で呼ばれていた。
    優秀な壱の、気立ての良い弐のに比べて私は味噌っかすだった。

    「末っ子だからって甘やかしすぎたかしら」

    とよく母はため息をついていた。
    儀式のとき、道具を取り違える、祝詞(便宜上祝詞というが恐らくこの国の一般的な祝詞とは少し異なる、信仰している神が違うので)を忘れる、御神酒をこぼす、父の装束の裾を踏んづける、そういったことは日常茶飯事だった。
    中でもいちばん大きな失敗は今でも忘れられない。失敗の酷さもそうだが、私にとって燐音様の重要な思い出でもあるからだ。
    私が十五歳のころなので、燐音様は十三歳のころである。二年に一度しか行わない神事があり、私たち家族と君主の一家はその儀式を執り行っていた。
    この日のために作られた祭場の上には儀式用の神事用の敷布を敷いてあり、中央にある祭壇の前に父と兄、その横で君主と燐音様が座る。私たち巫女は壱のだけ父と兄の一歩後ろにいたが弐のと私は祭場の後方へ控えていた。風が強い日で、風が吹くたびに敷布の端がめくれたり儀式用の道具に敷いてある半紙が飛びそうになる。なにか飛んで来たら私が受け止めなくては、と愚図のくせにいっちょまえに使命感を持っていたところへびゅう、とひときわ強い風が吹いた。敷布が大きくめくれ上がった。半紙より何十倍も分厚く重いそれがぶわ、とその重みを示すようにゆっくりと舞い上がる。わたしは血の気が引いた。準備中に父から「風が強いから不格好だけれどしずを置きなさい」と言われていたのに他の物を運ぶのに邪魔だからと後回しにして置くのを忘れていたことに気付いたのである。
    敷布の上にあった篝火がぐらり、と私のいる方へ倒れて来た。すっかりバランスを崩した篝火はその足を投げ出して熱気をまき散らしながら私の上へ降ってくる。あ、これは火傷をするな、と思った。思ったが私はとっさに避けることも出来ない。おかしなもので、こういうときは時間の流れがとても遅く感じる。遅く感じるのに動けず、私はその場に竦んでいた。刹那、私の前に飛び出してきた人がいた。私の右前方に座っておられた燐音様である。

    「……っ!」

    燐音様は倒れて来た篝火の炎を避けながら棒の部分を背中で受けた。篝火の炎はちろりと燐音様のうなじにかかる緋色の髪の毛を舐めたが燐音様の背中に当たった篝火はそのまま前へ跳ね、床に転がった。

    「あ……」

    私は愚図らしくもたもたと声を上げた。やはりまだ動くことも腰を上げることすら出来なかった。目の前の燐音様の衣服が燃え、背中に火が灯っていた。神事装束そのものは絹なので燃えにくかったが祭事用の上掛けの一部に燃えやすい布があったようでそれがめらめらと燃えていた。燐音様は驚くほど冷静だった。素早く、しかし慌てずに上掛けを脱ぎ空気を遮断して火を消そうとしたのか上掛けを裏向きにくるもうとしたところに、時間を止めるような大声が飛び込んできた。

    「兄さん!!!」

    声が響くと共に私は水浸しになった。声の主は燐音様の弟の一彩様だった。一彩様は今回の儀式には参加していないはずなのにどこからか現れて持っていた水瓶の水を思い切りこちらへぶちまけたのだった。

    「一彩……」
    「兄さん!火傷はしてない?」

    私ほどでないにしろ、燃えているところを狙って水を掛けたのだから燐音様もまた水浸しになっていた。私はまたも動けずに目の前で起こることを追うばかりだった。

    「……一彩、助けようとしてくれたのか?」
    「そうだよ、兄さんが無事で良かった」
    「ありがとう。でもな一彩、神事の火は水で消してはいけない」
    「心得ているよ、兄さん。でも僕は兄さんが燃えてしまうのは嫌だ。燃える兄さんをただ眺めていることはできないよ。神様の罰なら僕が受けるから、兄さんは気にしないで」

    よどみなく答える一彩様に燐音様が困ったように笑うと一彩様はきょとんとしていた。その笑顔をきっかけに一彩様の大声で止まったかのように思えた場の時間が緩やかに動き始めた。倒れた篝火の始末をする者、びしょ濡れの私たちを連れ出して布で拭く者、儀式は已む無く中断となった。
    燐音様は火傷をせず、少し髪を焦がしたくらいで済んだようだ。周りの人が慌ただしく片付けに動く中、濡れた服や髪の水気をとっている私と燐音様は少しの間ふたりきりになった。
    庇っていただき恐縮です、ありがとうございます。お怪我はないのですか。礼や労いを述べるなら今だ、と思うのに口が上手に動かない。そもそもめくれ上がった敷布にしずを置きそこなったのは自分だということを詫びるか詫びまいか、迷って横顔を見つめるばかりの私に気付いた燐音様が、こちらを見て話しかけてくださった。

    「参の、弟がすまない」
    「い、いえ……そんな」
    「火は当たらなかったか?怪我がないなら良かった」
    「はい……ありがとうございまし、た……」

    私はそれ以上なにも気の利いたことが言えなかった。愚図のお手本のように口をもごもごさせて、会話はあっけなく終わった。儀式はしばらくしてやり直しとなり、一彩様は大目玉を喰ったようで、しばらく君主の家の前の樹に縄で縛って吊るされていた。わたしもまた、しずを置きそこなった罰を受けた。儀式のあった翌日からしばらくは打ちのめされて赤黒い痣をいくつも出来た脚を引きずって歩いた。
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