忘れもの「こんなところで、どうしたの」
「……なんでいるんですか?」
茨はなにもない更地に佇んでいた。正確には木々に囲まれた、林の中で、「売地」と書いてある看板があるけど。それだけだ。
更地はそれなりの面積があり、もとは施設かなにかがあった、そんな感じの広さがある。
茨は声をかけるまで、まるで私の存在に気づいていなかったみたいな反応をする。そのわりには驚いた素振りもなく、ただの質問はただの質問で返された。
今日の茨はどこかおかしい。
「なんだか茨のことが気になってね、着いてきたんだ」
「ふぅん、まあ、いいでしょう」
尾行にも気づかず、こちらの質問にも応えない。らしくない点がいくつもある。
茨は登山に使うようなバックパックを担いで、夜を跨ぐようにここまで歩き続けた。辿り着いた場所は茨が抱えている業務と関係があるとは到底思えない、なにもない場所だ。
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