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    mikan__kankitsu

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    POIPOI 13

    mikan__kankitsu

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    ラギ監♀ オメガバースパロディ 2話

    1話→https://poipiku.com/1480272/5647263.html

    運命なんて食いちぎって② あの瞬間、否応なしに理解した。
     理性が警鐘を鳴らし、本能が叫ぶ。
     この子がオレの、運命の番だ、と。

    ***

     一般的に優遇されることが多いアルファという性は、スラムにおいては一昔前のオメガと同じく、消費される側になる。

     魔法医術や薬剤合成の技術が発達した現代において、オメガの、主にヒートにまつわる問題点は解消された。それにともない、オメガへの冷遇や差別といった後ろ暗い話は過去のものとなり、歴史の教科書に戒めとして刻まれるようになった。
     これが世の中の常識だが、スラムでその常識は通用しない。エレメンタリースクール入学時に一斉で行われる検査も、症状や人種に合わせた多様な抑制剤も、スラムで暮らす人々にとっては無縁のものだ。そもそもエレメンタリースクールに通う子どもはほとんどいないし、抑制剤を吟味し、定期的に購入し続ける財力を持った家庭も皆無。十代のどこかで〝ヒートを発症する〟か〝ヒートにあてられて発情するか〟でオメガやアルファを認識して、何もなければベータだろうと判断するのがスラムの常識だった。
     そんな環境だから未だに、ヒートを起こすオメガへの冷遇も消えていない。そして抑圧に耐えかねたオメガの鬱憤は「アルファと番になることで解消されるはずだ」と、半ば信仰に近い形で渦巻いている。番になればヒートが起こっても、アルファを誘惑するフェロモンを発さなくなる。アルファという世の中のエリートたる存在と番になることで、冷遇の根源であるヒートへの不安を消し、同時に玉の輿に乗れば、このスラムから脱することができるはずだ、自分が受けている理不尽は消えるはずだ、と。そう信じて、スラムに生まれたオメガたちは、男女問わずアルファ探しに躍起になるのだ。それを利用した外の街のアルファが、番になろうと甘く囁いてオメガを籠絡し、身体に飽きたら捨てていくといったことは日常茶飯事だった。一方的に捨てられたオメガはヒートになっても他の人と行為ができず、その欲情を持て余して朽ちていく。そういった現実を、オレは何度も見てきた。

     オレが自分のバース性を知ったのは、十四歳の時だ。小銭稼ぎの真似事をできるようになって、月に一度の豪遊だと、ばあちゃんと買い物に繰り出した帰りのことだった。
     家の近くの路地裏で、見知らぬ女が座り込んでいた。それだけならスラムではよくある光景だ。ただその人に近づいた途端、オレは両手に抱えた荷物を落として、膝から崩れ落ちた。異変に気づいたばあちゃんがオレを抱えて家に連れ込んでくれたから大事には至らなかったけれど、その時に自分がアルファなのだと唐突に理解させられた。
     それからというもの、オレはオメガのヒートを最大限に警戒して日々を過ごすことになった。番探しに躍起になるオメガがアルファを襲う。これもまたスラムの日常茶飯事だったから。近所でオメガだと判明した人がいれば、そこには絶対に近付かない。街中でヒートに遭遇したら、人混みを離れ、腕を噛み、自分の意思に関わらず反応する体を痛めつける。そしてその痛みで、欲情を紛らわすのだ。
     それでもどこからか噂を聞きつけたオメガが、自分を番にしろと迫ってくる。ばあちゃんがいなかったら、オレはすでにオメガに食われていただろう。

     ナイトレイブンカレッジは、さすがは名門校で、そもそもオメガの数自体が少ない上、その全員が確実に抑制剤を服用している。ヒートから逃げ回る生活が終わり、日々を生き抜くのが格段に楽になった。その代わり今度は〝スラム出身のアルファ〟としてやっかみを受けることが増えたわけだけど。
     スラムではない、いわゆる普通の世の中では、オメガの冷遇は消えかけている代わりに、アルファの特権階級意識だけは強く残っているらしい。いわく、自分達は選ばれた存在で、優秀で、特別なのだ、と。そこにスラムなんていう掃き溜め出身のアルファが混じっては自分達の冠に傷がつくと、そういうわけだ。
     入学当初、勉強についていけなかった頃は「きっとあいつはアルファじゃない」「スラムにアルファがいるはずがない」と陰口を叩かれた。レオナさんに勉強を見てもらうようになり、マジフト部で活躍できることも増え、サバナクロー寮内でのポジションを確立させるに従い、そういう声は消えた。そうすると今度は、陰口を言っていた奴らが手のひらを返して「さすがアルファだ」「やはりアルファは優秀だ」と褒め称えてくるようになった。

