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    su_ga_ma_ru

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    いつものラキカラ
    宇さんバスデの続きみたいな感じ

    現パロ同棲うれんがまったりクリスマスしてるだけ

    うさぎと一緒にクリスマス「チキンとケーキの予約は済んだから、後は……」
     手元のメモを覗き込んで宇髄がポツリと呟いた。師走の名にふさわしく、町を行きかう人々は誰もがどこか急ぎ足。かくいう俺たちも週末を利用して年末に向けた買い出しにやってきている。季節の行事ごとを大切にする家で生まれ育った俺と、イベントごとには目がない祭り好きの宇髄。二人が揃って暮らしているんだから、どうしても忙しくなってしまう季節。時間に追われているものの、その忙しさがのちの二人の楽しみに繋がっているのがわかっているから、大変だがどこか心地よさもある。
    「ツリーの飾りも買い足さないか?」
    「あぁ、そっか! 去年片づける時に落として壊しちゃったんだよな」
    「俺がしっかり箱を持っていなかったから……」
    「どうせ元々貰い物の寄せ集めだったし、折角だから好きなやつ買って、今年は今まで以上にド派手なツリーにしようぜ」
    「君に任せていたら本当に派手になりそうだから俺も一緒に選ぶとしよう」
     二人で暮らしだした最初の年に、友人が使わなくなったひざ丈ほどの小さなクリスマスツリーを譲り受けリビングに飾っていた。最初は必要ないかと思っていたが、部屋の中にツリーがあるというだけで気分は一気に盛り上がる。
     それから何年かクリスマスの時期になる度に俺たちを楽しませてくれていたが、去年片づけをした時に俺がうっかり落としてしまい、飾りはもちろんメインのツリーが折れてしまった。手先が器用な宇髄が何とか修理しようと奮闘してくれたものの、根元からぽっきり折れてしまったせいで、結局思い出のツリーとはお別れせざるを得なくなってしまった。
    「ツリーは持って帰るの大変だし、ネットで買った方がいいか」
    「君、あまり大きいものは家に置けないぞ」
    「わかってるって! でも前のやつよりは大きくてもいいだろ?」
     クリスマスに向けての諸々の予約を済ませる前に、二人とも洋服を買ってしまっていたし、スーパーにも寄って帰らなければ冷蔵庫の中が空っぽだ。流石にツリーを持って帰る余裕はない。だが宇髄は妙に嬉しそうにメモをポケットに押し込むと、ぐいと俺の手を引いて歩きだした。
    「ツリーの飾り買うならさ、行きたい店があるんだよ」
    「駅前のおもちゃ屋さんか?」
    「ううん、もっといいとこ」
    「それは構わないが、宇髄、手を、」
    「いいじゃん。こっちの方の道は人通りも少ないし、コートの袖で隠すからぱっと見はわかんないって」
    「それはそうだが」
    「最近は出かける時も日用品の買い物とかばっかりだし、もう俺ら熟年夫婦みたいじゃん。それはそれで嬉しいけど、今日は時間があるから久しぶりにデートしようぜ」
     いつもは俺が恥ずかしがるから手を繋ぐのは控えてくれる宇髄だが、今日は何だか浮かれていて手を放してくれない。互いのコートの袖を引っ張って、繋いでいる手は見えないが、触れ合った場所があたたかい。少し恥ずかしい気持ちもあるが確かに周りに人気はないから、今日はそのままにしておいた。デートなんて言葉で俺もすっかり浮かれている。我ながら単純だと思うものの、熟年夫婦だなんてさらっと言われてしまったら、ついつい気持ちも弾んでしまう。
    「わかった。では、久しぶりにデートをしよう!」
