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    tea_w1th_lem0n

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    dcst夢小説の残骸にラストをくっつけたもの
    せんく~夢です

    バレンタインに告白できなかった話デフォ?名:飛鳥ひばり 
     科学部、千空たちよりひとつ上、先輩だけど副部長

    〇〇〇

     二月の科学室は寒くて、ひばりは早くも薄着で来たことを後悔していた。暖房の風が邪魔になることも多いので、基本的に科学室の窓は開いていることをすっかり忘れていたのだ。受験によるブランクは大きかった。ひばりは丸椅子に座って、マフラーをひざ掛け代わりに畳んで膝の上に載せていた。冷たい手をぎゅうぎゅうと握り合わせながら、科学室を見回す。
    「こんな寒かったっけ」
    「毎年こんなもんだろ。火ィ使うことも多いし、気付きにくいけどよ」
     ふー、とやはり寒そうに息をつきつつ、千空は科学室の黒い机を挟んだ向かい側で、何か薬品を混ぜている。真剣に見ていたわけではないから、何を作っているのかは定かではないが、ひばりはこうやって手を動かす千空を見ているだけで楽しい。単純作業を見るのは元々好きだが、もちろん理由はそれだけではなく。そわそわと、膝に広げたマフラーの上に鞄を置く。
    「杠ちゃんって今日残ってるかな」
    「さあな。杠にもソレ渡すのか?」
     ひばりの鞄からはみ出す真っ赤な大袋を、千空が顎でしゃくる。受験生のお守り的な、ゴロの良い大衆向けチョコレート菓子の大袋だ。ひばりは首を振った。袋のなかは、もうほとんど空っぽである。千空含め、科学部の後輩たちに二つずつ配ったら、一気にはけてしまった。残るは、少しだけ手作りしたものをラッピングした、ちょっと豪華なものである。女友達など、ごく親しい人にだけ配る用だ。
    「杠ちゃん宛は手作りなの」
    「あ~。最近はそういうの、女同士のが凝ったの渡してるよな」
    「そうかもねえ。製菓会社の広告も変遷を感じる。自分用に高いチョコも買うもんね」
    「そりゃそうだわな。まあ、自分で食う方に良いモンってのも分かるわ」
     ひばりは鞄を膝の上に抱え直して、「うん」と曖昧に頷く。鞄の中には、杠宛の包みと、もうひとつ。千空宛の包みも入っている。他の後輩たちがいたとき、千空にもまとめて菓子を渡してしまったので、いよいよこっちを渡すタイミングを逃したな、とひばりはもぞもぞと手を組みなおした。千空はすでに、ひばりがさっき渡した菓子は食べきっている。
    「海外では男が女に贈るのがメインっていうけどな。百夜もあっち行って勝手が違うって言ってたわ、そういや」
    「あ、らしいね。チョコレート会社の陰謀なんでしょ、これ」
    「ま、経済ぐるぐる回してんなら悪かねえだろ。ま、あーゆー例もあるしな」
     ちょうど科学室の入り口で、科学部の部員が女子に呼び出されて、わあっと盛り上がる。普段ならひばりも冷やかしにいくところだ。でも、こうして科学室の奧で千空と二人きりで話せるのもきっと今日が最後だ。そう思ったから、大人しく座ったまま、笑顔だけを入り口へ向けて、またすぐ千空に向き直る。
    「他人事みたいに言うね。千空くんも、今日たくさん貰ったんじゃない?」
    「んー、断った」
    「え、……どうして? 甘いもの嫌い……じゃないよね」
     部活動の合間に、糖分補給するところは何度も見てきた。
    「別に好きでも嫌いでもない。食べきれねえ量引き受けんのは合理的じゃねえだろ」
    「そっかあ」
     千空らしい言い分だ。ひばりはちらりと誰も見ていないことを確認すると、鞄からラッピングした包みを取り出した。
    「あの……これ、食べきれる、かな?」
     千空の柘榴の瞳がぱちぱちと瞬かれる。察しのいい彼のことなので、それが杠宛を預かってくれ、という意味合いだなんて勘違いするはずもない。微妙な間を持て余して、引っ込みのつかない包みを差し出したまま固まる。二秒置いて、千空は薬品を混ぜ終わると、ビーカーを脇に置いた。細い腕が伸びてくる。ふ、と包みが軽くなった。
    「腹一杯になりそうだな」
    「そ、っか」
    「貰うわ」
    「うん、よかった。ありがとう」
    「アァ? なんでてめーが礼を言うんだよ。そりゃ貰った側の台詞だろうが」
     ありがたーくいただくぜ、と千空が付け加える。ひばりは頬をかいて、どういたしまして、と頷いた。
     実験を一度中断し、ごそごそと包みを鞄にしまう千空を見つめながら、ひばりはほうっと息をつく。何度も髪を耳にかけなおしてから、口を開いた。
    「あの、ね……その、それ、本、」
    「本?」
     科学室が静かになる。千空の、気の強そうな眉がきゅっと寄る。大きな目にじっと見つめられて、ひばりは口の中がからからに乾いていくのが分かった。心臓がばくばくする。あと、二語。あとほんのちょっとで、本当の気持ちが言えるのに。唇が戦慄く。
    「……ほん、図書室に返してこなきゃ。督促状来ちゃうし」
    「ああ? そんなに延滞してたのか? お前が?」
    「や、ほんと、ついうっかり! 受験とかでばたばたしてたしさ。あ、あとほら、杠ちゃんにもこれ渡さないとだし、探さないと」
     鞄をかかえて立ち上がる。はらり、とマフラーが床に落ちた。机の下に布地が滑り込んだのを屈んで拾おうとしたところで、実験机の向こう、千空の姿が見えなくなる。間もなくして、再び机の向井へ顔を出した千空は、マフラーを握っていた。
    「縁起悪いんじゃねーのか、受験生」
    「あはは、ふがいないね! 試験は大丈夫だとおもう、けど……」
     本当に、色々。ひばりはぎこちなく笑うと、マフラーを受け取った。
    「ありがと、千空くん」
    「どーいたしまして」
    「最近は落ち着いたし、また来るねー……って、あんまり先輩が顔出すのって良くないか」
    「知らね。先輩だ後輩だ、なんて縦社会ぎちぎちのそそらねえ部活だったら、そもそも俺が部長じゃねーだろ」
    「あは、それもそっか。じゃあ、また来るよ」
     おう、と千空が手を挙げる。自他共に認める科学馬鹿の男だが、こういうとき千空は、ひばりが教室を出るまで、ちゃんとひばりを見ていてくれる。
     そういうところが好きなんだよな。
     ほう、と息をついてから、ひばりは千空に背を向けると、科学室を出て、肌寒い廊下を歩き出した。
     ひばりの卒業式まで、一か月を切った、放課後のことだった。
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