教え子と交わす酒。それも悪くない。
第17話
~沈黙の居酒屋~
あそこであいつが働き始めたか。
唐辛子の調味料を買えるのはここら一帯だけだったのだが。どうも教え子がアルバイトをしている場所には行きづらい。
極力離れたレジで会計を早々に済ませた頃に意外な奴と再開した。
「M…先生っすか?」
「今お前呼び捨てにするつもりだったろ。」
彼は2014年度卒のI。成人式で会ったものの、そこまで話すことができずにいた。それ故一層懐かしい。近況に花を咲かせた成り行きで居酒屋へ寄ることにした。
「そうか。自動車方面で働き始めたのか。」
「俺、あんまし勉強向いてないっすから。でも、今はとても充実してますよ。」
彼は高校を卒業後すぐに就職したそうだ。校風が似合わぬ高校へ進学したため少なからず心配であったのだが、そんな心配は無用だったようだ。
「てか先生、新しく車を買ったそうですね。メンテしますよ。」
「あ、ああ…そうだな…。」
プライベートを覗かれるようで教え子の仕事先を避けていたが、今回は何故か悪くないと感じた。
後日、仕事を全うする彼の姿は逞しく眩しかった。