    「おっ、乗り気じゃん。ではド派手にエスコートさせていただきます」
    「よろしく頼む!」
     デートなんて言っても何も変わらない。いつもと同じ場所、いつもと同じ買い物。それでも気持ちを共にするだけで見える景色が全く違う。柔らかな目線が向けられて、自然と鼓動が早鐘を打つ。吹く風はどこか爽やかで、世界が一段と輝いて見える。まるで少女漫画のような表現だが、本当にそうなのだから仕方ない。
    「それで、宇髄はどこに行きたいんだ?」
    「ちょっと歩くけどいい?」
    「あぁ、折角のデートだからゆっくり行こう」
     視線を合わせて微笑みあう。たったそれだけのことが、何年たってもこんなに嬉しい。それは相手が君だから。もちろんそんなことは口に出して言えないけれど、宇髄も同じように微笑んでくれたから、きっと気持ちは同じだろう。


     途中、カフェに立ち寄り休憩をはさみながら二人で手を繋いで歩き、たどり着いた場所で俺は思わず目を丸くした。そんな俺を見て宇髄は先ほどまでとは違って、悪戯が成功した子どものように、してやったりとニヤケ顔。通りに面した大きなショーウィンドウにメリークリスマスの文字と一緒に可愛らしい飾りとツリーがディスプレイされた、レンガ造りの小さな店。この店を見て驚いたのには理由がある。以前一人で訪れたことがあるからだ。それも宇髄へのプレゼント選びで。
    「君、この店を知っていたのか?」
    「見つけたのは偶然だよ。ほら、今はクリスマスになってるけど、前はここにぬいぐるみがいっぱい飾ってあっただろ」
    「あぁ、季節によって飾りが変わると店員さんが言っていたな」
    「たまたま通りかかった時に、お前が誕生日にくれたのとそっくりなうさぎがいてさ。もしかしたらと思って入ってみたら、」
    「当たりだな」
     今年の宇髄の誕生日。仕事があって一緒に過ごすことは叶わなかった。だから俺の代わりに(なんて言っては随分と可愛らしいものだが)うさぎのぬいぐるみをプレゼントした。それを購入したのがこの店だ。
    数人の作家が集まって手作りの雑貨や小物を販売している店で、ショーウィンドウに飾られたうさぎが宇髄の描くうさぎに似ている気がして店に入ったのがきっかけ。
    プレゼントとして迎えたうさぎのぬいぐるみには、ダメ押しにと母に頼んで俺にそっくりな眉を刺繍してもらった。あのうさぎは今でも大切に宇髄の仕事部屋の机に飾られている。随分と気に入ってくれたようで時々リボンをつけたり、ダイニングに連れ出して一緒にテレビを見たりする始末だ。
    「ここならツリーの飾りもあると思ってさ」
     嬉しそうに言いながら、店の扉を開ける。中はクリスマス一色でまるで色の洪水だ。鮮やかで華やか。宇髄も楽しそうに店の中を見渡している。店にあるものはどれも商品だが、作家たちが丹精込めて生み出した作品だ。ここでプレゼントを選んだ理由にはそれもある。宇髄ならそういうものの方が気に入ってくるだろうと思ったからだ。
    「あ、ほら、ツリーの飾りもいっぱいある」
    「クッキーの形の飾りが可愛いな!」
    「えー、でもこれ飾ったら見る度にお前がすぐ腹ペコになっちゃうじゃん」
    「それは確かにそうだな」
    「確かにかよ!」
    「美味そうなものを見ると腹が減るのは当然だろう!?」
     くだらないことを言って笑いながら、俺たちは二人でたっぷり吟味して、新しいリスマスツリー用の飾りを選んだ。俺は結局本物さながらのクッキーの形をしたものと、小さなトナカイやサンタクロースがプカプカと浮かぶ丸いスノードーム。宇髄はピカピカと光るリボンに星やプレゼントが連なったものと、毛糸で編まれた雪だるまをいくつか選んでカゴに入れた。
