――やっちまった。
「……ネロ?」
「先生か……いつもの?」
「それはそうなんだけど。どうしたの、しゃがみこんで」
ちらりとにぎりしめた胡椒のミルに視線が行ったものの、またどこかに指ぶつけたの?と、からかいまじりに笑いながら差し出してくれた手に甘えて立ち上がった。
そういえばファウストには以前食材の箱に小指を強かに打ち付けて、痛みに悶えていたのを見られている。
「いや、ぶつけて、は、ねぇんだけど……ちょっと反省を、というか」
それについてもまた?なんて怪訝そうな顔をされてしまったものだからうぅ、と思わず情けない声が出てしまう。前回見られた時も、別のことで気がそぞろになっていたのを知られているのだから、最近ファウストには情けないところばかり見られてしまっている気がする。……まぁ、今さらな気もするが。
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