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    kiauztoka

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    kiauztoka

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    イリスとイノが海でいちゃいちゃするだけです イチャイチャしてません

    しょっぱいあじわい、きょうはなしで!──来る日は最終日だ。

    夏、この地に舞い降りて、長らく、アイリス・イーベリースは潮騒を聞いていた。
    毎日違った音がする。毎日違った波の色が見える。人は泳ぐし、楽しげな声が聞こえる。
    照りつける日差しは何よりも強い。森と違って、遮るものなんて一つもない。直接、真っ直ぐに降り注いで、自分を焼き尽くそうとするくらいの強い光を、作り物の肌に感じながら、毎日のように、目に広がる青色を捉え続けていた。
    夏、夏、海で過ごす夏!
    初めてのもの。毎日、心が躍るようで。楽しさと日差しの暑さが、体の中で暴れ回るようで、何もかもがしたくなる。
    夏という季節がそうさせるのか。海という、開放的な空気がそうさせるのか。
    何故だか用意されている大量の資金。
    何故だか用意されている、新品の水着と帽子。
    それらを装備、「ひろってくたさい」のかごにいられた、見知った食べ物の子たちを抱えて、向かうところ敵はなく。遊び尽くせば楽しい日。熱に浮かされるがままに、自分のやりたいことを、やりたいように。
    夏の思い出。行ってみたかった海の、思い出が、死後できるなんて思ってもいなかったのだ。

    けれども、そんな楽しい日すら、最終日までの助走でしかないのだと、イリスは思っていた。
    夏の最後の日。生命の輝きが終わるような哀愁が、普通は襲うのかもしれないが、
    何よりも楽しい日になることを、彼女は確信しているのだ。
    いつまでも、今日は無理だと都合のつかない「ふり」をしている、その人をぼんやと思い浮かべながら。


    そう、来る日は最終日。
    その日、その昼、その正午。イリスはというと─
    「……」
    カンカン照りの日差しの下、食べ物たちを抱きしめながら、仁王立ちをしていた。普通の人なら、熱に眩んで倒れてしまうような暑さ!けれども、彼女は仁王立ちをしている。
    濃い影が白い砂浜に伸びている。影が伸びるように、彼女も伸びてしまいそうなものだが。
    そも、「ねっちゅうしょ」なるものとは無縁のこの身、いくらでも立っていられる。それに、自分はここで待っているぞと。何より彼にアピールできるのは、ここの場所であり─

    「……なァにしてんの」
    呆れたような声がかかる。
    力強く振り向けば、そこには声と同じように呆れ顔の彼─イノがいた。
    アロハシャツにサングラス、なるほど、実に夏らしいラフな格好、と吟味するようにわざとらしく顎を触ってみせる。
    「何も!」
    ようやく訪れたその人に、パッと笑って見せながら、イリスは元気よく声を出す。数分間も炎天下の下で立っていたとは思えないほどの威勢の良さ、決してお天道様には負けやしない。

    まずは食べ物たちを飼い主に返し、いざ二人は再び向き合った。

    イリスは明るい気持ちで胸を膨らませる。待ち侘びたのはこの日、この時。
    彼と過ごす夏の日。何よりも変えられない、宝物のような日になるのだと。まだ何も始まっていないのに、いいや、何も始まらなくても、勝手に!高まるのは幸福と期待。笑顔が溢れてしまう。
    「やっと声かけたなイノ」
    すかさず手を掴む。今日は逃げないだろうけど、逃さないという、先手。
    今日が何ヶ月かぶりィ、久しぶりの再会って訳でしょォ、なーに言ってんの、と。彼は勝手に結ばれた手を、困惑気味に眺めていた、
    それでも手を解かないでいるあたり、彼なりの意思の表示だと勝手に受け取って。
    「嘘つき。遠くから見てたでしょ。サングラスかけて」
    サングラスの上からの双眼鏡。果たして意味があるのか?と思わずにはいられなかったが。イリスは双眼鏡について詳しく知らないから、深くまでは突っ込まず。それでも、わざとらしく頬を膨らませて見せながら、彼へと事実を突きつける。
    「……やァだァ!何々ィ、そんな不審者がいたのォ、まァじ??イリスよォ、それ大丈夫だったァ?無断撮影、されてなァい?」
    しかし、彼は動揺することはなかった。わざとらしく口の前で手を広げつつ、いつもの軽薄な調子で話し出すから、イリスはむう、と呆れたようにさらに頬を膨らませて見せる。無断さつえー?されてないよ、とは答えて。
    「ふーん、不審者。君と同じくらいの背丈の、おんなじ髪型とサングラスの不審者。変な人だったな」
    繋いでいない方の手を伸ばす。身長、その姿だと、伸ばしやすくていいな、と感じながら、てい、と指でサングラスを弾いてみせる。
    爪でパチンと軽い音が響いた。
    「やァン」
    「うそつき。下手なんだからそんな嘘つかないの」
    わざと拗ねたような目を向ければ、ヘラヘラした態度は崩れ、苦笑いを向けられる。
    「……流石にやになったッしょ」
    「…なんであたしにだけこうかなあ、と思うけどね。やになんてならないよ。相変わらずだなって思っただけ」
    随分と変な形の特別だ。歪な形、不器用な人。
    大切なら、近くにいてくれればいいのに。近くに寄り添ってくれればいいのに。
    遠くから自分を眺めて、随分しあわせに目元を蕩して、にこにこしているのだ。

    …それ、あたし以外にやったら普通に嫌われるから、ね!と手を解けば、間髪入れず、ぐに、と彼の頬を摘んで見せる。
    彼が声出す間もなく、意表をつかれた顔をしたのが面白くて、あはは、と笑ってしまって。
    にこにこしながら、引っ張って、伸ばして、くにくにつねって、そのまま頬で遊んだ。
    ひとしきり遊んで、こねくり回して。指を離し。もう一度、手を握る。指を絡めて。
    「これで帳消しにしたげるから。ほら、遊び、連れてってくれるんでしょ?それくらいは、約束守ってよね」
    今日一日しかないの、きみとたべものくんたちと、思い出、たくさん作るんだから、と、今度こそイリスは期待に満ちた笑顔を向けた。
    彼はというと、金の瞳を困惑気味に見開いていたが。笑顔を向けられれば、ん、と。仕方ないような、困ったような笑顔を見せて。
    「…クハ、仕方ねえなァ。オッケェ、いいわァ、まかしとけ。ほどほどに楽しい一日にしたげる」
    「すごい楽しい一日がいいな」
    「無茶言うなァ、そこまで期待持たれるとォ、流石の俺も参っちゃァう」
    クハクハクハ、と笑って見せた後に、イリスは彼に見つめられる。

    「………すまんな」
    「…ん?……だからいいって、仕方ないから許したげる」
    「クハ、イリスは優しいなァ」
    「ふっふっふ、もっと褒めてもいいよ、もう、何日もお預けされて…」
    「よォし、ならもっと褒めちゃァお、イリスはすんごい優しい」
    「もっと他にないのか」
    「めちゃくちゃやーさし♡」
    「優しいのはわかったから…!」
    他に言うことはないのか、と言いかけたところで手を引かれる。手の力は強くなってほんの少し強張ったように。
    「かわいい」
    「だか、……ん?………あ、…ワンモア!」
    「…ノ〜。クハ、やァだ!」

    ワンモア〜!!と、強く言いながら、高々とした彼の笑い声が波の間に消えていく。
    きっと明るい。お日様は、どこまでも高く。
    青空の下、やいのやいのと。言い合う声と笑い声が、長らく響き渡る、穏やかな日が始まったのだろう。
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