猫達の花見『……何をしているんだ? こいつ等』
「起きたらこうなってたんだよ」
心底呆れている声が聞こえた。直木三十五が目を開ければ頭上には満開の桜が咲いていて、伸ばしていた両足には重みを感じていた。右足にはラヴクラフト、左足には芥川龍之介がいる。膝枕だ。重い。
直木の側には読みかけの分館から適当に借りてきたアンソロジーが置いてある。
声の主は外見が七歳ほどの少女だ。ぷち『くま』である。十代の姿をしている『くま』が姿を縮めたものだ。普段の姿は着ぐるみのようなものであると直木は前に聞いたことがあった。
『お前は寝ていたのだろう』
「春の夜の夢だよ」
桜の花弁が落ちてくる。
直木の髪やラヴクラフトの髪、芥川の髪に落ちる。
ラヴクラフトの長い髪にいくつもの桜の花びらが着く。
黒に、さくらいろ。
『暫く花見は楽しめるか』
「宇宙に咲いた花みたいだな。二人の髪に落ちてる」
『お前の髪にも、明るい色だ』
耳をすませば、詩の暗唱が聞こえてきた。
「ボードレールか。……確か萩原の詩」
『人の気配が増えるぞ』
直木たちのいるところは庭の奥だ。余り人が来ないとはいえ、
「動けねえからな」
『……起きたら特製さくらアイスと団子をやろう』
「アイス」
「団子!!」
二人がぱっとおきた。ナオキの足が軽くなる。
「狸寝入りするなよ。膝が重かっただろう」
「寝ていました。ナオキ。見つける。私、寝ました」
「僕も膝枕したかったもん」
ぷち『くま』がカップ入りの桜のアイスクリームとこしあんの乗った団子を出す。
「詩が聞こえてきたな。ボードレールの新作か」
「僕たちはここでのんびりしていようよ」
「する。します」
ゆったりと猫達は花見を始める。