    「君、随分と可愛らしいものを選んだな」
    「もっと派手なやつでもよかったけど、お前の選んだのと、うちのリビングの雰囲気と合わせるとこういうのが一番いいんだよ」
    「俺に合わせてくれたのか?」
    「お前絶対最初に見たクッキーのやつ選ぶと思ったから、それに合わせた」
    「うーん、君には何でもお見通しだな」
    「当たり前だろ、どれだけお前のこと考えてると思ってんだよ」
     急に身を屈めて耳元でそんな風に囁かれる。宇髄はずるい。俺が宇髄の顔が一等好きなのを知っていて、こんな風にわざと顔を近づけたり、微笑んで見せたりするんだから。分かっているのにその度に胸が高鳴るのは何だか悔しい。
    「俺だっていつでも君のことを考えているぞ! 何を選ぶのかはわからなかったが、君と一緒にツリーの飾りつけをするのをどれほど楽しみにっ……んぐっ」
     悔しさ半分照れ隠し半分でそう言い返したのに、途中で宇髄に口をふさがれてしまった。宇髄は慌てたようにきょろきょろと周りを見渡すが、その様子がおかしかったのかレジにいた若い女性店員さんにクスリと笑われてしまう。
    「何をそんなに慌てているんだ? 店員さんに笑われたぞ」
    「ばっか! お前がデカい声で恥ずかしいこと言うからだろ!」
    「先に恥ずかしいことを言ったのは君じゃないか」
    「俺はちゃんと耳打ちしただろ!」
    「あ、そういう意味だったのか? 俺はまたてっきり君が俺を恥ずかしがらせるためにわざとやっているのかと思った」
    「俺の方が恥ずかしいわ! レジ行きにくいから支払い任せた!」
     そう言ってカゴと生活費が入れてある共同の財布を押し付けると、宇髄はそそくさと店の隅に行ってしまった。俺は宇髄に言われたから言い返しただけなのに、いまいち納得いかない。だが俺たちのやり取りを見ていた店員さんがにこやかな笑顔で見つめてくるから、仕方なくそのままレジへと向かった。
     

     今年のクリスマスイブは土曜日。俺も仕事が休みだったから、昼間は実家にいる家族に日ごろの感謝を込めてプレゼントを届けに行った。宇髄自身はとても派手なものを好むが何を選ぶにしてもセンスがいい。だから一緒に選んでもらった揃いのセーターを父と母に。弟には欲しがっていた本とお菓子の詰め合わせを渡してきた。
    流石にもう年齢的に恥ずかしいだろうかと、今年は定番の赤いブーツに入ったものは止めようかと思った。そもそも、あぁいったものは何歳くらいまで喜ぶものだろう? 自分が子どもの頃は何をもらっても嬉しかったような気がするが、それは中身が食べ物だったからかもしれない。そう考えると弟のことながらわからなくなってしまった。
    だが一緒に買いに行ってくれた宇髄が「折角だからブーツにすれば? お前がくれるもんなら何でも喜びそうだし、年齢上がるとこういうのって急にもらえなくなって実は結構さみしかったりするじゃん」とアドバイスをくれたから、結局いつも通りにお菓子がたくさん詰め込まれた赤いブーツを持って行った。宇髄の言う通り、千寿郎はどちらも嬉しそうに受け取ってくれた。家に帰ってからお礼のメッセージが届いていて、そこには母が作ったリースの横にぶら下げられたブーツが写っていた。どうやら喜んでもらえたようだ。
    「ただいま!」
    「おかえりー。ちゃんと手洗えよ」
    「君は最近俺の母親みたいだな」
    「ママって呼んでもいいのよー」
    「俺より二十センチも大きいママはご免被る!」
    「なんでだよ! こんなに派手で華やかなママなんて授業参観で注目の的だろ」
    「うーん、違う意味で注目される気はするが」
