mms67669483☆quiet followPROGRESS探傭長編の作業進捗生まれつき火傷痕のあるおかっぱちゃんと暗殺者くんのお話の序章部分。ジャンルでいうとファンタジーなのかな。※スズメとおかっぱちゃんは別人として描きます。※このあと暗殺者ナワーブが登場予定です。※直接的な表現ではありませんが、少し残酷な描写があります…。最後のほうのノートンがお気に入り😇 #探傭 nortnaib ...1 「Sleepyhead, close your eyes, I’m right beside you(僕はここにいるから、目を閉じて)」 薄暗い部屋の中から、子守唄が聞こえてくる。 「I’ll protect you from harm, and you’ll wake in my arms(安心してお眠り。眠りから覚めても、君はまだ僕の腕の中にいるよ)」少し舌足らずな声が小さな部屋をゆりかごのように揺らす。 オレンジ色のランプに照らされた小さな手は、ベッドに横たわる1人の青年の額を優しく撫でていた。 「ねえ、スズメ?ぼくまだ眠くない…」 青年はストライプ模様のパジャマを着た上体を起こして、半分しか開いていない目を擦りながら言った。 それまで子守唄を歌っていた少年—スズメは、ふうと小さくため息をついてベッドの上から降りると、わがままな彼に言って聞かせる。 「ノートンがお利口に寝ないなら、ボク帰っちゃうよ」 「えー!だめ!」 ノートンと呼ばれた彼は駄々をこねながら、スズメを軽々と抱え上げてベッドの上へ連れ戻す。小さな身体を持ち上げた彼の腕の先からは、左半身を喰い尽くすかのような火傷跡が広がっていた。 彼はその腕を胸の前で組むと、「うーん」と唸りながら、どうやってスズメをここに留まらせようかと考え込む。 「昨日の、ええと…兵隊さんのうた!」 急に顔をパッと輝かせたかと思うと、ノートンはスズメにそう言った。 そそくさと毛布に潜って期待の眼差しを向けるノートンを見て、スズメは先ほどより大きな溜息をつきながらも再び彼の額に手を添える。 聴かせてとせがまれたその曲は、戦争で命を落とした兵士たちについて歌った愛国歌だった。 祖国に忠誠を誓い、愛を捧げ、人々を守る兵士たち。 彼らだって守られるべき人間だっただろうに。祭壇に捧げられた無数の命を、更なる犠牲によって償う必要があったのか。 スズメはそんな、幼い見た目には似つかわしくないことを考えながら歌い続けていた。 「And there’s another country, I’ve heard of long ago (私たちにはもう一つ、古くより聞き覚えし”祖国”がある)…」 「ねえ、スズメ。ソコクってなに?」 「キミが産まれた場所のこと…、かな」 どう伝えるのがわかりやすいかと少し考えてから、スズメはそう言った。 「うーん…うまれたばしょが、もう一つあるの?」 次々と浮かび上がる疑問に、ノートンは眉を寄せて頭を抱える。 「うん。キミ達には、ここ以外にも帰る家があるんだ」 戦争に送り出される兵士たちは、天国こそがもう一つの”祖国”であると教え込まれる。 戦って命を落としても帰るべき場所に帰るだけだと、彼らは教えられるのだ。 しかしこれをノートンに説明したところで理解するのは難しいだろう。 「ぼくもその家に帰る!ぼくここ嫌いだよ、みんな意地悪するんだ。今日だって…ほら、」 そう言ってノートンがシャツを捲ると、白い肌に薄らと浮かぶ腹筋の辺りに青紫色の痣が滲んでいた。 「きみのことを話したって、みんな信じてくれないし」 ノートンは街の外れにある精神病院で暮らしていた。古くは修道院だったその建物は十字形に広がる聖堂を有しており、かつての面影を窺うことが出来る。しかし、光の差し込む身廊の先で祭壇に助けを乞うたところで、今や神の加護が施されることはない。院内で暮らすものは皆、その光の眩さを知る機会さえも与えられずに暗がりへと追い詰められ、痛めつけられているのだった。ノートンもまた、そのうちの1人であった。「……ノートン?…いつの間に、」酷い仕打ちの顛末を語り終えると、彼はそのまま眠ってしまったようだった。隠しようのない傷を身体中に背負いながらも、その寝顔は何も知らない幼な子であるかのようだ。ノートンのはだけたシャツをスズメが直してやると、すうすうと寝息を立てる彼の頬には一粒の涙が伝った。撫でるようにその涙を掬い上げると、スズメはひとり呟く。「天国に行きそびれた、可哀想な人…」小さな部屋から明かりが消えて、涙に濡れた火傷の跡は静かな月の色に染まっていた。*一枚の硬貨を上着のポケットの中で遊ばせながら、穏やかに流れる小川に沿って歩いていく。川で水浴びをする鳥たちに屈んで挨拶をすると、その水面には15,6歳程の見た目をしたノートンの姿が映し出された。ノートンはどうやら夢を見ているようだった。淡い水彩画のようなその世界を、彼は慣れた足取りで辿っていく。小川のほとりに咲いたラベンダーは、身を寄せ合って揺れている。アーチ型にかかる石造りの橋を渡り終えると、柔らかな木漏れ日の中に本を読んでいる同い年くらいの少年がいた。