どんな私がお好みで「起きてる? ヒツキさん」
自室兼執務室にて報告書を書き終えた審神者の少女は両腕を枕にしながら寝転がりながら天井を眺めている明石国行に話しかけた。
「起きてますよ。主はん。ご苦労なことで」
「書かないと長義とかうるさいし」
報告書は直筆だろうがタブレットに打ち込みだろうがいいのだが今回は直筆だ。
「終わったら……何します?」
「映画見ようか。でたらめなやつ」
「ええですね。でたらめなやつ」
近侍は日替わりだ。二人選んでいる。ランダムで選べるアプリがタブレットPCに入っているので、それで選ぶのだ。
でたらめなやつはたまたま見つけた番組なのだが、短くで面白かった。映画版もあるらしい。
「長谷部さんは暑苦しいからヒツキさんぐらいがいいんだよ」
「あの人は真面目過ぎやから。自分はそこまで仕事しませんけど」
へし切長谷部は真面目だ。暑苦しいとしているが刀剣男士の中ではトップクラスに主に忠実である。
明石国行は仕事をあまりしないとしているが、仕事はやれる分だけしてくれればいい。本丸が大きくなるにつれて上の方から本丸組織図テンプレートが送られてきていた。
組織運営の方が時間遡行軍と戦うよりも大変であることもあるのだ。
「いいんだよ」
「主はんは自分に何をお望みで?」
「望み?」
「聞いてみようかなって。暇やし」
明石国行は両足を使って軽やかに起き上がり、胡坐をかいた。
「んー……まずはおかしと飲み物を食べたり飲んだりしつつでたらめなやつの映画を見て」
「ええ」
「それからもしも何かあったら生き延びてくれればいいよ」
彼女は脳内から考えを絞り出して、明石国行にやってほしいことを雲を掴んで目の前に差し出すようにして頼んだ。
「――主は?」
「自分で自分の身は護るよ」
聞いてみれば彼女はそれが出来るというように肩をすくめた。刀剣男士よりは弱いけれども彼女は戦える。もしも何かあったらとしているが、可能性は出来うる限り潰すようにしているが、それでも何が起きるのかなんて、だれにもわからない。
「お菓子は何にします?」
「チョコかクッキーかな」
「りょーかい」
明石国行は彼女が好きなお菓子を持ってくることにする。
彼女に知られてはならない。彼女は重い気持ちを苦手としているから。背負うようにはしているけれども、
平等な態度になるようには振る舞っているけれども。特別になりたいと思ったら、察されたら、逃げられる。
(逃がすつもりはないけれども)
なんて。
重々しいこと。
ヒツキさんと自分を呼んでいいのは主だけだし、
何なら。彼女に何かあれば上を敵に回すこともいとわない。
「主が望むし、私も、そうしたいから」
まずはお菓子と飲み物を。
台所で明石国行は、飲食物を探す。