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    suika_disuki

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    suika_disuki

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    三途のお嫁はいいお嫁【サン武】定例の梵天幹部のみの会食が終わり、なんでもない雑談が始まった。
    ふとした瞬間、灰谷兄弟の兄蘭がいやらしい笑みを浮かべ三途に話を振る。
    「そういや三途、お前結婚してたんだな?」
    「おい……!」
    三途は焦ったように咎めた口調と盛大な舌打ち。その態度が結婚しが事実であると示した事にも気付いていない。
    彼の頭の中は、ついうっかり結婚している情報を渡してしまったことの後悔でいっぱいだった。
    三途春千夜が結婚したのは20歳。お相手は1った。既に結婚8年目。
    言うまでもなく、隠すつもりで隠していた。
    上手く隠していたはずが、つい数ヶ月前に三途の専売特許であるスクラップ作業対象のゴミによる命乞いが原因だった。家族を引き合いに出して来ることは全く珍しくない。なんならいい女なら下のヤツらにマワさせる、ウチで面倒見てやる、ガキは変態に女は臓器を抜いて、なんて精神的な苦痛を与えるネタでしたかない。
    しかし、そいつのスマホに記録された嫁と子供。その嫁の笑顔が、ドブスと貶し愛対象のタケミチに似ていたのでまじまじと三途は見てしまったのだ。
    そんな珍しい姿を同行した灰谷蘭が見逃すはずもなく、なんでもないように「三途の嫁に似てるのか?」と聞かれ「いや、もっとドブ……ス……ちっちげー!そんなやついねーよボケ!」とうっかり返してしまったのだ。「ふぅん?あっそ」と流していたが、そんなに灰谷蘭は甘くはない。
    そんな爆弾を定例会で落とすのだから本当に性格がねじれている。
    「いつ結婚してたんだよ?」
    「祝い事を隠してたのか?」
    「ボスにも報告してないなんてな」
    「お前でも結婚できるんだな」
    「聖母か売女」
    「麻薬中毒者でも結婚できるのか」
    集まった面々は好き勝手盛り上がり、言葉や視線で玩具を見つけた猫のように責めてくる。
    「三途なんで言わなかったの?」
    マイキーは特別気にした様子でもなく、一口手を付けただけの食事をつつきまわして遊んでいる。
    「いえ……黙っていた訳ではないです。ガキの頃に籍を入れたんで、ご報告をするタイミングが……」
    本当は言えるタイミングはいくらでもあった。言えば愛しいヘドロのタケミチを披露しなくてはならず、それが嫌で黙っていた。
    「ふーん、いつ籍入れたんだよ?」
    「……20です……あいつは18でした」
    「抗争してた頃か」
    「ウッス。コッチの奴じゃなので……」
    抗争の弱点になるのは良くないので、という含みを入れておいた。
    相変わらずマイキーは興味が無いようで三途はほっと胸を撫で下ろす。
    「一般人なんだ?お前のシゴト何か知ってんの?」
    しかし灰谷蘭は相変わらず興味津々だ。
    「……ちっ。言ってねぇ。人を動かす仕事だって言ってる。多分派遣会社かイベント関係の職場だと思ってる……」
    「マジか!お前の嫁頭悪ぃどんくせェやつだな」
    九井が笑った。
    腹が立つが三途は言い返せない。
    1度薬が抜けきる前に血塗れで帰宅した事があり、その姿に「ぎゃー!チヨくん!!しなないでぇ!!」とパニクるタケミチ。
    こちらも釣られてパニクった。「仕事でちょっとスクラップにしすぎただけで俺は無傷だ!」そんな事を口走り、あ、終わった。そう思ったがタケミチは涙を止め「チヨくん……、スタントの方にも回されるんだ……?危ない仕事は断ってね?俺心臓止まっちゃう所だよ」と納得し、事なきを得たのだ。
    鈍臭いと言われてもその通りすぎる。
    「ボス、最近コイツ家も新調したし、遅いけど結婚と新居祝いにいかないか?御祝儀も奮発してやりましょう。三途の"家族"なんですから」
    守銭奴の九井が珍しく金を出すと言う。これはろくな事にならない。
    「ココに賛成! 兄貴も祝ってやりたいよな?」
    「勿論だ。竜胆何持ってってやろうか?」
    「そんなの、結婚した年のワインだろ?」
    九井が狐のような目をさらに愉快そうに歪め、灰谷兄弟が退路を断つ。
    「……あぁ。ココ3本包んでやれ」
    マイキーの言う1本は1000万。それが3だと言うのだからさすがの三途も引いてしまう。
    「ボスよして下さい……!」
    「なに?嫌なの?」
    「そ……そうではなく……。もう年数も経ってますから……!!」
    「そんなの関係ないだろ?俺からのキモチだ」
    「う……ウス……」
    三途はマイキーの鋭い視線とプレッシャーに口を閉じる以外の選択肢がなくなってしまった。
    「新居はいつお邪魔しようか?」
    「ボスの予定じゃ木曜行けそうだな。三途予定調整しておけよ」
    あれよあれよという間に三途家襲撃日程が組まれ、そのストレスから三途はオーバードーズしてしまった。

