「おサカナ食べた〜〜い!!」
切っ掛けはバーニスの我儘だった
「チートピアにだって魚のメニューはあるだろう」
「あれは川魚じゃん わたしが今食べたいのは
海の魚!プルにゃんだって食べたいよね?」
「ネコのシリオンだからって魚ばっかり食べてる
ワケじゃないんだけど
せっかくだからカモメの餌やりのついでに
釣りでもしてくれば?」
……というわけでポート・エルピスで釣りをする
羽目になったと言うわけだ
釣竿にクーラーボックス、熱中症対策の麦わら帽子に
折り畳みの簡易椅子 どう見ても釣り人…のはずだ
流石にレザーのジャケットは蒸し焼きになるので脱いだ
場所が悪いのだろうか 1時間ほど釣り糸を垂らして
いるがピクリとも動く様子がない
移動した方がよさそうだと思い始めた所で
声をかけられた
「釣れますか?」
対ホロウ6課の浅羽悠真だ 暑い中長袖に日傘まで
用意してご苦労な事である
「仕事はどうした」
「自主的な休憩でーす 見てていい?」
「全然釣れてないぞ」
「日陰に入れてあげてもいいですよ」
「……椅子、使うか?」
「なんか親切すぎてキモーい」
「じゃあ帰れよ」
「……帰らないのか」
「僕が海を見てる足元でたまたまあんたが
釣りをしてるだけだから」
「……そうか」
岩と砂ばかりの郊外とは違って見える太陽
吹き抜ける湿った風
聴き慣れない鳥の声
隣の奴は何も言わないし
何も聞かない ただそこに在るだけ
それでもやけに心地がいい
いつしか居眠りしてしまったのだろうか
悠真に肩を揺さぶられて目が覚めた
「ねえ ちょっと!引いてるよ!!起きろって」
釣れたのは20cmもない小魚だった
「釣れてよかったじゃん」
「そうだな」
これでは6人の腹を満たすどころか一口で
無くなるだろう
こんな事もあろうかと準備はしてきた
「……音動機付けて何する気 まさか」
「ここで焼いて食う 俺は今日『何も釣れなかった』
あんたも食うなら共犯だ」
「やめた方がいいんじゃない?『あんたが釣った魚』
である事が重要であって どんな大きさでも
喜んでくれると思うよ」
「公務員買収する気ならこっちにしてよ」
悠真がしゃがみ込むと日傘の陰で何も見えなくなった
唇を乾いてひんやりした何かが掠めていく
「……塩辛いな」
「あはは 雰囲気台無し 次はパラソルくらい
自分で用意してね」
「また会えるか?」
「気が向いたらね」
俺が初めて釣った魚はご丁寧に魚拓を取られて
チートピアに飾られた 大袈裟すぎるだろ
次はパラソルと椅子をもう一脚
クーラーボックスに飲み物くらいは用意してやるか
「ライト 釣りは楽しかった?」
「ああ また行ってくる」