     そんなふざけたやり取りをしながら、言われた通りに手を洗ってリビングに顔を出すと、美味そうな匂いが漂っていた。台所にはクリスマスの定番である洋楽が軽やかに流れ、エプロン姿の宇髄が鼻歌を歌っている。先日二人で一緒に飾り付けたツリーもリビングの端で輝いていて、それだけでクリスマスムードは満点だ。
    「何を作っているんだ?」
    「クリスマスディナー」
    「チキンとケーキは取りに行ってきたぞ」
    「いや、お前そんなもんじゃ足りないだろ? せっかくのクリスマスだから他にも色々作ろうと思って」
     どうせ正月には一緒に顔を出すから、今日は家族水入らずで過ごして来いと一人で送り出されたが、もしかしたら宇髄はクリスマスの用意をするためにわざと家に残ったのかもしれない。
     宇髄はいつも細かいことに良く気付くから、俺はその世話になりっぱなしだ。俺のことを気遣ってくれるのは嬉しいが、できれば宇髄とは対等でいたい。
     家の中でできることはそれぞれ分担しているし、宇髄の仕事が軌道に乗ってからは金銭的な面でも公平だが、精神的な面においてどうしても俺が世話になることが多い気がする。
    「宇髄、俺も何か手伝いたい」
    「もうすぐ終わるからゆっくりしてていいぜ」
    「いや、何か手伝わせてほしい」
    「……ん、じゃあ洗い物頼むわ」
    「任せろ!」
     腕まくりをして台所に入ると、コンロには二つの鍋があって片方ではブロッコリーが茹でられ、もう片方ではホワイトシチューがコトコト煮えている。それを横目で見ながらシンクに積み重ねられていた食器や調理器具に手を伸ばす。料理がからっきしな分、片づけを手伝うことが多いから洗い物はお手の物だ。
    「それ終わったら盛り付け頼んでもいい?」
    「盛り付け? このシチューか?」
    「ううん、それは後でポットパイにするから置いといて。お前にはサラダの方担当してもらうから、センス良く頼むぜ」
     宇髄の料理はどれも美味いが、本人曰く簡単なものしか作っていないという。だが仕事柄のこともあっていつも皿や盛り付けにもこだわってくれているから、俺は一目で宇髄の料理に惹きつけられることが多い。だがサラダを盛り付けるのにそんなにセンスが必要なものだろうか?
     俺が洗い物をしている間に、宇髄は冷蔵庫から取り出したものや大皿をダイニングテーブルの上に運んでいた。一つ目の任務を完了して俺も後を追うと、テーブルの上にあったのはボウルにたっぷり入ったポテトサラダと先ほどまで茹でられていたブロッコリー。皿にはハム、プチトマト、カニカマ、にんじん、アスパラガス。それから星形に型抜きされたチーズとパプリカ。いつもとは少し違った材料に首を傾げていると、宇髄がポケットからスマホを取り出して俺の方に画面を向けた。
    「はい、これお手本な」
    「これは……ツリーと雪だるまか!」
     宇髄が見せてきた画像には、ブロッコリーを積み上げてツリーに見立てたものと、ポテトサラダを丸めて雪だるまの形にしたものが映し出されていた。
    「小物は何となく冷蔵庫にあるもので準備したから、とりあえずこれでいい感じに仕上げといてくれよ」
    「わかった! 全力を尽くそう!」
     芸術的なことにはあまり自信がないが、折角宇髄が与えてくれた任務。しかもクリスマスディナーを彩る大切な一品だ。腕まくりをして気合を入れると、手始めにブロッコリーに手を伸ばした。


    「うまい!」
     思わず大きな声を出すと、目の前にあるキャンドルの炎がゆらりと揺れた。
    「チキンはお肉屋さんで注文して正解だったな!」
    「正直去年と同じ方がクリスマスっぽいかと思ってたけど、味が段違いだわ」