    そうして、運命の木曜日がやってきた。
    真昼に動くのがとくに似合わないマイキー、灰谷兄弟、九井という面々が集まった。他の奴らは興味が無いので仕事を理由にパスだったり、興味はあるが抜けられない為泣く泣く諦めたりだった、
    人数が少ないことに感謝をする三途である。
    三途は車中、再三仕事のことは言わないでください、と珍しく王と崇めるマイキーに頼み込み、九井、灰谷兄弟にも釘を刺し続けた。
    新居も梵天がその区画を掌握し、1番安全性の高いと言われている地域。一際豪華でセキュリティも高い高層マンション。
    それぞれが耳にする噂で、三途のヤリ部屋だと言われていた場所だ。
    本当に珍しく、マイキーの前であからさまに嫌そうなオーラを出し続ける三途にどんな傾国の美女を囲っているのかと期待に胸を膨らませる九井と灰谷兄弟。
    「おかえりなさいませ。三途様」
    コンシェルジュが頭を深く下げ、警備も頭を下げる。
    生体認証でしか動かない直通のエレベーターから一気に最上階へ向かい、たった一つのドアを開ける。
    「ドブー、帰ったぞー」
    ぺたぺたと急ぎ足の足音が奥からする。
    「おかえりなさいチヨくん! は、初めまして。夫がいつもお世話になってます……!」
    現れたのは傾国の美女とは正反対の平凡。しかも男ときた、が頭をペコペコ何度も下げる。
    服も妙にダサく、三途の趣味ともかけ離れていると4人は思う。
    そうして同性婚は珍しくないが、あの三途がまさか、女のような容姿でよく変態に声をかけられ、ハニートラップ要員として名前がよくあがる三途が結婚したのが男となると、やっぱソッチ側だったのか、そんな生暖かい目で見てしまうのも仕方ないだろう。
    平凡で普通だが夜のテクが凄いのかも?なんて灰谷兄弟はアイコンタクトで語っている。
    「これ、ヘドロです……。ボス……社長の佐野さんと同僚の九井、灰谷蘭と弟の竜胆だ」
    「もう!チヨくん、ヘドロじゃなくてちゃんと武道って紹介してよー。三途武道です。今日はお忙しい中ありがとうございます。大したおもてなしも出来ませんがどうぞ」
    「……うるせー、ドブス!」
    「それ言葉のDVだよ」
    怒った様子でもないタケミチは、いつものやりとになのかニコニコ明るい。その笑顔にデレてる三途に九井も灰谷竜胆も笑いを超えて吐きそうになっている。
    「えっと、チヨくん……春千夜くんからは、何もしなくていいって言われたんですけど……皆さんのお口に合うかわからないですが……」
    通されたダイニング。ローテーブルの食卓には家庭的な料理が沢山用意されていた。
    あの三途が床に座るなんて?!と衝撃に灰谷蘭は腹筋が崩壊しそうなのを必死に耐えてる。
    「業者呼んどいただろ?!なんでテーブル変えてねーんだよ!……ボス……佐野さんもコイツらもこういうのあんま食わねぇし」
    「椅子よりこっちのが座りやすいから断った。それに、お昼だし?チヨくん、初めて同僚さん連れて来てくれたんだから……だから……張り切って……しまいました。ごめん……」
    基本的に素性の分からない人間が作ったものを食べない。
    言葉の通り、張り切って作ったであろうサンドイッチ、唐揚げ、グラタン、エビフライ、野菜を肉で巻いた串焼き、ポテトサラダとお子様パーティメニューに用意されたワイン。
    三途は今更ながら、コイツはこういう性格だったと思い出す。犬なら耳が垂れた、しっぽも腹の下だろう可愛い姿と懸命に作っていた姿を想像するだけで胸キュンする三途だった。
    タケミチが頑張ったものを踏みにじる結果になるなら、事前に来ることを伝えずに突然連れてきた方が良かったと後悔もする。
    「別の部屋があるのでそっちに……」
    「いや、三途いいよ。腹減ってるし、折角なんだから食べるよ」
    「ボス無理しないでください」
    マイキーが珍しく食事に興味をしてしている。
    「ふーん。こういう家庭料理って初めてだ」
    「うまそー!」
    「……イヌピーなら喜びそうだな」
    灰谷竜胆も料理を楽しそうに眺めて喜んでいるので三途は少しほっとした様子になる。
    「あの……まだオムライスもあって……。佐野さんがたい焼き好きって聞いて、今焼いてるとこなんです」
    「そう、なら持ってきてよ」
    「はい!」
    旗を立てたオムライスと焼きたてのたい焼き。
    真っ先にたい焼きに手を伸ばすマイキーをタケミチは何を思ったか待ったをかける。
    「佐野さん!いくら好物でも一口はご飯食べてからたい焼きです!」
