on your behalf「内部に侵入した蜘蛛型残兵の排除を開始します。これより室外での活動を規制します。不可避の場合、中央へ申請と警備の要請を。繰り返します……」
物々しい放送が流れる中、残兵排除の最前線として設置された詰所の内部は静かだった。
「では行ってまいります」
猫と塩野を含めた数人の技術者が見守る中、ハリスの似姿は優雅に立ち上がる。
残兵をおびき出すデコイとして作られたその体は、技術者達の手によってより精巧に緻密に作られた物理ボディ。内部に接続されているのは、塩野の生活改善コンサルタント。
「塩野、そちらは頼みますよ」
「気をつけてな」
いつもは自分を送り出す側のコンサルが、デコイの体でこちらに手をひらりと上げて詰所の外へと歩き出して行く。
送り出すという普段と違うやり取りに、違和感と緊張感を改めて感じる。
塩野は右首を軽くさすった。
残兵に噛まれた傷は治療されてもう跡もない。残っているのはあの時の痛みの記憶と怒り狂うコンサルへの驚き。今なら何となくコンサルの怒りの気持ちがわからなくもない。物理ボディは直せるが、だからといって攻撃されるのを許すのは癪だった。
次々にディスプレイに映し出される周辺の映像と各種データから、残兵が潜伏していそうな場所の分析が始まる。
「……見つけた!」
塩野の呟きにいち早く反応したデコイの手が素早く動き、岩陰にいた小さな残兵を力一杯握り潰した。
「さあ、全部破壊しましょう。これ以上誰も傷つかないように」