「疑うのか? 俺は確かに叫んだぞ。大江山菩提鬼殺の声量で。」
「ホントかよォ……。」
「えっ、何なに? 何の話?」
藤丸立香が足を止めたのも無理はない。
カルデアの一角、渡辺綱に割り当てられた個室の前で、綱が金時に大真面目な顔でそんなことをのたまっていては、立香でなくとも興味を引かれるというものだ。
「たッ、大将!いやぁ、別に何でも……」
「主か。ちょうど今、この扉や壁の防音機能を検証していてな。」
「いやいやいや!!大将に言うこたねェだろ!?」
「防音機能かあ~、俺も気になるなあー。実際どれくらい聞こえないんだろ?」
慌てる金時をよそに、好奇心に目を輝かせた立香がそそくさと部屋に入り、廊下に立つ源氏郎党と向き合った。
「セリフ何にしよっかな。せっかくだしゴールデンの宝具にしようかな。えー、ゴホン。じゃあいくよ!」
「あ、お、おう。」
「……吹き飛べ、必殺!ゴォール」
プシュン。
扉が閉まった途端、立香の声がぷつりと途切れた。
数秒後、
「……っさつ!ゴォールデン、スパァァク!!!」
扉が開くと同時に、藤丸立香渾身の叫びが廊下に響き渡った。
「どうだった?」
「ほ、ほんとに聞こえねーモンなんだな……」
「そんなに!? 全然聞こえない感じ!? ちょっと代わってもらっていい? 俺も聞きたい!」
わくわく身を乗り出す立香の勢いに押され、金時はすごすご立香と入れ替わり、羞恥を気合で投げ捨てて2回ほど吼えた。
「カルデアってすげぇ~……!」
「主、協力に感謝する。おかげで良い検証になった。」
「全然いいよ、俺も楽しかったし!」
笑顔で廊下の向こうへ走り去っていく立香を見送り、綱は金時を見上げた。金時は腕組みの上、顔をしかめてそっぽを向いている。
「……音が漏れねぇのがわかったってよォ、……それとこれとは別問題ジャン……?」
「ふむ……そうか……。」
あからさまに残念がる綱。ぐぬぬと唸る金時。
結局その日の夜も、金時は声を抑えに抑え、昨日までと変わらない結果に終わった。
思案に暮れた綱が、後日、地下図書館で「愛の霊薬」について調べ始めるのだが、それはまた別の話である。