     持ち手にアルミホイルが巻かれただけのシンプルなチキンに齧り付くと、口の中いっぱいに肉汁と油が広がって思わず口角が上がる。皮目はパリッと歯応えがあるのに中は驚くほどジューシーで、噛めば噛むほど旨味が感じられた。去年までは某有名チェーン店のパーティーセットを購入していたが、今年は実家の母の勧めで近所の精肉店で初めてチキンを予約した。どちらもそれぞれ良さはあるが、やはり本業の肉の良さは段違いだ。多めに注文したはずのチキンはあっという間に消えていく。
    「パイも熱いうちに食えよ」
    「うむ! このパイを破るのは何度やってもワクワクするな」
    「中身はいつものシチューだし、冷凍のパイシートかぶせて焼くだけなんだけど、なんか特別感でるよなぁ」
     器に盛られたシチューの上をパイ生地で覆ったポットパイ。冬になると時々宇髄が作ってくれるのでもう何度も食べているが、このサクサクのパイ生地を最初に突き破る瞬間は何度目だって特別だ。
    「あつっ!」
    「慌てて食うからだろ。ほら、水おいとくぞ」
    「ん、これも美味い!」
     最初は崩したパイ生地をサクサクのままシチューと一緒に。柔らかでクリーミーな具材と、正反対なパイの軽さ。口の中で交わる食感の違いが楽しい。後半にはパイをしっかりシチューに浸して柔らかくして食べるのもまた一興。二つの食感が存分に楽しめるのだ。
    「最初は外に食べに行こうかと思ってたけど、家の方がゆっくり出来ていいな」
    「あぁ、うちにはセンスのいいシェフもいてくれるしな!」
     部屋の照明は少し落としているが、テーブルに置かれたふたつのキャンドルの炎が柔らかく辺りを照らしている。宇髄がいつの間にかセッティングしていたものだ。耳元に届くのはジャズアレンジで演奏されたクリスマスソング。目の前ではこんな時しか出番のない洒落た細身のグラスにシャンパンを注ぐ宇髄の姿。
    「ふふ、何だか自分の家ではないようだな」
    「何事においても雰囲気作りは大事だろ」
    「確かにその通りだ! いつもと同じリビングなのに、テーブルの上が華やかなだけで、今日はレストランに見えるぞ」
    「そーね……あ、レストランにはこんな勇ましい雪だるまはいないだろうけど」
     クスクスと笑いながら宇髄が指さした先には、俺が担当したサラダがある。大皿に山のように盛られたブロッコリーは星形に型抜きされたニンジンとパプリカ、半分に切ったプチトマトで飾られて、我ながらなかなか良い出来だと思う。問題はポテトサラダの方だ。
    「最初の形は上手くいったと思ったんだがな」
    「いやまぁ……くっ、ふふっ……上出来上出来」
    「笑いながら言われても説得力がないぞ!」
     ピンポン玉くらいに丸めたポテトサラダを積み上げて、雪だるまの形にしたところまではよかった。だがその後の飾りつけで細かな作業をしながら小さなパーツを取り付けていくうちに、段々と力が入ってしまった。結果、ひとつは顔がへこんでいるし、もうひとつは体が半分ひしゃげて傾いてしまっている。
    「失敗したんじゃないぞ。俺は解けかけの雪だるまを作ったんだ」
    「へぇ~。なるほどねぇ~」
     輪切りにしたアスパラでボタンを、小さく切ったにんじんでほっぺたを、細く裂いたカニカマでマフラーを作った。ハムを丸めて帽子をかぶせて、目と眉毛は味のりを切って張り付けた。だがキッチンバサミで切れる大きさには限界があって、まぁいいかと妥協して貼り付けた眉毛は今見ると極太で、とんでもなく凛々しい顔つきの雪だるまになってしまっている。
    「いいじゃん。ちょっとお前に似てるし、可愛い」
    「こらっ! 写真を撮るんじゃない!」
    「なんでだよ、これも楽しい思い出だろ? ギャラリーに飾ろうぜ」
     嬉しそうにリビングの壁に飾られた、たくさんの写真を指差して宇髄が笑う。一緒に暮らしだしてから撮った写真を、宇髄が飾っている思い出ボードだ。
