ねこをひろう猫がいた。
ぶちのねこで、ふらふらしている。
尾崎放哉はたまたま散歩に出ていたら、たまたまその猫を見つけた。
放っておけなくなり、猫をそっと抱き上げる。
猫は鳴いた。
逃げることはない。逃げるということが分かっていないように感じられる。
懐いているとか、懐いていないとかそういうことではなく。
「おかえりなさい。放哉さん」
裏門から帰れば裏門の守衛が声をかけてきた。
帝国図書館が対侵蝕者の前線基地として動き出したころからのルールとして、
守衛に挨拶をしておくことと言うのがあった。外に出たかどうかの把握らしい。
放哉と呼ばれるのは尾崎が先にいるからだ。尾崎紅葉。
会釈だけする。猫を抱きかかえたままでだ。
「猫ですか」
首肯。
話すのは苦手だ。俳句で会話をしたい守衛も分かっているようだ。
「分館のスタッフにいえば餌とか用意してもらえますよ。連絡をしておきましょうか」
首肯。
この猫は人懐っこいようで何かおかしいと放哉は感じていた。
放哉は分館の方に足を進める。
「放哉。散歩?」
「ああ」
「猫だ」
「分館」
「一緒に行くよ」
種田山頭火と逢う。二人で分館だ。
「おかえりなさい」
「あ、その猫」
「おっ」
松岡譲が出迎えて、側には小川未明と島田清次郎がいた。二人は猫を知っているのか覗き込む。
「ご近所さんで行方不明になった猫だよ。認知症だって言ってた」
「張り紙で見たな」
「連絡を入れますね。餌の方は」
「場所は分かる」
未明と清次郎は猫について知っていたようだ。松岡がすぐに連絡を入れに行く。
清次郎はこっちだ、と手招きした。分館の部屋の一室に猫部屋がある。放哉が猫を下ろす。
猫部屋には放哉が連れてきた猫しかいなかった。
「歩いてた」
「散歩をしていたら見つけたんだよね」
「猫がかかるのか」
「認知症か? 今じゃ猫も犬も長生きだ。かかるんだとよ」
放哉は会話が好きではない。しかし周囲は上手く拾ってくれている。山頭火が補足を入れて、
清次郎もいう。犬もかかるらしい。
「このままだと、死んじゃっていたかもしれないから」
「お手柄だよ。放哉」
未明が柔らかい餌を餌皿に入れた。山頭火が自分のことのように喜んでいる。
猫が餌を食べていた。
放哉は顔をほころばせた。