     うんざりだった。
     生まれ持った性によって振り回される生活も、オレ自身の努力を、苦労を、勝手に性の手柄にすり替える奴らも。そんな声はただの戯言だと切り捨てても、蛆虫のようにまた雑音が湧いてくる。

     だから余計に惹かれたんだと思う。この世界の常識に染まっていない、無垢なユウくんに。アルファを「左利き」と例えてしまうその感性が、オレをどれだけ喜ばせるか、ユウくんは知らない。
     ユウくんがベータで良かった。オメガだったら、いつかオレ自身の意志と関係ないところで、ユウくんを求めてしまう。ベータなら、オレが、オレの意志によって、本当にユウくんを求めることができる。

     そう思っていたんだ。あの瞬間まで。

    ***

    「ラギー先輩、ご迷惑おかけしてすみませんでした!!」
    「ちょ、ユウくん、声でかすぎ!」
     セベクくんに張り合えるんじゃないかというくらいの大声とともに、ユウくんは深々と頭を下げた。始業前の人気の少ない裏庭でくつろいでいた鳥たちが、慌ただしく飛び去っていった。
     ユウくんのヒートに遭遇したのは一週間前。あの後、どうにか寮に帰ることはできたものの、そこからオレは丸一日寝込むことになった。ベッドに倒れ込んで意識を飛ばし、差し込む朝日で薄ら目を覚ますと、オンボロ寮に帰ったユウくんからは夥しい数の着信やらメッセージやらがきていた。『昨日は帰ってすぐ寝ちゃったッス、ごめん』と返信してから、また泥のように眠りについて、まともに活動できるようになったのは夕飯の時間になった頃だった。
     今まで何度もヒートに遭遇してきたものの、ヒートに当てられた瞬間の昂りも、その後の異様に長引く欲情も、今までに経験したことがないほどの強さだった。そして今も、
    「あの、左腕、本当に大丈夫ですか? それ以外も……」
    「ん……あぁ、うん。オレ頑丈なんで」
    「良かったぁ」
     ホッとした表情でユウくんが息を吐き出す。その微かな空気の揺らぎが、立ち上るユウくんの匂いが、柔らかそうな頬が、手が、髪が、視線が、寄り集まってあの日の熱を思い出させようとしてくる。治癒魔法をかけてもらって傷の塞がった左腕も、あの時の痛みを再現しようとして疼いた。
     ユウくんは一週間休んでいたからヒートは終わっているだろうし、そもそも抑制剤を服用していたはずだ。それなのに、この刺激。ユウくんがこの世界の人間じゃないからとか、初めてのヒートだからとか、抑制剤が合ってないんじゃないかとか、理由は散々考えてみるものの、一週間前にその答えは出ていた。
     運命の番。
     それは教科書にも載っていない、眉唾ものの夢物語。しかし親から子へ、子から孫へとまことしやかに伝えられ、誰もが知っていて、待ち望んでいるもの。この世界のどこかに運命の番となるアルファとオメガがいて、出逢う可能性は奇跡に近いけれど、出逢えば自ずと理解するのだ、と。
     ずっとくだらないと思っていた。運命なんて、奇跡なんて、馬鹿みたいな話だ。自分の意思でどうにもならない夢物語を見る暇なんてない。そんなものに身を委ねたくない。オレの未来は、番は、オレ自身が選んで決めていくんだと、そう思っていた。それなのに。
     この子が、ユウくんが、そうなのだろう。確証はないけれど、確信めいたものなら、ある。
    「ラギー先輩?」
     心ここに在らずなオレの顔を心配そうに見上げてくる瞳が、朝の日差しを透かして、ミルクを注いだカフェラテのように揺れた。
     ――うまそう、だな。
     いつもの、コーヒーのような濃いブラウンじゃないその瞳が、朝食で満たされたはずの食欲を呼び起こしてくる。頭の中でどうにか切り離した理性が、それは性欲と食欲がこんがらがっているんだと怒り散らしながらも、それこそが運命の番ゆえだと喚く。勝手に湧き上がる欲望を追い払おうとして頭を振ってみても、根を張るようにまとわりついたそれは離れる様子がない。
    「……だから嫌なんスよ」
    「え?」
    「あー、いや、こっちの話」
     なんでよりにもよって、ユウくんがオメガなんだ。今となってはユウくんに惹かれていたのが、オメガであることが理由なのか、運命の番だからなのか、ただ惹かれていただけなのか、わからない。どこまでが自分の意志で、どこからが本能なのか。
     ――だから嫌なんだ、アルファなんて。……オメガなんて。
     思わずまろび出そうになった言葉をどうにか飲み下す。それを口にしたら、オレのことをスラム出身のアルファなんて、と散々バカにしてきた奴らと同類だ。