     特別なことをしなくても、こんな些細な一瞬が、俺たちにとっては思い出になる。二人で過ごす大切な時間。重ねる度にそれはまるで当たり前のような顔をしてそこにあるけれど、その全てが二人で紡いできたかけがえのないものだ。
     キャンドルに照らされて、綺麗な顔で宇髄が笑う。閉じ込めて独り占めなんかできやしない。俺と宇髄は別々の人間で、それぞれに思うことも進む道もある。隣り合って歩いていても、全てが同じわけじゃない。けれど違うからこそ手を取り合える、分かり合える。別々だからこそ、思いを重ねることができる。
    この瞬間、俺は君だけを見つめているし、君は俺だけの宝物だ。


    「皿はこれでいいか?」
    「いや、どうせ今日で食べきっちゃうからデカい方出して」
     言われた通りに大きめの皿とフォークを持って戻ると、すぐに綺麗にカットしたケーキが乗せられる。宇髄が当たり前のようにメリークリスマスと書かれたプレートとチョコレートでできたサンタクロースを俺の皿に乗せてくるから、素早くフォークを使ってサンタクロースを隣の皿に移動させた。
    「なんだよ」
    「ちゃんと半分にしてくれ。俺は君とは対等でいたいんだ」
    「はいはい、お前はそればっかだねぇ」
     少し呆れたような口調で言いながらも、宇髄がサンタクロースを返してくる様子はなく、そのまま自分の方に皿を引き寄せた。もう一度いただきますと手を合わせてからクリームを口に運ぶと、ふわりとした食感と深い甘さが広がりまたもや口元が緩んでしまう。だが宇髄はどうしてかケーキを食べずに机に頬杖を突きながら、そんな俺のことを眺めていた。
    「食べないのか?」
    「いや、相変わらず美味そうに食うなと思って」
    「美味いぞ、このケーキ」
    「うん。でもお前が美味そうに食ってるの見ると、何倍も美味く感じるんだよ」
    「そういうものだろうか?」
    「少なくとも俺は、な」
     宇髄の言葉にそう言えばと思い出す。以前宇髄は俺が幸せでいることが自分の一番の幸せだと言ってくれた。実際にこんな風に俺が美味いものを食べたり楽しそうにしたりしているのを見るのが好きだと。でもそれは俺だって同じだ。当然俺だって宇髄が幸せでいてくれることが、一番嬉しい。宇髄が俺を思ってくれること、優しくしてくれること、見守ってくれること、受け入れてくれること。その何もかもが喜びで、いつだって君を思うだけで心の奥が柔らかくてあたたかなものに包まれる。これは俺と宇髄の間でだけ生まれる特別な感情だ。宇髄の幸せは俺の幸せ。そしてきっと宇髄もまた。そこまで考えて、ふと思いつく。
     今夜は聖なる夜、クリスマス。白いおひげのサンタクロースが良い子のところにプレゼントを持ってやってくる。自分が良い子かと問われたら、答えるのはなかなか難しい。でも俺はもう宇髄から日々大きな愛情というプレゼントをもらっているから、これ以上欲しいものなんて何もない。
    「宇髄。俺は自分にできることは何でも頑張りたいと思う。だがやはり不得意なこともあるし、君の方が向いていることは任せてしまう。君が俺を思って何かと世話を焼いてくれることも嬉しいが、時々申し訳なく思うこともある。できれば何でも対等にしたいと思っていたんだが……もしかしたらしなくていいこともあるのか?」
     自分の中でもまだはっきりとしてないことを口に出しているので、上手く言葉が繋がらない。宇髄はすぐに返事をしてくれなくて、おそらく伝わっていないんだろう。どうしたものかと考えていると、宇髄が大きく息を吐きだした。ため息をつかれたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。顔を上げた宇髄はまっすぐに俺を見つめていた。
