大切な存在 シノと初めて喧嘩して、仲直りをした。
その時に貰った花束が凄く嬉しくて、何かお返しをしたくなった。
シノの行動を観察していたら、欲しいものがわかるかと思っていた。でも、広い城の中では中々会うことが出来ない。
そもそも、大領地の領主の息子と小間使いが仲良くなることが異例なのだ。両親の寛大さに感謝こそすれ、なかなか会えないと文句を言うことなど出来ない。頭ではわかっているものの、なかなか会えないことはもどかしく感じてしまう。
普段のプレゼントは相手の求めるものを、使用人達が噂を掴んで裏付けを取り、確実に喜ばれるものを渡していた。そこに俺の思考が入る隙はなく、長年培ってきた使用人達の目に狂いはないので断る理由もない。
そのため、今までは相手を喜ばせるために自分で選んだことがなかった。
今回に限っては、使用人達に頼ることは出来ない。誰かに知られれば、使用人にプレゼントなんてもったいないことをなさる必要はありません、そのようなことに時間を割かれるくらいでしたらご自身の為になることをなさってください。なんて言われてしまうだろう。
心から俺の為を思って言ってくれているのだろうから、誰にも相談できない。そう思うと、余計に何を渡したらいいのか分からなくなってしまう。
この前の喧嘩以来、たまに時間を見つけてはシノが窓から訪れるようになった。来る度に何か新しいものを見せてくれる。それは、図鑑でしか見た事がなかったリスだったり、花だったりした。実在することは知っていても、実際に見て触れることが出来るなんて考えたこともなかったそれらを、いとも容易くシノは持ってきてくれる。
シノが訪れる窓は、さながら異世界への扉だった。
いつも何かを貰ってばかりで、何も返せてないのは悪い気がするからと、直接シノに欲しいものはないか聞いてみた。
「オレが欲しいものは、既に貰ってる。」
少しふんぞり返るような体勢をとりながら、口角を上げて満足そうな顔で言われた。
「え、何もあげられてないと思うんだけど……何?」
恐る恐る聞いてみた。
「ヒース、お前はオレに居場所をくれた。根無し草だった昔とは違う。ヒースがいる場所がオレの帰る場所だ。そして、オレに誇りをくれた。あの約束はオレの心の支えだ。」
「シノ……。」
「だから、オレがヒースに返したいんだ。オレが渡せるものなんて何も無いが、ヒースが欲しがるものはなんでも取ってきてやる。」
「その気持ちだけで充分だよ。」
その言葉に、シノはきょとんとした。
「そんなものに価値はないだろう。」
今度は俺がきょとんとする番だった。
「何を言ってるの?その言葉で俺の心は温まったよ。」
「そんなもので腹は膨れない。何にもならないだろ。口先だけならなんとでも言える。まあ、オレは結果で示すけどな。」
きっと今のシノは、自分に価値がないと思ってる。俺もそう思う時があるからわかる。それでも、両親やシノ、色んな人達に自分には価値があるよと教えて貰えた。
魔法使いであることは、まだ前向きに捉えられそうにないけれど……。
シノには言葉を贈ろう。毎日、花に水をやるように。
シノは俺にとって大切な友達だよ。
そばにいてくれるだけで安心出来るんだ。
いつもありがとう。
大きな鎌を振り回せるなんてカッコイイ。
俺を守ると言ってくれたシノを、俺も守るよ。
その花が綻ぶ瞬間が来るように、願いを込めて。