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    tea_w1th_lem0n

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    tea_w1th_lem0n

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    まじで途中までなうえに前回から二百字しかふえていなかった

    リ主一話途中まで

     青空の下、リトの村へと続く街道を荷馬車が一台進んでいる。
     がらがらと荷馬車の車輪が回るのに合いの手を入れるように、ぽくぽくと馬の蹄が地面を蹴った。ときおり鳥のコーラスや、風の唸り声も彩に添えて、旅人と荷物を乗せた行商の馬車はにぎやかに、街道をたどっていく。
     ハイラル北西部に広がる大雪原を抜け、ヘブラ山脈と大渓谷の間をはしるその街道は、北部の寒さに晒されつつも、基本的には好天に恵まれ、かつ平坦な道が続くことで知られている。そのため、ハイラル王国の心臓部であるハイラル城からリトの村を目的地とする者の多くは、南のタバンタ渓谷を踏破するよりも、なんとか雪原経由でこちらの街道を使う経路を取るものが多い。
     荷台に揺られる旅人もまた、リトの村を目指して、大雪原を超えてきた一人であった。ハイラルでもあまり見ない意匠の上着を羽織った彼女は、大きな菅笠越しに天を仰ぐと、ほうとため息をついた。
    「いいお天気。雪原の天気が嘘みたい」
    「ヘブラ山脈が雪から庇ってくれるのさ。だからこのへんは冬場でもまあまあ晴れててねえ」
     手綱をつかんだ御者が、明るい声で答える。
    「リトは寒さも平気だし」
     振り向かずに、ふい、と御者が頭を振ってみせる。御者の耳元で、華やかな色の紐を編み込んだ髪が、薄手の上着の上でゆらりとおもたげに揺れた。旅人である少女が厚着をしてしのぐこの気温で、彼は皮の胴着に薄布一枚で過ごしている。それを可能にしているのは、彼らリトの民の、ハイリア人とはちがう、両腕にそなわった大きな翼やほっそりとした体をおおう、髪と同じ色の羽毛であった。鳥に似た頭部は流線型をえがき、彼らが本来なら地を這うのではなく、天を速く移動するために適した種族であることを証明していたが――行商人には難しいだろう。
     大人が一人横になれるほどの大きさの荷台には、御者の商売の対価として、果物や木の実、はたまた魔物の内臓などがぎっしりと詰められている。少女は木箱に押し出されるようにして、荷馬車の端に膝をかかえて座っていた。
    「ピーナちゃんは寒いなら、うちの村で防寒具買った方がいいスよ。リトの服つってね、ハイリア人向けに売ってるんだけども、リトの羽使ってるからうんと暖かいって評判でね」
    「今は平気だけど……でも、その服には興味ある。聞いたことあるもの、ヘブラ山脈は寒いから、普通の服じゃとてもじゃないけど凍死するって。その服だと大丈夫なんでしょ」
    「もちろんよ。まあ、多少値は張るけども、その価値はあるね。セギモさんイチオシさ、ぜひ買ってね」
     御者――セギモは自慢げに胸を張った。ピーナ、と呼ばれた旅人は、ころころと笑って頷く。
    「たぶん、調査でヘブラ山脈にも登るから、そのときは絶対買う。ありがとう、セギモさん。教えてくれるのも……馬車に乗せてくれたのも、大助かり」
    「いいってことよ。王立研究所はお得意さんだし。旅は道連れェ、世は情けェ、持ちつゥ、持たれつゥ、てな」
     セギモは、節をつけて上機嫌に歌ってみせた。のど自慢でも知られるリト族の歌声は、街道にのびやかに広がっていく。道の先で鳥が群れをなしてぱたぱたと飛び立つのを眺めて、ピーナはふふっと笑い声を漏らし――ふいに、表情を引き締めた。揺れる荷馬車のうえで立ち上がる。
