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    零晃とジュンひよ

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    酔っ払った(?)朔間先輩に晃牙くんが食べられちゃう話/別垢であげていたものの再掲

    ##零晃

    だって愛だからさ 部屋の扉に背を預け、男がひとり、赤ん坊のように丸くなって眠っている。
     新月の夜を思わせる美しい黒髪と、薄手のシャツからすらりと伸びる白魚のような腕。暗闇に溶け込むそのひとに視線を落とし、それが誰なのかすぐに気が付いた俺は、苦笑交じりにちいさく息を吐いた。――いくらこのマンションのセキュリティがきちんとしているからって、流石にこれはまずいんじゃねぇの。
    「……起きて、朔間先輩」
     名前を呼びながら視線を合わせるようにその場にしゃがみこんで、すうすう気持ち良さそうに寝息を立てている先輩の身体へふたつの指先でぴたりと触れた。先輩にしては高い体温が、皮膚を介してじんわりと伝ってくる。
     ぴくり。先輩の意識は俺が想像していたよりもずっと浅いところを漂っていたらしい。触れた部分から波紋がひろがるみたいに、熱を持つ先輩の身体がちいさく揺れる。それから、言葉にならない音をむにゃむにゃ零して、ゆっくりと先輩の頭が持ち上がった。橙色の照明を弾く長い睫毛が震え、薄い瞼の下から血みたいに真っ赤なルビーが顔を覗かせる。
    「……おはよ」
     俺と視線がぶつかった瞬間ふにゃりと相好を崩し、朔間先輩はとても嬉しそうに、この時間に全くそぐわない頓珍漢な挨拶を口にした。……いや、もうすぐ日付変わるし。それとも、業界用語的な意味での『おはよ』ってことか? どちらにせよ、先輩が相当寝惚けていることに間違いはなさそうだ。呆れを滲ませ、やれやれと大袈裟に肩を竦めてみせたけれど、そんな俺の反応を気にする素振りも見せず、先輩は「遅かったのう、わんこ」とふわふわ言葉を紡ぐばかりだった。思わず反射的に「わんこじゃね〜よ」と反論したが、先輩の耳にきちんと届いたかは正直わからない。それに、『わんこ』なんて懐かしい呼び方、朔間先輩の口から久々に聞いた気がする。――そんなことをぐるぐる考えながら、先輩の顔を覗き込む体勢のまま「……そもそも」と俺は重たい口を開いた。
    「……そもそも、何してるんだよ、こんなところで」
    「ん〜? かわいい後輩に会いに来ちゃダメなのかえ?」
    「いや、そうじゃなくてさ……」
     微妙に噛み合わない会話をくりかえしながら、先輩から香るアルコールの匂いに俺はちいさくため息を吐いた。酒が入っていることには最初の段階から気が付いてはいたけれど、先輩にしてはめずらしく、変な酔っ払い方をしているらしい。部屋の合鍵だってとっくの昔に渡しているのに、エントランスのセキュリティだけ解除して、こんなところで待ちぼうけをくっていたのもおかしな話だ。
    「とりあえず、部屋入ろうぜ」と、このまま続けていても納得のいく回答を得られなさそうな先輩との会話を打ち切って、膝に手をつき立ち上がった。俺の言葉を聞きながら、朔間先輩は鼻歌でも歌い出しそうな様子でにこにこと満面の笑みを浮かべている。……いくら酔っ払ってるからって、流石に機嫌が良過ぎね〜か……? そういうほんのすこしの違和感を抱えつつ、立ち上がる素振りをかけらも見せない先輩に向かって、俺は自分の右手をずいと差し出した。
    「ほら、早く立てって」
    「おぉ。すまんのう」
     俺の手を握りながら、先輩はタンポポの綿毛みたいに軽い謝罪を口にする。――『すまん』とすこしでも思っているなら、せめて今くらいは自分の力で動いてほしいと思わなくもないけれど。それをわざわざ言葉にするのも面倒で、俺はわざとらしく肩を竦める動作をするだけに留めておいた。この意図もきっと、酔っ払った先輩にはひとつも伝わっていない。
