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    tea_w1th_lem0n

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    リ主本編ver2.01-1です(2.00はリがたすけにはいってくるパターンだったんですけど消しました)

    主がデフォ名ピーナちゃん
    書き上げてから載せようとすると失踪する(でも書きかけ載せても失踪するけどさ……)ので、書けたとこをあげていくスタイル。あと結構軽率に全消ししちゃうので仮版保存の意味も込めて。

    リ主一話β版 青空の下、リトの村へと続く街道を荷馬車が一台進んでいる。
     がらがらと荷馬車の車輪が回るのに合いの手を入れるように、ぽくぽくと馬の蹄が地面を蹴った。ときおり鳥のコーラスや、風の唸り声も彩に添えて、旅人と荷物を乗せた行商の馬車はにぎやかに、街道をたどっていく。
     ハイラル北西部に広がる大雪原を抜け、ヘブラ山脈と大渓谷の間をはしるその街道は、北部の寒さに晒されつつも、基本的には好天に恵まれ、かつ平坦な道が続くことで知られている。そのため、ハイラル王国の心臓部であるハイラル城からリトの村を目的地とする者の多くは、南のタバンタ渓谷を踏破するよりも、なんとか雪原経由でこちらの街道を使う経路を取るものが多い。
     荷台に揺られる旅人もまた、リトの村を目指して、大雪原を超えてきた一人であった。ハイラルでもあまり見ない意匠の上着を羽織った彼女は、大きな菅笠越しに天を仰ぐと、ほうとため息をついた。
    「いいお天気。雪原の天気が嘘みたい」
    「ヘブラ山脈が雪から庇ってくれるのさ。だからこのへんは冬場でもまあまあ晴れててねえ」
     手綱をつかんだ御者が、明るい声で答える。
    「リトは寒さも平気だし」
     振り向かずに、ふい、と御者が頭を振ってみせる。御者の耳元で、華やかな色の紐を編み込んだ髪が、薄手の上着の上でゆらりとおもたげに揺れた。旅人である少女が厚着をしてしのぐこの気温で、彼は皮の胴着に薄布一枚で過ごしている。それを可能にしているのは、彼らリトの民の、ハイリア人とはちがう、両腕にそなわった大きな翼やほっそりとした体をおおう、髪と同じ色の羽毛であった。鳥に似た頭部は流線型をえがき、彼らが本来なら地を這うのではなく、天を速く移動するために適した種族であることを証明していたが――行商人には難しいだろう。
     大人が一人横になれるほどの大きさの荷台には、御者の商売の対価として、果物や木の実、はたまた魔物の内臓などがぎっしりと詰められている。少女は木箱に押し出されるようにして、荷馬車の端に膝をかかえて座っていた。
    「ピーナちゃんは寒いなら、うちの村で防寒具買った方がいいスよ。リトの服つってね、ハイリア人向けに売ってるんだけども、リトの羽使ってるからうんと暖かいって評判でね」
    「今は平気だけど……でも、その服には興味ある。聞いたことあるもの、ヘブラ山脈は寒いから、普通の服じゃとてもじゃないけど凍死するって。その服だと大丈夫なんでしょ」
    「もちろんよ。まあ、多少値は張るけども、その価値はあるね。セギモさんイチオシさ、ぜひ買ってね」
     御者――セギモは自慢げに胸を張った。ピーナ、と呼ばれた旅人は、ころころと笑って頷く。
    「たぶん、調査でヘブラ山脈にも登るから、そのときは絶対買う。ありがとう、セギモさん。教えてくれるのも……馬車に乗せてくれたのも、大助かり」
    「いいってことよ。王立研究所はお得意さんだし。旅は道連れェ、世は情けェ、持ちつゥ、持たれつゥ、てな」
     セギモは、節をつけて上機嫌に歌ってみせた。のど自慢でも知られるリト族の歌声は、街道にのびやかに広がっていく。道の先で鳥が群れをなしてぱたぱたと飛び立つのを眺めて、ピーナはふふっと笑い声を漏らし――ふいに、表情を引き締めた。揺れる荷馬車のうえで立ち上がる。
