休憩中にスマホをチェックしていると
見慣れないアイコンからのメッセージが入っていた
>主人がお世話になりました
……これ、浅羽先輩んとこの奥さん?
いかつい見た目で礼儀正しいんだな
この間の挨拶で無理矢理アドレス交換させられたけど
早速連絡が来るとは思わなかった
>先日は世話になった この間の礼も兼ねて
話がしたい 悠真抜きで
予定が空いてたら教えて欲しい
……これ ノコノコ出て行ったら先輩に殺される
やつじゃないか?
奥さんには悪いけど どうしたものか……
>先日はお疲れ様でした お体の具合は大丈夫ですか?
奥さんと二人きりは 流石に先輩に怒られるので
遠慮させてください
>体調は問題ない 心配ありがとう
奥さんは照れ臭いのでライトで構わない
悠真は俺が説得するから それでも駄目だろうか
>ライトさんの説得でも先輩が頷くかどうか…
自分も命が惜しいので 申し訳ありません
>悠真の許可があればいいんだな?
取れたらまた連絡する
奥さん食い下がるな そんなに先輩の学生時代が
気になるのか? まあ俺も先輩の新婚生活気になるけど
そんなやりとりをした事も忘れそうになった頃
奥さんから連絡が来た
>言質取ったぞ これで文句無いよな?
添付された画像には奥さんに関節極められて
涙目の先輩が写っている 力技で来たか……
もう俺も腹を括るしかない
>平日なら水曜が空いてます
そこからあれよあれよという間に日程と場所が
決まってしまった もう逃げられない
――待ち合わせ当日 昨晩届いた先輩からの
メッセージには呪詛でも掛けられていそうな
怨念を感じた
>セス君が人妻にちょっかいかける男じゃないって
信じてるけど 僕のライトさんに何かあったら
ただじゃ置かないよ 余計な事喋らないでね
――殺る気だ。話題のチョイスをミスったら殺される
出来るだけ穏便なエピソードを選ばなくては
……はて、そんなもんあったか?
待ち合わせ場所へ10分前に着くと既に奥さんが
待っていた
「お待たせしました」
「俺も来たばかりだ」
「……確かに俺 ラーメンは嫌いじゃないって
言いましたけど ◯蘭は落ち着いて話す
環境じゃなくないですか」
「顔が隠せて 腹一杯食えるいい案だと
思ったんだが」
お互いトッピング全乗せして替玉おかわりもした
「よし もう一軒行くか」
「飲み会じゃないんですから」
……なんでそこからコ◯ダなんだよ 胃袋異次元か?
「シ◯ノワール半分食うか?」
「……ありがとうございます」
「さてここからが本題だ 悠真の学生時代の話が
聞きたい 昔からぶりっ子してたのか?」
「先生の前では行儀よくして裏では生徒牛耳って
ましたね 学校で一番強かったですし」
「あの顔で番長かよ ウケる」
「しょっちゅうパシらされました」
「あんパン買ってこいとか?」
「購買のコロッケパンでしたね 合宿の時なんて
夜中に宿舎を抜け出して……」
出るわ出るわのわんぱくエピソードに
腹抱えて笑っているうちに日が暮れてきた
夕飯までには帰る約束だ
「あいつ昔から猫被ってたんだな ありがとう
色々聞かせてくれて」
「いえ こちらこそご馳走になっちゃって」
「またいいネタがあったら聞かせてくれ じゃあな」
「お疲れ様でしたー!」
さて帰ったら旦那様のご機嫌を取らないとな
夕飯はこの間喜んでたあれにして ゴーヤジュースも
付ける デザートは……俺でいいか
「ただいまライトさん!おでかけ楽しかった?」
「お帰り悠真 夕飯出来てるぞ」
「……どこまで聞いたの?」
「何の話だ?」
「だから昔の僕の武勇伝的な……」
「マサマサかっこい――」
「カッキーン……って古いよネタが」
「コロッケパン買いに行かせたくらいしか
聞いてないぞ」
「セ〜ス〜く〜ん〜!」
「怒るなよ 俺が無理言って話してもらったんだ
猫被ってるのは変わってなくて嬉しかったぞ」
「喜んでいいのかなそれ」
「今よりかわいい顔して柄が悪いとこ
見てみたかったな タイマン挑みに行きたい」
「セスくん今度シメる」
「叱るなら無理矢理聞いた俺にしろよ
食後のデザートに」
悠真にキスするとゴーヤの味が残っていた
「…………苦い」
「歯磨きしてからにすればよかったね」
「しようぜ 悠真」
「今日は積極的だね いいよ」
その晩は焦らしに焦らされて泣かされたし
セスも後日痛い目にあったらしい 悪い事をした
「セスはいいやつだな」
「呼び捨てになってる――!」
「一緒に飯食っただけだ 何もなかったのわかるだろ」
「わかってるよ あの子堅物だもん」
「随分かわいがってるんだな」
「頼りにしてるよ 本人には言いたくないけど」
「直接言ってやればいいのに」
「嫌だよ 絶対言ってやらない」
これからも苦労しそうだぞ 後輩くん
うちの旦那をよろしく