    「セギモさん、馬車とめてっ」
    「え?」
     セギモが答えるより早く、おびえた様子の馬が高いいななきをあげた。セギモが馬を落ち着かせる声を聞きながら、ピーナは荷台から飛び降りた。左の指先で笠を持ち上げ、右手は腰の短刀の柄にかけて、前方を見やる。のどかな緑の中にそぐわない、毒々しい赤が木陰から飛び出してきたのと、ピーナがセギモの荷馬車の前に躍り出たのが同時だった。
     人間の腕ほどもある棍棒を振り上げてきたのは、魔物ボゴブリンであった。ピーナよりも身の丈が低く、節ばった腕は細いが、その腕力は人間あらざるもののそれだ。直撃すれば、人間の骨など焼き菓子のように粉々になってしまう。それが分かっているから、ピーナはぐっと下腹に力をこめて、ボゴブリンの攻撃を見切った。素早さでは彼女が勝つ。魔物の背に回り込むや、的確に魔物の喉元を切り裂いた。
     ひび割れた断末魔とともにボゴブリンが頽れる。しかし、気を抜く暇はなかった。
    「二体いる! 後ろだ!」
     セギモが叫ぶ。ピーナはさっと振り返った。一体は三歩分ほど、もう一体は八歩分ほど離れたところにおり、ピーナたちに襲い掛かろうとしていた。
     一体ずつやるしかないが、正面からは分が悪い。ピーナは近い方の魔物が詰めてくるのを見て、またしても攻撃を避ける態勢に入った。大振りの一撃をひらりとかわし、短刀を魔物の首に突き立てる。うめき声をあげた魔物が武器を取り落とした瞬間、それを勢いよく蹴飛ばした。喉を抑えて倒れ込む魔物は放置して、距離を詰めてきたもう一体に向き直る。風を切る音が耳元でして、背筋を冷たいものが走った。ぎょろぎょろとした蛍光色の瞳がいやにまぶしく見える。
     それでもピーナは間違えなかった。
     紙一重のところで身を屈める。旋回する棍棒をやり過ごし、足を切りつけた。痛みで体勢を崩したところへ距離を詰める。こうなれば、もうピーナの勝ちだった。躊躇いなく喉笛を突き刺す。返り血がぱっとほとばしって、ピーナの頬を汚した。
    「ピーナちゃん! 大丈夫か!」
     馬を落ち着かせたセギモが、御者席から飛び降りて駆け寄ってくる。ピーナは笑顔を返した。
    「大丈夫。セギモさんは?」
    「なんともないさ。いやあ、びっくりしたなあ」
     セギモが頬をかいて笑う。そのとき、ふと風を切るような音がして、ピーナは顔を上げた。紺色の何かが、空の上からゆっくりと降りてくる。羽ばたきながら降下してきたのは、見知らぬリト族の青年であった。
    「なかなかいい腕じゃない」
     突然会話に割って入ってくるや、彼らはピーナたちを観察するように見つめてきた。鋭い目つきには威圧感がある。紺色の羽毛とコントラストをなす鮮やかな紅色の瞼のせいだろうか。ピーナが身構える一方で、セギモは彼に気づくと、ぱっと笑顔になった。
    「オッ、リーバルじゃないか。なんでここに?」
    「やあ、セギモ。君の歌、ずいぶん遠くまで響いてたよ。おかげで駆けつけられたわけだけど……手を出すまでもなかったみたいだね」
     リーバルと呼ばれた青年は、セギモより頭ひとつ分ほど小さい。しかしながら、ただの若者というわけではなさそうである。子供の身の丈ほどある大きな弓といい、軽さを追求した胸当て型の鎧といい、傷の多さあるいは見るからに手入れの行き届いたようすから、歴戦の戦士であることを推察することは容易い。
    「ハイリア人にしては、なかなかいい腕の用心棒だね」
     続く言葉に、ピーナは眉を寄せた。素直な褒め言葉と受け取るには含みがある気がする。しかしながら、食ってかかるほど血の気が多いわけでもない。ピーナはは曖昧に笑みを返した。
    「ありがとう」
    「さて、お二人さんは初対面なわけだし、オレが紹介しないとな」