    「セギモさん、馬車とめてっ」
    「え?」
     セギモが答えるより早く、おびえた様子の馬が高いいななきをあげた。セギモが馬を落ち着かせる声を聞きながら、ピーナは荷台から飛び降りた。左の指先で笠を持ち上げ、右手は腰の短刀の柄にかけて、前方を見やる。のどかな緑の中にそぐわない、毒々しい赤が木陰から飛び出してきたのと、ピーナがセギモの荷馬車の前に躍り出たのが同時だった。
     人間の腕ほどもある棍棒を振り上げてきたのは、魔物ボゴブリンであった。ピーナよりも身の丈が低く、節ばった腕は細いが、その腕力は人間あらざるもののそれだ。直撃すれば、人間の骨など焼き菓子のように粉々になってしまう。それが分かっているから、ピーナはぐっと下腹に力をこめて、ボゴブリンの攻撃を見切った。素早さでは彼女が勝つ。魔物の背に回り込むや、的確に魔物の喉元を切り裂いた。
     ひび割れた断末魔とともにボゴブリンが頽れる。しかし、気を抜く暇はなかった。
    「二体いる! 後ろだ!」
     セギモが叫ぶ。ピーナはさっと振り返った。一体は三歩分ほど、もう一体は八歩分ほど離れたところにおり、ピーナたちに襲い掛かろうとしていた。
     一体ずつやるしかないが、正面からは分が悪い。ピーナは近い方の魔物が詰めてくるのを見て、またしても攻撃を避ける態勢に入った。大振りの一撃をひらりとかわし、短刀を魔物の首に突き立てる。うめき声をあげた魔物が武器を取り落とした瞬間、それを勢いよく蹴飛ばした。喉を抑えて倒れ込む魔物は放置して、距離を詰めてきたもう一体に向き直る。風を切る音が耳元でして、背筋を冷たいものが走った。ぎょろぎょろとした蛍光色の瞳がいやにまぶしく見える。
     それでもピーナは間違えなかった。
     紙一重のところで身を屈める。旋回する棍棒をやり過ごし、足を切りつけた。痛みで体勢を崩したところへ距離を詰める。こうなれば、もうピーナの勝ちだった。躊躇いなく喉笛を突き刺す。返り血がぱっとほとばしって、ピーナの頬を汚した。
    「ピーナちゃん! 大丈夫か!」
     馬を落ち着かせたセギモが、御者席から飛び降りて駆け寄ってくる。ピーナは笑顔を返した。
    「大丈夫。セギモさんは?」
    「なんともないさ。いやあ、びっくりしたなあ」
     セギモが頬をかいて笑う。そのとき、ふと風を切るような音がして、ピーナは顔を上げた。セギモが頬をかいて笑う。そのとき、ふと風を切るような音がして、ピーナは顔を上げた。紺色の何かが、空の上からゆっくりと降りてくる。羽ばたきながら降下してきたのは、見知らぬリト族の青年であった。
    「なかなかいい腕じゃない」
     突然会話に割って入ってくるや、彼らはピーナたちを観察するように見つめてきた。鋭い目つきには威圧感がある。紺色の羽毛とコントラストをなす鮮やかな紅色の瞼のせいだろうか。ピーナが身構える一方で、セギモは彼に気づくと、ぱっと笑顔になった。
    「オッ、リーバルじゃないか。なんでここに?」
    「やあ、セギモ。君の歌、ずいぶん遠くまで響いてたよ。おかげで駆けつけられたわけだけど……手を出すまでもなかったみたいだね」
     リーバルと呼ばれた青年は、セギモより頭ひとつ分ほど小さい。若いからなのか、小さい個体なのかはピーナには分からなかった。どちらにせよ、ピーナにとっては見上げる大きさである。大きな弓を携えた彼もまた、リトの戦士なのだろう。軽さを追求した胸当て型の鎧は、陽の光でちかちかと光っている。摩耗具合からしても、歴戦の戦士であることを推察することは容易い。
    「ハイリア人にしては、なかなかいい腕の用心棒だね」
     続く言葉に、ピーナは眉を寄せた。素直な褒め言葉と受け取るには含みがある気がする。しかしながら、食ってかかるほど血の気が多いわけでもない。ピーナはは曖昧に笑みを返した。
    「ありがとう」
    「さて、お二人さんは初対面なわけだし、オレが紹介しないとな」
