キス企画!?②シュウペイとキスすることは、特に何とも思っていなかった。
もともとBL漫才もやっていたし、俺たちの漫才の形式的にも、特に偏見なくやってきたつもりだ。
相方のことは信頼しているし、家族みたいなものだし。
昔からカッコイイと思っていたから、自分好みの顔の奴とキスするのは、好みじゃない奴とするより悪くないだろう。
それに仕事だ。芸能人1年目で仕事は選んでいられない。1番大切な時期だ。
だから、本当に何も気にしていなかった。
「さて、それではぺこぱの番です!」
司会者に呼ばれ、前に出る。
シュウペイが嫌がっていることは知っていた。
長年一緒にコンビを組んでいるんだ。
空気で分かる。
でも、しょうがないじゃないか。
今の俺たちに仕事は選べないんだから。
気まずい雰囲気を誤魔化しつつ、前に出ていつも通りのトークを繰り広げる。お互いに目は見られない。
「それではお願いします!」
司会者の声がスタジオに響く。
シュウペイと2人で向かい合う。
シュウペイの両手が俺の両肩を掴む。
そうか。シュウペイの方が背高いもんな。テレビの演出上、俺がされる側になるのか。
今まで付き合ってきた彼女に対しては、俺が基本的にする側だったから、変な感じ。
キスされるために顔をあげると、シュウペイと目が合った。
…え?ちょっと待って!?
って思っている間に、唇が重なった。
えっ?えっ?えっ?えっ?
なんでなんでなんでなんで???
なんでこんなに熱くなってるんだ!?
なんでこんなにドキドキしてるの?
本当は、キスが終わったら「悪くないだろう」って言うつもりだったんだ!
収録が終わったら、「ほら、一瞬だっただろ?」ってシュウペイに言おうと思っていたのに。
自分でも分かる。俺がシュウペイより赤くなっていること。動悸がおさまらない。自分の変化にビックリして、あまりのことにパニックで、何も言葉が出てこなかった。
その後の収録は、キザキャラなのにあまりにも俺の顔が赤くなって動揺していたため、司会者に松陰寺は純粋だと爆笑され、何とか笑いに持っていってもらえたので助かった。
でも、シュウペイの顔を直視できない。
俺の代わりにシュウペイが司会者から話しかけられていて、何かしゃべっていた気がするが、全然思い出せない。
俺、どうしたんだろう?
「お疲れ」
楽屋に戻ると、シュウペイから声がかけられた。
「おぅ、お疲れ…」
どうしよう。目が見られない。
ドキドキする。
マネージャーたちは打ち合わせなのか、今は不在で2人っきりだ。
気まずい雰囲気のまま、黙々と着替え始める。
今日、この収録が1番最後で良かった。そうじゃなかったら、この後の仕事は多分全部ボツになっていただろう。
それくらい俺は自分の反応に動揺してしまっていた。
着替え終わった頃、
「本当に一瞬だったね。」
シュウペイが小さな声で呟いていた。
返事ができなかった。
「そうだな」って、何でもないことのように言いたいのに、喉に詰まって言葉が出てこない。
沈黙が流れる。
「もー!松陰寺さんが真っ赤になって動かなくなったから、俺、すごいがんばってフォローしちゃったじゃん!しっかりしてよねー!あそこは“悪くないだろう”とか言えたでしょ〜」
「…ごめん」
「別にいいけどさ〜。次はちゃんとやってよね」
無理に明るい声を出してるシュウペイに申し訳なさがつのる。
「ごめん、シュウペイ。俺さ…」
何かうまい言い訳をしなければ…と思った瞬間、マネージャーが楽屋に入ってきた。
見切り発車で発言しなくて済んで、ちょっとホッとした。
それからは、明日のスケジュール確認をして、マネージャーの車で自宅に送ってもらった。
自宅に帰っても何もする気になれず、ベッドに倒れ込む。
目を閉じて浮かんでくるのは、キスする直前のシュウペイの顔。それがずっと頭から離れない。
あんな顔するんだ…。
13年一緒にいたのに、シュウペイのことは何でも知ってると思っていたのに、そこには俺の知らないシュウペイの顔があった。
切ないような、慈しむような顔。
それは、俺が知らない「男」の顔だった。
それに動揺しているうちに唇が降りてきて…その後の自分の反応が今でも分からない。
シュウペイは男だぞ。弟みたいなもんだろ?そういう目で見たことなんかないだろ?
今までの彼女たちにも、あんな顔してキスしてたりしたんだな。そう思うと、チリッと胸の奥が焦げる感じがした。