    「二人で一緒に暮らすって決めた時に、煉獄が長く一緒に暮らすコツは適度な距離感と互いを思い合う気持ち。助け合いは大事だけどそれが片寄るのは良くないって言ったよな。それは俺もおおむね賛成。実際に家事とか金のことは半々にしてるわけだし、それでうまくいってると思う。でも対等ってそういう目に見えるものだけをさすわけじゃないだろ」
     伸びてきた宇髄の手が、フォークを握る俺の指先にそっと触れる。
    「お前は他人のことには敏感なくせに、自分のことには結構鈍感だからさ、気づいてないだけ。お前だって無意識に俺に気使ってるし、甘やかしてくれるし、支えてくれてる。いつも俺に世話されてるっていうけど、それは表面上のことだろ。俺らは同じ人間じゃないから見えてる世界も感じてるものも違うから、気づいてないだけ」
    「俺が、気づいてない?」
    「煉獄は俺が仕事中は邪魔しないように静かにしてくれて、掃除とか洗濯もしない。外で仕事してるお前の方が時間に制限あるのに、俺に合わせてくれてる。仕事で煮詰まってたら自分が食いたいから飯行こうとかって、絶対外に連れ出して自然に気分転換させてくれる。何も言わなくても察してそういうことしてくれるの、すげーありがたいって思うけど、煉獄は別に意識してやってるわけじゃないだろ」
     宇髄の言葉に自分の行動を思い返してみると、確かにそういうことはあったが言われた通りに強く意識して行った行動ではない。俺にとってはただの家でも、在宅仕事の多い宇髄にとっては職場でもあるからそこは当たり前の配慮だと思っていた。宇髄がそんな風に感謝の気持ちを持っていてくれただなんて、思いもしなかった。
    「君も、同じなのか?」
    「そうだな。そういうのって別にしてやろうって思ってるわけじゃなくて、一緒にいて相手のこともわかってきて、これからも一緒にいたいって思うから自然と動いたり気を使ったりしてるだけで、悪いことじゃないよな」
    「俺は君に世話になっているとばかり思っていた」 
     一度フォークを置いて、重ねられた宇髄の手をぎゅっと握る。一緒に暮らすようになってもう何年だろう。宇髄は俺たちのことを熟年夫婦だなんて言ってくれたけれど、その言葉にたどり着くまでに、無意識の中でも積み上げてきたものがあったことに改めて気づかされる。宇髄はいつでも俺のことを思ってくれる。そして俺もまた同じ。表面上に見える形は違っても、その思いの強さが同じだからこそ、俺たちはこうしてここまで二人で一緒に歩いてこられた。
    「宇髄、俺はどうやら一人で勝手に突っ走っていたようだな」
    「そうそう、お前は何事においてもせっかちなんだよ」
    「すまない! だがこれも君を思うが故だ、許してほしい!」
    「んんっ……だから、どーしてそういうことシラフで言えっかねぇ」
    「正直な気持ちを言っただけだ」
    「大体の人間は、俺も含めて言えないの」
    「そういうものだろうか?」
    「……ふっ、何か前もこんな話したことあったな」
     口元だけで小さく微笑んで、宇髄がグラスに残っていたシャンパンを飲み干す。
    「とにかく、君はきっとこれからも俺のことを甘やかしてくれるだろうが、俺だって気持ちは同じだ。これからも君と一緒に歩んでいくために、俺も誠心誠意頑張りたいと思う。改めてよろしく頼む!」
     握った手を離してぺこりと頭を下げると、揺らめくキャンドルの炎の向こうで、宇髄は一瞬泣きそうな顔をした後に微笑んだ。その笑顔は俺の胸の奥をきゅうと締め付ける。辛いのとも悲しいのとも違う。それでもなぜか泣きたいような気持ちになる。宇髄を思うと幸せすぎて、思いが強すぎて、時々たまらない気持ちになるんだ。きっと君も同じなんだろう。だからこそ俺は精一杯の笑顔で笑いかけた。