     セギモは軽やかに前置いてから、「そもそもピーナちゃんは本職の用心棒じゃないんだ。まあ、今回はお願いしてたけどさ」と付け足した。
    「そうなのかい?」
     緑の瞳が、ピーナを見やる。ピーナは顎を逸らして頷いた。
    「ほら、シーカー族の研究者が行くぞってお達し行ったろ? それがこのピーナちゃんなんだよ。腕が立つ上頭脳明晰、王立研究所所属の研究者さんさ」
    「ああ。あの、神獣とかいう遺物を研究するんだっけ?」
     胡散臭そうなものを見る眼差しにさらされて、ピーナはごくりと唾を飲んでから、頭の笠を外した。
    「ピーナです」
    「どうも」
     気取った仕草で翼を広げて、リーバルも挨拶を返してきた。ピーナは笑顔を維持したまま、笠を抱え直して、沈黙を繋いだ。
     しかし、リーバルは返事を待っていたわけではないらしい。腕を組むと、今度はくちばしをセギモの方へ向け、意味ありげな視線を送った。
    「で、僕はどう紹介するつもりなの?」
    「見ての通り、口が達者で小生意気なやつ、で伝わると思うがな」
    「セギモ」
    「冗談冗談。ピーナちゃん、このリーバルはすげえんだぜ、若えのに村でいちばんの弓使いなのさ。少なくとも、去年まではな」
    「今年は違うみたいな言い方はよしなよ。今年だって、弓術大会の優勝は僕のものさ」
     リーバルは翼を広げて高らかに宣言した。親しげなやりとりを前に、ピーナはすっかり蚊帳の外だ。リーバルとセギモを見比べて、へえ、と納得したような顔だけして頷いておく。
    「じゃあお強いリーバルさんよ、オレとピーナちゃんの護衛、頼めるかい。村まであとちょっとだし、それまでさ」
    「僕、見回りの途中なんだけど」
    「どうせ街道沿いをいくんだろ? それなら、オレの馬車にくっついてきたってそう変わらないさ」
    「まあ、一理あるね。いいだろう、引き受けた」
    「よっし。ピーナちゃん、これでリトの村までは無事に辿り着けるぞ。良かった良かった」
     セギモは満足げに頷くと、転がった魔物の死体へ目を向けた。
    「じゃあまず、こいつを捌くか。肝と牙が高く売れるんだなあ、これが」
     鼻歌でも歌い出しそうなセギモに対し、リーバルは嫌そうな顔をして、足元の血溜まりを見やった。それからふと顔を上げて、ピーナに向き直る。
    「君は? できるの? 僕の知る限りでも、相当気色悪い作業の一つだけど。苦手なら、顔を背けていてもいいよ」
     気遣うように見つめられて、ピーナは困惑した。言葉通りの気遣いと受け取っていいものか、それともこの自信過剰に見えるリト族に何か試されているのか、区別がつかない。なんにせよ、回答はひとつだが。
    「できる。魔物調査も仕事の一つだから」
    「へえ。じゃあこいつを頼むよ。僕はそっち。セギモはあっち」
     さっさと仕切って、背を向ける。紺色の尾羽がひらりと揺れるのを見送ったところで、ピーナはほうと息をついた。戦闘のときから張り詰めていた緊張の糸を、やっと緩める。笠を被り直したとき、とん、と背中を叩かれた。快活な笑みを浮かべたセギモが、ピーナを見下ろしている。
    「改めて、さっきはありがとう。腕が立つ方とは聞いてたけど、予想以上だったぜ。リーバルの言い方、気に障ったらごめんな」
    「ううん……いや、どういたしまして」
    「あいつは……まあ、強いのはホントだ。ちょっとキツい言い方をする奴だが、悪人じゃないのさ。信じてもらえないかもしれないがね」
    「聞こえてるよ!」
     短刀を取り出したリーバルが振り返る。おっかねえ、とわざとらしく肩をすくめて見せてから、セギモはピーナに向けて片目を瞑った。思わず笑い声をあげそうになって、リーバルを気にして笑みを飲み込んだピーナは、短刀を構え直すと、魔物の死骸へと向き直ったのであった。