     セギモは軽やかに前置いてから、「そもそもピーナちゃんは本職の用心棒じゃないんだ。まあ、今回はお願いしてたけどさ」と付け足した。
    「そうなのかい?」
     緑の瞳が、ピーナを見やる。ピーナは顎を逸らして頷いた。
    「ほら、シーカー族の研究者が行くぞってお達し行ったろ? それがこのピーナちゃんなんだよ。腕が立つ上頭脳明晰、王立研究所所属の研究者さんさ」
    「ああ。あの、神獣とかいう遺物を研究するんだっけ?」
     胡散臭そうなものを見る眼差しにさらされて、ピーナはごくりと唾を飲んでから、頭の笠を外した。
    「ピーナです」
    「どうも」
     気取った仕草で翼を広げて、リーバルも挨拶を返してきた。ピーナは笑顔を維持したまま、笠を抱え直して、沈黙を繋いだ。
     しかし、リーバルは返事を待っていたわけではないらしい。腕を組むと、今度はくちばしをセギモの方へ向け、意味ありげな視線を送った。
    「で、僕はどう紹介するつもりなの?」
    「見ての通り、口が達者で小生意気なやつ、で伝わると思うがな」
    「セギモ」
    「冗談冗談。ピーナちゃん、このリーバルはすげえんだぜ、若えのに村でいちばんの弓使いなのさ。少なくとも、去年まではな」
    「今年は違うみたいな言い方はよしなよ。今年だって、弓術大会の優勝は僕のものさ」
     リーバルは翼を広げて高らかに宣言した。ピーナはすっかり蚊帳の外だ。リーバルとセギモを見比べて、へえ、と納得したような顔だけして頷いておく。
    「じゃあお強いリーバルさんよ、オレとピーナちゃんの護衛、頼めるかい。村まであとちょっとだし、それまでさ」
    「僕、見回りの途中なんだけど」
    「どうせ街道沿いをいくんだろ? それなら、オレの馬車にくっついてきたってそう変わらないさ」
    「まあ、一理あるね。いいだろう、引き受けた」
    「よっし。ピーナちゃん、これでリトの村までは無事に辿り着けるぞ。良かった良かった」
     セギモは満足げに頷くと、転がった魔物の死体へ目を向けた。
    「じゃあまず、こいつを捌くか。肝と牙が高く売れるんだなあ、これが」
     鼻歌でも歌い出しそうなセギモに対し、リーバルは嫌そうな顔をして、足元の血溜まりを見やった。それからふと顔を上げて、ピーナに向き直る。
    「君は? できるの? 僕の知る限りでも、相当気色悪い作業の一つだけど。苦手なら、顔を背けていてもいいよ」
     気遣うように見つめられて、ピーナは困惑した。言葉通りの気遣いと受け取っていいものか、それともこの自信過剰に見えるリト族に何か試されているのか、区別がつかない。なんにせよ、回答はひとつだが。
    「できる。魔物調査も仕事の一つだから」
    「へえ。じゃあこいつを頼むよ。僕はそっち。セギモはあっち」
     さっさと仕切って、背を向ける。紺色の尾羽がひらりと揺れるのを見送ったところで、ピーナはほうと息をついた。戦闘のときから張り詰めていた緊張の糸を、やっと緩める。笠を被り直したとき、とん、と背中を叩かれた。快活な笑みを浮かべたセギモが、ピーナを見下ろしている。
    「改めて、さっきはありがとう。腕が立つ方とは聞いてたけど、予想以上だったぜ。リーバルの言い方、気に障ったらごめんな」
    「ううん……いや、どういたしまして」
    「あいつは……まあ、強いのはホントだ。ちょっとキツい言い方をする奴だが、悪人じゃないのさ。信じてもらえないかもしれないがね」
    「聞こえてるよ!」
     短刀を取り出したリーバルが振り返る。おっかねえ、とわざとらしく肩をすくめて見せてから、セギモはピーナに向けて片目を瞑った。思わず笑い声をあげそうになって、リーバルを気にして笑みを飲み込んだピーナは、短刀を構え直すと、魔物の死骸へと向き直ったのであった。
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