    「俺も頑張るから君も頑張ってくれ。そうして二人でずっと一緒に歩んでいこう」
    「またプロポーズかよ。でもそうだな。こちらこそ末永くよろしくお願いします」
    「承った!」
    「武士かよぉ。相変わらずムードがないわ」
    「ムードはちょっと俺には難しいが、そのあたりも今後は精進する!」
    「……じゃあ、そんな頑張り屋で優しい杏寿郎くんのとこには、今年はサンタクロースが来てくれそうだな」
    「もう俺もいい大人なんだが」
    「あ、って言うかもう来てたわ」
    「サンタクロースがか!?」
    「プレゼントも置いていったし」
     宇髄がそう言って指さしたのはリビングの端にあるクリスマスツリー。二人で一緒に選んだ飾りが華やかにぶら下がっている。言われている意味が分からなくて首を傾げていると、おもむろに立ち上がった宇髄は自分の部屋に入り、すぐに何かを手にして戻ってきた。
    「どうしたんだ?」
    「はい、ヒント」
     机の上に置かれたのはもうすっかり見慣れたうさぎのぬいぐるみ。だがいつの間にかサンタクロースの帽子をかぶっている。宇髄が何も言ってくれないので、うさぎとツリーに交互に視線を向けていると、ようやくツリーの端の方にひっそりとぶら下がっているピンク色のものに気づいた。
    「あっ! 君、いつのまに!?」
     駆け寄って手に取ると、それは手のひらサイズのうさぎのぬいぐるみ。背中のところにチェーンがついてキーホルダーになっていた。
    「君、これ、もしかして?」
    「同じサイズで並べてもよかったんだけど、折角なら一緒に連れて歩いてほしいじゃん。俺は家で仕事中にこいつと一緒にいるからさ」
     俺とそっくりな眉毛をしたうさぎを頬にすり寄せながら宇髄が笑う。手の中にあるものは小さいが、俺が宇髄にプレゼントしたうさぎと瓜二つだ。どう見てもあの店のうさぎだが、ツリーの飾りを買いに行った日から宇髄は仕事が忙しくてほとんど出かけていないはずなのに、いつの間に買いに行ったのだろう。
     疑問が顔に出ていたのか、ツリーの前に立ち尽くす俺のところまで歩いてきた宇髄が、後ろからうさぎごと俺を抱きしめて、至近距離で顔を覗き込んで微笑んだ。
    「ツリーの飾り買いに行った時に見つけてさ、絶対これプレゼントにしようと思ったからお前が会計してる間にこっそり別の店員さんにオーダーしといたんだよ」
    「全く気付かなかったぞ。君は時々忍者みたいだな!」
    「えー、もしかして前世は忍者? いや、もっと派手なのがいいわ」
    「この目の周りの刺繍はどうしたんだ? よく出来ている。君にそっくりだ」
    「折角だから作り手も同じ方がいいだろ。まぁ、頼みに行った時に、仲良くやっているようで安心しました~とか真剣に言われて恥ずかしかったけど」
    「母に頼んだのか!?」
    「正月は二人で帰ってきてうーんと親孝行しろってさ」
     拗ねた口調で言いながらぐりぐりとじゃれるように頬を擦りつけ、宇髄が俺の体を強く抱きしめる。まだクリスマスの最中だというのに、正月の予定が確定してしまった。これは忙しくなりそうだ。
     お揃いなんかで喜ぶような年ではないけれど、このうさぎは特別だ。一緒にいられない時だって、気持ちはつながっている。それはわかっているけれど、この子たちがいてくれたらきっともっと心強い。宇髄の手には俺と同じ眉毛をしたうさぎ。そして俺の手の中では、宇髄とそっくりの化粧をしたうさぎが楽しそうに微笑んでいた。


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