「かっ、カッ、カブルーが頭打って意識不明ってホント?!」
息せき切って部屋へと入ってきたのは、髪を乱したマルシルだった。彼女は大きな瞳を不安げに見開き、杖を支えにしながらぜえぜえと肩で息をしている。
部屋の中にいたヤアドが、彼女を宥めるように指を口に当てた。
「ええ。けれどもう治療は済んでいますよ。今は眠っているだけです」
「よ、よかったぁ……」
マルシルがへなへなとその場に膝を突いた。落ち着いたヤアドの様子にほっとしたのか、目には安堵の涙を浮かべている。
「ライオスさんが一緒にいたので、処置が早くて助かりました。ね? ライオスさん」
「えっ、ああ、うん……」
ベッドの脇に座っていたライオスが、声をかけられてはっとしたように顔を上げた。どこか気まずそうに顔を見合わせ、傍で眠るカブルーにまた視線をやった。膝の上で組んだ手を落ち着かなさそうに組み替えながら、ライオスはじっと黙っている。その表情は硬く、どこか青褪めているようにも見えた。
20609