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    雨音つかさ

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    雨音つかさ

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    ワヒロ版ワンドロワンライ最終回「変身」参加作品を加筆修正しました。
    2.0世界線での三津木慎はじめての変身。
    登場人物は、三津木、佐海、北村です。

    ##ワヒロ
    #ワヒロ版ワンドロワンライ
    #三津木慎
    mitsurugiShin
    #佐海良輔
    ryosukeSakai
    #北村倫理
    kitamuraEthics

    【world 2.0】

     それは不思議な感覚だった。
     握りこんだ拳に力を込める。パリンと軽い音を立てて、綺麗な石のような結晶が砕ける。同時に視界がぐにゃりと歪んで、精神が異世界に投げ込まれたような心地になった。これがはじめての地球とのリンクだ。はじめて僕は変身している。そのはずなのに。なぜだろう。この感覚を僕はとてもよく知っているような気がした。体に馴染んだような懐かしさの理由はわからない。手のひらに走る痛みに、ひどく泣きたくなった。
     そうか、嬉しいんだ、僕は。ずっと前からヒーローになりたかったんだ。


     グッと拳を握りこむ。僅かな痛みと同時に皮膚が切れて、じわりと血が滲んでくる。ぐらりと世界が歪んで、眩暈のように一瞬足元がおぼつかなくなった。ここは崖縁工業のグラウンドだ。固く整備された土が靴底の下にはあるはずだ。その感覚を思い出すように、慎は足に力を込めた。直前に良輔に言われたことを思い出す。自分を見失うと、ヒーローの意識は地球に取り込まれてしまう。だから決して、変身中に自分を見失ってはいけない。自分を失うことと死は同義なのだ。
     僕はここにいる。これは僕の選んだことだ。心の中でそうつぶやくと、不安定だった足元の感覚が戻ってくる。
    「慎! おいっ! 大丈夫か!?」
     良輔の声に、慎はうなずいた。気が付けば眩暈のような感覚は、すっかり通り抜けてしまったようだ。着ている服は黒い戦闘服だ。着なれない戦闘服の袖を、慎は引っ張った。
    『変身したら、戦闘服の着心地を確認してね。気になることがあったら、教えてくれたら調整するから! どんな些細なことでも、遠慮はしなくていいからね。戦闘服は君たちヒーローを守る、とっても大切なものだから』
     神ヶ原の顔と言葉を思い返しながら、三津木は体を動かした。伸縮性のある布地は動きやすい。今のところ気になるところはみつからない。問題はないように思えた。
     術式を操るためのグローブに包まれた手を、そっと動かしてみる。地球の恒常性の影響だろうか。もう手のひらの傷の痛みは感じなかった。
    「……すごいね。変身ってこんな感覚なんだ」
     しみじみと呟いた声に、目の前の良輔が小さく笑った。
    「めちゃくちゃ感動してるじゃん」
     これは感動なのだろうか。わからない。現在進行形で変身を体感しているのに、まだ現実感は薄かった。僕がヒーローでいいんだろうか。本当にヒーローになれるんだろうか。こうしてリンクユニットを使った今でもそう思ってしまう。
    「これからよろしくな!」
     はにかむように良輔が笑って、慎に手を差し出した。
    「僕のほうこそ、これからよろしく……!」
     うまく笑えているだろうか。良輔と一緒にヒーロー活動ができる嬉しさと誇らしさが、うまく伝わっているだろうか。
     温かくて硬い手のひらを、慎はしっかりと握り返した。