    少し驚きに目が開くマイキーと薬をまだ1粒だって飲んでないのに吐きそうになる三途。
    「おい!ヘドロなにいってやがる……!ボス気にしないでください……!」
    「だって……甘いの食べたらご飯美味しく無くなる……」
    誰もマイキーに対し口答え、まして注意なんてしない。全員に緊張が走ったもは言うまでもない。
    「だから、食わねーから作んなって言っただろ! ボスに謝罪しろ……!」
    なんだかんだ大切な嫁の命を守る為必死な三途はタケミチの髪を鷲掴み強引に下げさせる。
    タケミチも普段口汚いが、乱暴をしない三途の強引な行動に、なぜこんなに叱られるのか納得できないが、確かに夫の上司。まして、務める会社の社長を子供を叱るように叱ったのだから、左遷させられても文句が言えない。三途は仕事に誇りと社長をとても尊敬している。
    最愛の夫の仕事を奪うかもしれないと考え至る。自らの浅はかさに涙目になる。
    「……あの……さのさん……生意気な事言って、すみま……」
    「これからタケミっち、な」
    「え?タケミっち……?」
    「タケミチだから、タケミっち。俺のことはマイキーって呼んでよ」
    底の無い暗闇の目がじっとタケミチを見据える。
    「マイキー……さん?」
    「普通のマイキーでいいよ」
    「マイキー……くん?」
    「……今はそれでいいよタケミっち。あぁ三途はさ、いい嫁さんもらったな……?子犬みたいに可愛いし……料理も作れるし……ダメなことはちゃんと叱ってくれるんだから……」
    「……ウッス……」
    「折角作ってくれんだから食おうか」
    やつれた目がニコリと弧を描く。
    少しぎこち無く始まった食事も灰谷兄弟の余計な事は進んでしろ。人の嫌がることは真剣に考えてやれ、薮は叩いて出た蛇に通行人を噛ませろ精神に助けられた結果となる。
    なんだかんだ料理が口にあったようで、4人はほとんどを平らげた。マイキーが普段より格段に食べていた事に三途は不安で仕方ない。
    途中何度も「グラタン入れて」「コロッケも作れる?」「タケミっちの料理旨いね」「タケミっちの味噌汁、毎日飲みたいよ」なんて繰りかえされ、メシウマの可愛い嫁との食事が、ムショで食うクセェ砂味に変わる。
    唯一の救いは「チヨくんが好きで」「チヨくんに健康で長生きして欲しいから」「チヨくんが美味しいって言ってくれるから、料理好きになって」と夫大好ムーブを常にかまし続けた所だった。
    その返答に黒曜石の両目が何を思いタケミチを見ていたかは、三途には計り知れなかい。
    何となく分かるが、理解を拒否する、が正しいかもしれない。
    「ねぇタケミっち…。また、家来ていい……?タケミっちの手料理なら俺毎日食べたい。三途はいいよなぁ?その気になりゃ毎日タケミっちの飯食えんだもん」
    いつもとちがうマイキーの様子に三途はだから嫌だったんだと内心毒づく。
    昔からタケミチは厄介なニンゲンを惹き付ける。その1人が三途自身であることも自覚している。
    「是非また遊びに来てください!」
    「ボス、そろそろ次の予定が……」
    「今日は俺たち夫夫の為にありがとうございました。チヨくんもこの後お仕事頑張ってね!皆さん行ってらっしゃい」
    気分が下降している三途の顔をタケミチは掴んで唇にチュッと軽いキスをしてから送り出す。
    「兄貴行ってらっしゃいって送り出されるの悪くないな~」
    「そうだな」
    ニヤニヤしている灰谷兄弟。
    「行ってらっしゃいハニー、行ってきますダーリンってドラマ以外で初めて見たわ」
    「うっせぇ」
    九井が揶揄う。
    「……三途……。いつもタケミっちとはああなの?」
    「……ウス……いつも行く時、ああしてくれてます」
    三途は初めてマイキーに嘘をついた。
    今まで1度もあんなことしたことが無いが、タケミチも何かを感じたようであのように送り出してくれた。
    「ふーん。今はラブラブでいいね」
    「ウッス。8年あぁなんでこれからもあんな感じっす」
    「……本当、三途の嫁はいい嫁さんだな……」
    「自慢の嫁なんで」
    「あー、タケミっち……すげぇいい嫁だなぁー……俺も結婚したいなぁ……?」



    それから数日後、マイキーの提案によりタケミチは梵天にお弁当を届けるアルバイトを始めることになり、三途の心配事が増えてしまったのは言うまでもない。



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