    「……い、ラギー先輩!」
    「ん?」
    「話、聞こえて……ない、ですよね。ラギー先輩、体調悪そうです……。ごめんなさい、本当に。もう迷惑かけないようにするので」
     申し訳なさそうに眉尻を下げたユウくんが、がっくりと項垂れた。どうやら何か話しかけてくれていたらしい。いい加減にしないと、まともに会話が進まない。
     もう一度強めに頭を振って、ユウくんに向き直る。さっきよりは些か、視界と思考がクリアになった気がする。そうして視界に飛び込んできた形のいいつむじを、いつも通り撫でようとして伸ばした右手を寸前のところで引っ込めた。
    「ごめんごめん、何の話だっけ?」
     つとめて明るい声を出すと、ユウくんは少し安心したように顔を上げた。ふにゃりと笑った顔がどうしても愛おしく思えてしまって、釣られて緩みかけた頬の内側の肉を軽く食む。
    「はい。えーと、もうラギー先輩には絶対迷惑かけたくないなと思ったんです」
    「うんうん」
    「なので、番を探そうかなと思ってます!」
    「うんう…………ん? は?」
     いま何て言った?
    「ユウくん、いま何て言った?」
    「え? だから、番を探そうかなと」
    「はぁぁ!?」
     素っ頓狂なオレの声に、ユウくんが驚いて目を丸くする。その顔をしたいのはオレの方だ。番を探す。番を探すと言ったのか。その意味がわかってるのだろうか。
    「ユウくん、番の意味わかってる?」
     ダメだ。さっきから頭で考えたことがそのまま口から飛び出している。
    「わかってますよ!」
     晴れやかなドヤ顔でユウくんが笑う。わかって言ってるなら尚のこと大問題だが、どう見てもこれはわかってない。絶対わかってない。
    「番を見つければ、ヒートの時にフェロモンが出なくなるって書いてありました! そうしたら、この前みたいに迷惑かけることもないし、私としても平穏に暮らせて安心だなと!」
    「……一応聞くけど、何に書いてあったんスか?」
    「え? 教科書ですけど?」
    「教科書……」
     教科書ってあれか。この前図書館で読んでいた、エレメンタリースクールの。返す時に見たあれは、エレメンタリースクール入学したての子向けのものだった。年齢にしては六歳前後。変なところで真面目なユウくんのことだから、どうせ幼児向け絵本あたりから律儀に順番に読んでいってるのだろう。その頃の教育では、バース性の特徴に触れていても、その先にある行為や関係性には突っ込まれていない。余計な常識から遠ざけたくて、その教科書すら読ませないように片付けたのはオレだから、ある意味では因果応報なんだけど。それにしてもなんで、そんなぶっ飛んだ話になってしまうのか。そもそもナイトレイブンカレッジに通うことになったとき、教師たちに説明されなかったのか。
     脳内で騒がしくツッコミが駆け巡り、オレは頭を抱えた。
     ユウくんの、常識に染まっていないところを、好ましいと思う。純粋なままでいて欲しいと思う。オレのこの反応を見て小首を傾げているところも、可愛いと思う。でも、それはそれとして、最低限の常識がないことの危うさがよくわかった。
    「じゃあラギー先輩、私、教室行きますね。今日は先日のこと謝って、これからは心配いりませんって伝えたかっただけなので……呼び出しちゃって、すみませんでした」
    「ちょ、ストップ!」
    「え?」
     用は済んだと言わんばかりの、跳ねるように軽やかな足取りで校舎に向かおうとしたユウくんの腕を掴む。振り返ったカフェラテ色の瞳が瞬いた。
     いまこの手を離したら、ユウくんはどこかの誰かに、このとんでもない提案をしに行くのだろう。きっとユウくんの周りにいる人たちなら、こんな提案は止めてくれるはずだ。でも、もし、万が一。その提案を受ける奴がいたら。ユウくんと番になる奴がいたら。
    「……ユウくんの事情わかってるアルファなら、ここにいるじゃないッスか」
     そんなこと、絶対に、許せない。
    「ね、ユウくん。番にするなら、オレが適任でしょ?」
     湧き上がった衝動が、想像しただけで煮えくりかえる腸が、ユウくんを手に入れたい欲求が、本能なのか理性なのか、今のオレにはよくわからない。唯一つ、この手を離したら一生後悔するという確信だけが、オレを突き動かしていた。
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