金時とて、己が過剰に照れていることは重々承知している。
綱との共寝に応じておきながら、ついあれこれとごねたり、どもったり、防御を固めるなどして、始まるものも始まらない夜が少なくない。
最近はええいままよと腹をくくって、霊衣を一気にほどいてバーンと裸一貫になってはいるが、直後にシーツをひっぺがして特大白饅頭になっているのであまり意味を成していない。
「金時。ひとつ提案があるのだが。」
「お、おう。なんだ?」
「うん。お前さえ良ければだが。今日は、霊衣の解除はしなくていい。それと、ことの進行に気を配って、自ら脱いだりもしなくていい。というのは、どうだろうか。」
その提案を受け、金時の頭に真っ先に浮かんだのは「願ったり叶ったりだぜ!!!!」という台詞だったが、寝台で膝を突き合わせておいてそれを口走るのはあまりにも風情が無いので、当初の予定を脳から追い出し、おごそかに頷いた。
○
「っ……ぃ……」
(マジでミスったかもしれねぇな……!?!?)
金時は両手で顔を覆って呻いた。同時に、今日特に意味もなく生前着慣れた装束を身に付けていた己を内心で罵倒した。
寝台に座る金時の背後から腕をまわした綱が、籠手をほんの少しずらして、隙間に指を滑りこませ、胸筋を撫ぜている。肉感に直結しない分、今の「絵面」を客観視できてしまう。
事ここに至っては、霊衣全削除で全裸になる方がマシだ。せめて籠手だけでも引きちぎるかの如く脱ぎ去りたいが、『それはしないと約束した』。
耳まで赤くした金時が「ぅぅう」と唸る様子を、綱はじっと見ていた。
「……金時。」
「……?」
「無理強いをするつもりはない。お前が嫌がることをしたいわけではないんだ。」
金時は言葉に詰まった。
水を得た魚のように霊衣を消し去ってもよかったのだが、熟考の末、金時はそれをしなかった。
「……いや、……その、よ。……」
羞恥は募るが、嫌というわけではない。
綱に求められるのを喜んでいる自分に気付いていて、それが居たたまれないだけだ。
かと言ってそこまで正直に吐露できるわけもない。
「……別に嫌とか思ってねえし恥ずかしくもねえよ。全然恥ずかしくねえ。」
金時は口を尖らせ、ぼそぼそとそれだけ表明して、あとは貝のように黙り込んだ。
恥ずかしくないと言うその割に、金時の頬も、耳も、肩も、相変わらず憐れなほど赤い。
「……」
金時の献身に、綱は目元と口元を綻ばせた。
胸に去来するその感情を、人は『いとおしさ』と呼ぶのだと、綱はまだ知らずにいる。金時の隣に在るだけで、たびたび胸が満たされる理由を、綱が知るのはもう少しだけ先の話だ。
……なお、袴をずらされた金時がいよいよ羞恥に耐えかねてバーンと全裸になるのは、そう遠くない未来の話である。