    「そんなところで、なにをぼんやりしてるのさ。それが認可様の余裕なのかな?」
     声に、テーブルの上を見つめていた顔をあげる。驚いたように瞬きを繰り返す慎を、談話室兼食堂に入ってきた倫理は少し呆れたように見つめていた。開きっぱなしのノートの数式は、中途半端なところで途切れている。考え込むうちに思考が別の方向に流れてしまったようだ。そのまま自分は考え事に夢中になってしまったらしい。これは最初から解きなおしかな。課題の進捗に思わずため息をついてしまう。
    「余裕なんかないよ。少しだけ、考え事をしてたんだ」
    「ふーん。考え事、ねぇ……」
     あまり興味がなさそうに、倫理は慎の言葉を繰り返した。そうして慎の斜め前の椅子に腰かけて、両肘をテーブルの上につく。彼は話し相手でも探していたのかもしれない。
    「ぼっち仲間同士、少しは相手になってあげてもいいよ。ほら、何か話してみてよ」
    「そうだなぁ……」
     そう言われて、慎は少し考え込んだ。頭の中にはヒーローに関する思考が渦を巻いている。地球の恒常性のこと、武器のこと、リンクユニットのこと。もしかしたら倫理なら、今考えていたことの答えを見つけられるかもしれない。ふとそう思って、慎はぼんやりとしていた思考をかき集めた。
    「倫理君は、はじめて変身した時のことを覚えてる?」
    「ボクごときのはじめてに、キミは興味があるのかい?」
    「うん、そうだね」
     そう肯定すると、倫理は複雑そうな顔をした。そんな表情も倫理君らしい。慎はそう思う。
    「僕ははじめて変身したときに、とても不思議な感覚がしたんだ」
    「それってリンク酔いじゃないのかい? 足元の地面が消えちゃうような感覚なんて、ヒーローだったらみんな経験する、ありふれたものさ」
     それは少し違うなと、倫理の言葉を聞いて思う。リンク酔いじゃないと思う。慎のそれは夢の中で見た光景に現実で再会してしまったような感覚だった。
    「そうじゃなくって……眩暈のような、乗り物酔いのような感覚とは違うんだ。はじめてのはずなのに、知っているような、懐かしいような。たぶんデジャヴって言葉が一番近いんだと思う。変身したときに感じる懐かしさって、ヒーローみんなが感じる感覚なのかなって、不思議に思って……」
     説明すると、倫理は猫のように目を細くした。慎には見えない真実を覗き込んでしまったように、彼は小首をかしげた。
    「へぇ~、それは面白いね。認可様のことは知らないけど、少なくともボクにはそんな感じはないなぁ。ま、慎クンのそれはたぶん、器のほうが覚えてるってことさ」
    「倫理くん? それって……?」
    「さてね。ボクだってわかるわけじゃない。でも、魂と肉体は別物で、魂の記憶はリセットされてしまっても、体が覚えてるってことがあったら、すごくそれはロマンチックでドラマチックだ。物語として最高に面白いじゃん? それだけの話ってことさ」
     それは僕が知らない経験を、僕の肉体だけが覚えているということだろう。たしかにロマンとドラマに溢れた、非現実的な説明だった。現実的にありえない。倫理の説明は荒唐無稽で、なんの根拠も確信もない。でもその話は、今の慎にぴたりとハマる感覚のように思われた。
    「なるほどなぁ」
     そうつぶやくと、倫理が少し呆れたように慎を見る。
    「話はそれだけ?」
    「うん。聞いてくれてありがとう」
     笑顔を返すと、倫理はひょいっと肩をすくめた。
    「ひゃ~、さすが慎くんだ。ボクごときに律儀にお礼を言っちゃうなんて、鳥肌がたっちゃうよ」
     そう言って大げさに腕をさする倫理に、慎は小さく苦笑した。
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    雨音つかさ

    DONEワヒロ版ワンドロワンライ最終回「変身」参加作品を加筆修正しました。
    2.0世界線での三津木慎はじめての変身。
    登場人物は、三津木、佐海、北村です。
    【world 2.0】

     それは不思議な感覚だった。
     握りこんだ拳に力を込める。パリンと軽い音を立てて、綺麗な石のような結晶が砕ける。同時に視界がぐにゃりと歪んで、精神が異世界に投げ込まれたような心地になった。これがはじめての地球とのリンクだ。はじめて僕は変身している。そのはずなのに。なぜだろう。この感覚を僕はとてもよく知っているような気がした。体に馴染んだような懐かしさの理由はわからない。手のひらに走る痛みに、ひどく泣きたくなった。
     そうか、嬉しいんだ、僕は。ずっと前からヒーローになりたかったんだ。


     グッと拳を握りこむ。僅かな痛みと同時に皮膚が切れて、じわりと血が滲んでくる。ぐらりと世界が歪んで、眩暈のように一瞬足元がおぼつかなくなった。ここは崖縁工業のグラウンドだ。固く整備された土が靴底の下にはあるはずだ。その感覚を思い出すように、慎は足に力を込めた。直前に良輔に言われたことを思い出す。自分を見失うと、ヒーローの意識は地球に取り込まれてしまう。だから決して、変身中に自分を見失ってはいけない。自分を失うことと死は同義なのだ。
     僕はここにいる。これは僕の選んだことだ。心の 2674

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    登場人物は、三津木、佐海、北村です。
    【world 2.0】

     それは不思議な感覚だった。
     握りこんだ拳に力を込める。パリンと軽い音を立てて、綺麗な石のような結晶が砕ける。同時に視界がぐにゃりと歪んで、精神が異世界に投げ込まれたような心地になった。これがはじめての地球とのリンクだ。はじめて僕は変身している。そのはずなのに。なぜだろう。この感覚を僕はとてもよく知っているような気がした。体に馴染んだような懐かしさの理由はわからない。手のひらに走る痛みに、ひどく泣きたくなった。
     そうか、嬉しいんだ、僕は。ずっと前からヒーローになりたかったんだ。


     グッと拳を握りこむ。僅かな痛みと同時に皮膚が切れて、じわりと血が滲んでくる。ぐらりと世界が歪んで、眩暈のように一瞬足元がおぼつかなくなった。ここは崖縁工業のグラウンドだ。固く整備された土が靴底の下にはあるはずだ。その感覚を思い出すように、慎は足に力を込めた。直前に良輔に言われたことを思い出す。自分を見失うと、ヒーローの意識は地球に取り込まれてしまう。だから決して、変身中に自分を見失ってはいけない。自分を失うことと死は同義なのだ。
     僕はここにいる。これは僕の選んだことだ。心の 2674

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