きらきら 顕現した日の夜、仲間たちが開いてくれた歓迎の宴を抜け出して、ふらりと涼みに出た縁側。見上げた夜空に瞬く星々の光に目を奪われた。
小さいはずなのに力強く輝くその光に、何故だか酷く焦がれて、思わず手を伸ばす。ついつい身を乗り出し過ぎたその体が、空とは真逆の方向へぐらりと傾いた。
「っと、危ない!」
声とともに手を掴まれた松井の体は縁側へと引き戻れさる。驚いて、手の主の方へと顔を向ければ、そこには松井と同じように驚いた顔をした豊前の顔があった。松井が無事な事に安心したのか、ほっとしたような顔をして豊前が口を開く。
「どうしたんだ、まつ。酔っぱらったか?」
「あ……いや、星が」
「星?」
松井ぽつりとした呟きの言葉に、豊前は僅かに首を傾げつつも夜空へと目を向けた。きらきらと輝く星々を負けないくらい輝くその瞳に映すと、見惚れたように僅かに表情を和らげる。
「へえ、こりゃ見事な星空だな」
「うん、すごくきれいだから、手に取ってみたくて……でもダメだった。豊前なら取れる……?」
「え!?う、うーん……」
豊前が目を丸くしながら松井の方を見て、困ったように笑う。そんなはずないのに、なんとなく、豊前なら出来るような気がした。
「……ごめん、やっぱり酔ってるかも」
松井が次いで、助けてくれた礼を口にすれば、豊前がまた笑って、松井の頭を軽く撫でる。その笑顔の輝きが、星に似ていると思った。
――星は途方もなく遠くにあるらしい。
松井がそう聞いたのは星に手を伸ばした夜からしばらく経った後だった。光が届く速度はとても速いけれど、その速さを以てしても何年、何百年、場合によっては何万年という時間をかけて星の光は届くという。
だから、例え夜空で輝いている様に見えても、その星々は既に滅びてしまっているかもしれないのだと、そう聞いた時、やっぱり星は豊前に似ていると思った。
「まつ!」
とある昼下がり、処理を終えた書類を数枚抱えた松井が本丸の廊下を歩いていると、張りのある声で呼び止められる。声の方を振り返ると、遠征に出ていた豊前が駆け寄ってきた。
「豊前、帰ってたんだね。おかえり」
「ああ、ただいま。なあまつ、手ぇ出して」
言われるがまま、手を差し出すと豊前がその手のひらに小さな巾着包みを乗せる。なんだろうか、と松井は首を傾げるが、豊前の開けてみろという視線に、そっとその包みの紐を引いた。
「……これは」
松井の目に飛び込んできたのは、色とりどりの金平糖。はらり、と開いた布地の中に収められたそれはまるで星くずのようだった。
「今回の遠征の土産だ。ほら、前に星を手に取ってみたいって言ってただろ?代わりと言っちゃあなんだけど、な」
少し照れくさそうに笑って、頬を掻きながら豊前が言う。松井はそんな豊前の顔と手の中の金平糖を交互に見つめた。昼間にも関わらず、それらはどちらもまるで星の様にきらきらと輝いて見える。それは確かに手に出来た、星の輝きだった。
「それを茶請けにでもしてちょっと休憩しようぜ」
豊前の言葉に少し微笑みながら、松井は頷く。豊前はやっぱり星に似ていて、それでいて松井にとっては星よりも輝く存在だった。