     空いた方の手で扉の鍵を開けると、先輩と手を繋いだまま、自分の部屋の玄関に足を踏み入れる。そこまで散らかってもないけれど、綺麗かと問われれば答えは『ノー』だ。昨日履いていたブーツを隅に除けて、酔っ払った先輩でも靴が脱げるようにスペースを確保した。……いよいよ、『介護者』の気分。
    「先輩、自分で脱げる?」
    「――晃牙」
     唐突に名前を呼ばれ、右手を引かれる。ん? 振り返ろうとした瞬間、今度はもっと強い力で押し込まれ、予想していなかった先輩の行動に、うっかりバランスを崩してしまった。――目の前で世界がぐるりと反転する。
     ガタンッ! と大きな音を立てて、大の男ふたりが玄関先の廊下へ倒れ込んだ。想像していたより衝撃はすくなかったけれど、それでも床に打ちつけた背中がズキズキと痛む。
    「晃牙」
    「な、なに……っ」
     俺の身体に跨って、朔間先輩はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてみせた。先程までの『酔っ払い』はすっかり鳴りを潜め、この最悪な状況を生み出した『悪魔』が、お気に入りのラブソングでも歌うみたいに、晃牙、ともういちど俺の名前をくちびるにのせる。それから、不意に伸びてきたふたつの白い手が俺の頬をばちんと挟み、そのままの勢いでがぶりとくちびるに噛み付かれた。
    「んむ〜っ!」
    「……んっ……元気いっぱいじゃのう」
     どっちが……! じろりと目前の先輩を睨み付け、けれど朔間先輩はそんな俺の反応すら楽しんでいるからたちが悪い。
    「そんな顔しても、かわいいだけじゃよ」
    「うるせ〜! わざわざ酔っ払ったふりまでしやがって……!」
    「『ふり』だなんて、人聞きの悪い」
     ちゃんと『ベロベロ』に決まってるじゃね〜か。悪戯に成功した子どもみたいな笑顔を浮かべ、『悪魔』はそうやって楽しそうに宣った。――ああ、失敗した。『違和感』を覚えた時点でもっとちゃんと警戒するべきだった。なんて、今更後悔してももう遅いけれど。
     赤い舌を覗かせ、朔間先輩はにんまりと微笑んだ。
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    DONE酔っ払った(?)朔間先輩に晃牙くんが食べられちゃう話/別垢であげていたものの再掲
    だって愛だからさ 部屋の扉に背を預け、男がひとり、赤ん坊のように丸くなって眠っている。
     新月の夜を思わせる美しい黒髪と、薄手のシャツからすらりと伸びる白魚のような腕。暗闇に溶け込むそのひとに視線を落とし、それが誰なのかすぐに気が付いた俺は、苦笑交じりにちいさく息を吐いた。――いくらこのマンションのセキュリティがきちんとしているからって、流石にこれはまずいんじゃねぇの。
    「……起きて、朔間先輩」
     名前を呼びながら視線を合わせるようにその場にしゃがみこんで、すうすう気持ち良さそうに寝息を立てている先輩の身体へふたつの指先でぴたりと触れた。先輩にしては高い体温が、皮膚を介してじんわりと伝ってくる。
     ぴくり。先輩の意識は俺が想像していたよりもずっと浅いところを漂っていたらしい。触れた部分から波紋がひろがるみたいに、熱を持つ先輩の身体がちいさく揺れる。それから、言葉にならない音をむにゃむにゃ零して、ゆっくりと先輩の頭が持ち上がった。橙色の照明を弾く長い睫毛が震え、薄い瞼の下から血みたいに真っ赤なルビーが顔を覗かせる。
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