貴方に逢えたからめでたいお誕生日の日「沢蕪君、お誕生日おめでとうございます」
1日で何度言われたことだろう。ただこの世に生まれ落ちた日というだけでみんなニコニコと祝ってくる。
それにニコニコと返しながら段々とそんな歪な口の形に凝り固まっていくような気がして遠くへ行きたくなった。
宗主の誕生日であるからと常になく騒がしい宴を抜け人目を避け音を避けて暗い方へと足を進める。辿り着いたのはかの離れでそこでやっと誕生を祝われることへの嫌悪感に気付いたのだった。
母は父との子である自分をどう思っていたのだろう。暗い谷へと降りていくような感覚。
紫の花が夜風に揺れるのを見ているとそこに花ではない紫がある。座り込んでいるのは後ろ姿だが三つ編みやきつく結い上げられた髪も相まって江家宗主江晩吟だとわかる。
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