     ピーナたち一行がリトの村にたどり着いたのは、それから半日ほどしてのことだった。体感ではもうとっくに日が暮れていてもおかしくないのに、周囲はまだほの明るい。リトの村が、ピーナの故郷やハイラル城よりも、うんと西にあるためだ。
     沈みかけた夕日の、薄黄色い光に照らされて、リリトト湖の湖面がきらきらと輝く。細長い岩岩と湖にかこまれた天然の砦、リトの村は、湖の小さな島と島をつなぐ吊り橋を超えた先に、ひっそりと佇んでいた。天高く伸びるリトの大岩に沿うように、円柱状の籠のような作りの家々が垂直に並び、そのあいだを木のテラスや階段がつないでいる。ちょうど帰途についたらしい村人たちが、次々空を飛んで村へ戻り、家の側面や、家に程近いテラスから住居へ戻っていくのを観て、ピーナは納得のため息をついた。大空をかけるリトの民ならではの建築様式なのである。
    「さてと、ピーナは村の宿に泊まるんだっけか」
     リトの村へ続く吊り橋の前で一度馬車を止めて、セギモが言った。馬のある彼は、ここからさらに西へ少し行ったところにある馬宿で夜を越すらしい。馬を預け荷物を整理して、明日にはまた一度村に顔を出すそうだった。
    「そのつもり。村長にも挨拶しなくちゃ、書状を預かっているの、いちおう」
    「まだ明るいし、起きてると思うよ。行くなら早い方がいい」
     荷馬車のそばをつかず離れず飛んでいたリーバルが、ひらりと荷馬車のかたわらに降り立った。セギモは大きく頷いて、「じゃあリーバル、案内頼んだ」とのたまった。
    「どうして僕が」
    「オレは馬宿行くし、でも一人で行かせるのは心が痛むからさ」
    「気にしないで。子どもじゃないんだから、一人で行けるよ」
    「って、言ってるけど?」
     リーバルはくちばしでピーナを示した。セギモは肩をすくめた。
    「そうか。じゃあ無理にとは言わないがね。族長の家は階段登ってって一番高いところだから、すぐわかるはずさ」
    「はい。ありがとう、セギモさん。本当に助かっちゃった」
     ピーナは荷台から飛び降りた。脇に置いていた旅の荷物を抱え直す。両手に抱えられる箱がひとつ、背中に背負った道具一式がピーナの全財産である。
    「おうよ。またご贔屓にィ」
     くるくると歌うセギモをのせて、荷馬車はふたたび走り出す。ピーナは、遠ざかる葡萄色の背中をしばらく見つめていたが、やがて気持ちを切り替えリトの村の入り口へと向き直り――まだそこに立つリーバルに気付いて、目を瞬いた。
    「えっと……あなたも、ありがとうございました」
    「どういたしまして。ピーナ、だっけ。君は馬宿じゃなくて、こっちに泊まるんだ?」
     いちいち勿体ぶったような声音を出す男である。ピーナは身構えながら頷いた。
    「村長からは、お手紙で許可をいただいてるけど……いけないこと?」
    「は? 別にいけないことないだろ、旅人が泊まらなきゃ宿屋は潰れるんだから」
    「え? あ、はい……」
     腕を組んだリーバルは、呆れたようなため息をついてから、ふいに村の方を振り向いた。
    「上がっていって、三軒目の建物さ」
    「えっ」
    「宿! 鳥の巣! 今の時間帯なら、セリって名前の、浅葱色の娘が店番してる頃だよ」
     物分かりが悪い、とでも言いたげに眉を持ち上げながらそうまくしたててから、リーバルはふいと顔を背けた。
    「じゃあ、僕は行くから。迷子になりようもないんだから、一人で行きなよ」
     それだけ言い残すと、たたっと村の方へ駆け出す。走って戻るのかと思いきや、リーバルの翼が大きくしなった。翼と助走の力で、ふわりと体が空へと舞い上がる。風がそよぎ、ピーナの前髪を揺らした。口を開けて離陸を眺めていたピーナは、はっと我に返って一歩踏み出した。
