4:00「クソ審判どこ見とうそれはファウルやろ〜〜〜」
ソファに転がって天井を仰ぐ。続くフリーキックが決まり頭を抱えた。
「ほら明らかに削りにきとろーもん」
「賑やかだな」
「えー起こしちゃいました うるさかったですねすみません」
まだ空が白みもしない午前4時、リビングのソファでひとり悶える俺のもとに炎司さんが起きてきた。
「声はうるさくない。空気が騒々しい」
そのまま俺の隣に腰を下ろすもんだから驚いてしまう。眩しそうに目をしかめながら動く気配はない。
「一緒に観てくれるんですか ワールドカップ」
死のグループでジャイアントキリングをかました日本の第3戦。ラテンの赤い悪魔を万が一にも下した日にはまさかの予選リーグ突破だ。
「全く詳しくない。説明しろ」
「手を使わないでゴール枠の中にボールを入れたら点数です。ゴール前にいるのはゴールキーパーっす」
「それくらい知っとるわ」
試合の流れでオフサイドやボールアウトオブプレーを説明してゆく。画面から目を離さず頷く炎司さんが珍しくてつい横目で見てしまう。
「あーユニ引っ張ったホールディング よし審判わかってる」
「どうなるんだ」
「フリーキックっすね。相手がファウルしたらもらえるチャンスです」
味方FWがスローインをトラップし相手DFをかわしたところで「あースティール‼︎ された‼︎」再び相手チームに渡ったボールを追いながら炎司さんの腕を掴む。味方MFが追いすがっていく。
「このSという選手」「はあ」「スピードもだがテクニックがあるな」「30歳くらいですけど、若い頃から代表やってるんでだいぶベテランっすね」
芝生に倒れたSが画角から消えていく。「必ずプレーに絡んでくるだろう」画面端から再び追いついてくる。「ここでまたボールをとる」強引なインターセプト。
「よく見てますねえ。俺好きなんですよこのひと。テメエこの野郎何してくれんだぜってーボール取り返す っていうこの諦めの悪さと闘志がね、いいんですよ。こういうのって習って身につくもんじゃないでしょ」
俺が声音に含みを持たせたからか、炎司さんはちょっとげんなりした顔で俺を見た。わざと口角を上げて笑うと額を押されてソファに背が沈む。ゲラゲラ笑っているうちにハーフタイムのホイッスルが鳴った。
「まさか炎司さんが俺に付き合ってサッカー観てくれるとは思わんかった」
「たまにはな」
「学生時代になんかないんですか、スポーツにまつわるエピソード」
「…中学の球技大会、野球でピッチャーをやった」「へえ」「サインを無視して投げたらキャッチャーに命中して、味方同士で乱闘になったな」「うわあ絶対豪速球投げたでしょ、うける」
炎司さんの肩に頭を擦り付けて髪を撫でてもらう。
まだ朝も来ないこの部屋でふたりで4年に一度のお祭りを見る。開催ははるかシルクロードの彼方、このばかみたいに広い世界で、長く俺の知らない人生を生きてきた人とこうしていることが奇跡に思える。
日本が勝利した瞬間、ハイタッチして炎司さんを抱きしめた。