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    suika_disuki

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    suika_disuki

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    獣ミチと灰谷兄弟

    「ただいまー」
    「帰ったぞー」
     蘭と竜胆が帰宅を告げるとペタタタ!と足音をさせ獣人が駆け寄り、2人の足に飛びつく。
    「キュゥゥキュゥンキュンクゥウンキュンッ!!!」
     甲高い声としっぽを全力で振り、足をパタパタ踏み鳴らし地団駄を踏んだ。これが獣人タケミチの喜び方だった。
     獣人とは、本来小学2年程度の知性を持ち、人の良き友として愛玩または家族として迎え入れられる。しかし、タケミチは「キュン」「クン」「ワン」の獣的な発声が基本で、それ以外は「うん」や、嫌の「ヤ」「イヤ」、欲しいの「チイ」、蘭の「ラ」か「ラン」と竜胆の「リ」か「リン」、自分の名前の「ミチ」等の1単語話にも満たない会話だった。
    「お前また服ぬいで……。腹壊すぞ」
    「クウー……」
     コーギー種の大きい耳は叱られヘタり、切られて無い為長いしっぽの出たオムツ姿の90cm程度のタケミチを竜胆は抱える。やはりというか、肌が冷たい。空調は完璧だが、また隅っこで過ごしたらしい。
     タケミチはすぐに服を脱ぐ。昔はオムツも脱いでいたが、1度粗相をしてそれならはオムツは脱がなくなった。
     言語は話せないが、知性はある。こちらの言うこともある程度は理解している。
    「今日1日何してたか蘭ちゃんに教えてよ 」
    「キュゥン!」
     遊び部屋を指さすので、2人はそちらへ向かう。
    「兄ちゃんズリィ。いい所ばっか持ってく……」
    「タケミチ取ーり♡蘭ちゃんはいつも味方だぞー♡」
     竜胆の腕からタケミチを強奪する蘭。
    「キュン!」
    「俺だってタケミチの味方だ!うわ、なんだよココからなんか来てるし……。兄ちゃん領収書出してないだろ!あいつうっせぇのに……」
    「俺はタケミチと遊ぶので忙しいからよろしくな?」
    「キュンッ!!」
     扉を開けると20畳程の玩具部屋に脱がれた服と隅に玩具が広がっている。これだけ広いのにタケミチはいつも隅でしか遊ばない。
     室内用砂場は足を入れた形跡もない。滑り台とブランコは使ったかどうかは分からないが、定位置から動いていないので多分遊んでない。
     タケミチは部屋を汚す遊びは積極的にしたりしなかった。
    「まーたこんな隅で遊んで。俺らが準備したのは嫌いなのか?」
     ブンブンクビを横に振る。
    「クウーン……」
     タケミチは本来灰谷兄弟の獣人ではなかった。とある仕事で入った森の中で見つけたのだった。
     その姿はボロボロで髪所か全身が汚れており、体も傷だらけだった。
     まずい奴にマズイものを見られたと2人が顔を見合わせ、この掘った穴に追加で投げ込むか否か考えていたら走り寄ってきて、竜胆の足にしがみつきヒンヒンキュンキュン鳴いて尻尾を必死に振って媚びてきた。
     捨てられ獣人という言葉が頭によぎり、ひとまず連れて帰り、言語の習得に問題が有るとわかればきまぐれに飼ってみることに。そして、現在に至る。
     当初、蘭と竜胆の手と側で動く足、大きな物音や大きな声を非常に怖がった事から虐待の末の遺棄と結論付けた。
     その生活が未だに影響し、部屋を汚す遊びは1人の時ではしない。
     粗相をした時など非常に震え、触ると大きな声で鳴いて、更に大泣きと嘔吐の尋常では無い様子に流石に2人とも困り果て、急遽日中の世話を任せている家政婦を呼び出しどうにか風呂に入れる事ができた。
     庇護欲なんて感じたことが無い蘭と竜胆だったが今では獣人バカと言われる部類に入っている。犬の獣人は砂遊びが好きと耳にし、特性の室内用砂場まで用意した。初めて設置されたそれを見て、タケミチはその場を駆け巡り喜んでいたが、結局数日は中に入りたそうにしても、入ったりしなかったし、今も1人では入らない。
    「蘭くんと砂遊びするか♡」
     スーツのまま中に入り、胡座をかくとタケミチはそこへ飛び込んでくる。
    「うん!」
     この部屋が汚れても蘭も竜胆も一向に構わない。この部屋どころか、この家全体がペンキで汚れようとも怒ったりしない。この家を掃除するのは竜胆でも蘭でもく、家政婦。現状復帰が無理なら取り壊して引っ越せばいいだけだ。
     砂場に寝転がり、全身を砂に擦り付け、穴を掘り、砂山を作りそれを崩すを繰り返しタケミチは夢中だ。
    「ラ!くぅん!キュン!」
     バケツをひっり返し、砂の山には旗が。
    「タケミチと蘭くんのお城?俺ら新婚じゃん♡うれしー」
    「ラン!ラ!」
     嬉しい時にしろと教えたキスをゆらゆらしっぽを揺らし沢山する。
    「水入れて泥遊びしよーぜ?」
    「……!メッ!ラン、メッメッ!」
     驚き、困った顔のタケミチはダメだと何度も言う。その姿が必死で可愛く面白い。
    「いーじゃん悪いこと一杯しちゃおー」
     庭からホースでも取ってくるかと立ち上がると足に体当たりして止めてくる。タケミチを足につけたまま歩き、さて、ホースは何処だったかと考えていると竜胆がスマホ片手に戻ってきた。
    「兄ちゃん。鶴蝶が明日の守備について変更あるって」
     室内に戻った竜胆が要件を終わらせず、タケミチとの時間を邪魔するのに蘭は遂に切れてしまう。
     一見蘭ほど穏やかに見える男はいないが、自らの思い通りにならないときは些かキレやすい。最近ではタケミチとの遊びを邪魔されるのを酷く嫌う。
    「さっきから、うっせぇな!お前聞いとけ!」
    「テメェの仕事だろうが!それくらいやれや!テメェばっかりタケミチと楽しんでんじゃねぇーよ!」
     無論、竜胆とて同じ気質。タケミチとの癒やしタイムを巡り、喧嘩をしてしまう。
    「……きゅー……」
    「チッ……。タケミチ、俺らケンカしてないから。竜胆スマホ」
    「タケミチにビビられてやんの!」
    「お前もだろうが」
     不服そうにスマホを手に取り部屋を出ていく。
    「タケミチ風呂行くぞ。体ポカポカなろうな」
    「リン、行く!」
     沢山玩具を浮かべ、シャボン玉を作って遊んでやる。
     ここからはもう一つの遊びも始まる。
    「タケミチ、上手に握れるか?」
    「うん!」
    「手のあとは素またな。兄貴には秘密だぞ……?今日は兄貴が先の日だから、バレたらうっせぇからな」
     ニコニコ笑ったタケミチは人差し指を立て口元にあてた。
    「リン、シー、ね!」
    「そう、しーだ」
     灰谷兄弟は獣人に骨抜きだ。





     

     
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