    「ありがとう! 助かった!」
     リーバルは答えるかわりに、一度だけピーナの頭上を旋回してから、村の上空のほうへと飛んで、見えなくなった。
     ピーナは木箱を抱えたまま、ほうと息をついたが、気を抜いている暇はなかった。門番らしいリト族の男が向こうの小島から桟橋を渡り、こちらへ向かってくる。旅人か、と問われて、ピーナは改めて名乗った。
    「王立研究所より参りました。神獣ヴァ・メドー調査員、カカリコ村のピーナと申します」





     ――厄災ガノンの復活近し。
     一万年前の災禍をかたる伝承が現実となると予言を受けたハイラル王、ローム・ボスフォレームス・ハイラルは、先祖に倣い、万全の準備を期すために多くの策を講じた。かつての王が手元から退けた王佐の一族――シーカー族を呼び戻したのも、そのひとつだ。かつて厄災封印のおり王国を援けたとされる古代の技術の再興を目的として、シーカー族の研究者たちを集めて創立されたのが、王立古代研究所である。王家より離れても細々と続いていた研究に、ルピーと場所と人員が割かれるようになった結果、退魔の騎士を援護する兵器である四神獣およびガーディアンたちの発掘も行われるようになった。ここ数年ほどで、古代研究は大きく進歩したといえよう。
     ピーナもまた、その進歩に貢献するため、シーカー族の研究者のひとりとして、十四のころから王立研究所で下働きをしてきた。今は立派な中堅どころ――ということで、単身、四神獣が一角、神獣ヴァ・メドーの解析をすすめるべく派遣されてきたというわけである。
    (まあ、構造自体は発掘時におおかた分かってるんだけど)
     リトの村に到着して三日。旅の疲れを癒したピーナは、早速リトの服を纏い、仕事に出かけた。すなわち、神獣ヴァ・メドーの発掘地点である、ヘブラ山脈への登山だ。
     ヘブラ登山口から少し登った斜面の上。白雪を薄く積もらせながら、神獣ヴァ・メドーは静かに佇んでいた。鳥の形の遺物は、遠くを見据えるようにして、今にも飛び立ちそうな勢いで、大きく翼を広げている。静謐な雰囲気はどことなく戦士然としていて、見上げようとすると自然と背筋が伸びた。
    「実物のほうがかっこいいな……」
     素直な感想が口をついて、ピーナはふっと笑みを漏らした。神獣の絵は発掘時の調査員が記録に残しているから、幼い頃にも一度、見たことがある。しかしながら、彼が描いたものから想像していたよりもずっと大きく、ずっと美しかった。
     メドー調査員の任務は大きくみっつ。ひとつは、このヴァ・メドーの解析の進行およびヘブラ地方の発掘調査である。来るべき繰り手選定に際し、繰り手にすみやかに神獣操作を身につけてもらうための一助とするためだ。数年前、厄災ガノンの復活が予言された際に発掘された四体の神獣たちは、発掘当時に存在の確認こそされたものの、未だ調査の手は十分に回っていない。研究員の人員的余裕、解析する遺物の優先順位、また各一族の土地に王家から研究員を派遣する上での外交的問題など――理由をあげればきりはないが、神獣はいまだ未知の部分も多い遺物なのである。
     重たい雪を踏みしめながら神獣の周囲を一回りしたところで、ピーナはふう、と息をついた。
    (たしか、文献によれば、制御するための端末が複数あるはずなんだよね。ここからじゃ見えないけど)
     メドーは飛行を常態とする。遺された文献が確かであれば、飛行状態のメドーの体は地面に対して水平となるため、容易く内部を歩き回ることができるようになるはずだ。もっとも、起動状態の神獣に乗り込むことができるのは退魔の騎士と王家の姫巫女、そして繰り手のみ。
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