少年はノートンに気がついた様子で、栞も挟まないままに本を閉じて木の幹に立てかけた。そうして手を振りながらこちらに駆け寄って来ると、ノートンの隣に並んで歩き出す。2人は前を向いたまま何も話さずにしばらく歩いた。すると、空高くそびえる重厚な石壁が見えて、彼らはその壁に沿ってさらに進んだ。たどり着いた先には巨大な鉄格子の扉があり、向こう側には立派な柱が何本も立ち並んでいるようだった。その建物の中に入れないことがわかると、彼らはどちらからともなく目を閉じて、その場で静かに祈るように手を合わせた。無機質な建物の周りで木々に芽吹く若草色の葉が、風になびく少年の栗色の髪を鮮やかに引き立てている。それでもどうしてだか顔の部分だけは、画用紙に水を溢して滲んだかのようにぼやけてしまっていた。「伏せろ」突然、少年がそう言った。のどかな風景が一瞬で黒い絵具に塗り潰されていく。気づくと、ノートンがいたのは塹壕のような溝の中だった。雨が降って泥濘んだ地面に這いつくばる兵士たちが、上空を飛び交う銃弾に息を荒くしながら耐えている。外から爆弾が投げ込まれたのか、背後の爆発音に振り向くと泥が飛沫を上げて飛び散っていた。ノートンは地面に転がる幾つもの体に足を取られながらも、全身で力一杯もがいて穴の中を進み続ける。いつの間に着ていたのか、雨に濡れて重くなった軍服と分厚いブーツが酷く煩わしかった。逃げて、逃げて、やっと見つけた梯子を登ると銃声が止んだ。代わりに、行き交う人々の声や車の走行音が聞こえてきて、ノートンは自分が見覚えのある街にいるのだとわかるとやっと体の力を抜いた。ほうとため息をついて、そういえばと辺りを見渡すと、先ほど出会った少年の姿はもう見当たらなかった。ノートンの意識はあっという間に、自分を取り囲む色とりどりの建物へと引っ張られていく。エメラルド色のあの店はチョコレートショップで、赤いペンキで塗られたこちらの店はベーカリーショップだ。今までよりも風景をくっきりと捉えられるようになると、焼き立てのスコーンが目に入って、彼は思わず手を伸ばした。しかしいくら頑張っても掴むことはできないようだった。少し残念に思いながらも街を歩いてみると、彼は一軒だけセピア色に映る店を見つけた。ポケットに硬貨が一枚入っていたことを確認し、店内に足を踏み入れる。「アッサムの…丸くてつぶつぶのやつ」そう呟きながら、色褪せた世界の中で目的のものを探した。棚の一番上から茶葉の詰まったブリキ缶を手に取って、その代わりに、一枚だけ持っていた銀色のコインを店員に渡す。紙袋に入れてもらったその缶が何故か大切な物のような気がして、ノートンはそれを抱きしめるようにして受け取った。店を出る前にいくらかお釣りを渡されたのだが、たったの1シリングで茶葉を購入できたことに対して、彼が疑問を抱くことはないようだった。「おかえりなさい。ノートン」店の扉を開けるとすぐにノートンの母親が彼を迎え入れた。彼女の瞳に映るノートンは、先ほどまでよりもずっと幼い見た目をしている。いつの間にか場面は彼の幼少期の記憶の中へと移っていたようだった。小さくなった手にも相変わらず火傷跡があるが、大切に握りしめていたはずのブリキ缶は消えている。得体の知れない焦燥感にかられながらも、彼は恐る恐る家の中へと入っていった。廊下を進み終えると母親はすでにキッチンにいて、鍋をかき混ぜているのが背中越しに見えた。ごうごうと燃えているコンロの炎が、夢の中にしては異様に鮮明に映って彼の目を引く。胸のあたりに嫌な気持ち悪さが込み上げて来くるのが分かった。「ねえ、」思わず母親に呼び掛けてみるが、彼女からの反応はない。そこでようやく彼は気がつく。—ああそうか、あの人達はもう。鍋はグツグツと音を立てて吹きこぼれ、燃え上がった炎が段々と彼女の身体を呑み込んでゆく。*「気色悪い!どうして、こんな子供…、」母親の甲高い喚き声と共に、ノートンの小さな身体が地面に突き飛ばされた。「もう帰って来るなって言ったじゃない…!」ある冬の夜、冷えた身体を抱きしめて帰ってきたノートンに母親が掛けた言葉がそれだった。闇に浮かぶ母親の血走った目を見て、そういえば両親から「おかえり」の言葉などもらったことはなかったのだと彼は思い出す。「呪いだ…、消してやる、消してやる、」父親が譫言のように呟きながら、鎌を暖炉の火に焚べている。「こんな醜い痕…!」そう言いながらノートンの身体を床に押さえつけた。ノートンの身体の左半分には、生まれつき火傷を負ったような大きな痕があった。彼の両親にとって、そんな子供は忌むべき存在であるようだった。熱されて色の変わった鉄の塊が、勢いよくノートンの目の前に振り上げられる。「やめて…、だめ…」幼いノートンにも父親の行動の意味が理解出来て、彼は目に涙を浮かべながら震える声で懇願した。咄嗟に身体を守ろうと、顔の近くに垂れ下がるテーブルクロスを自分の方へ引っ張る。ガシャン、ガシャンと大きな音を立てながら食器が地面へ落ちて、散らばった破片がノートンの頬を傷つけた。真っ赤に焼けた鎌が放つ熱が冷えた肌にじわりと伝わると、食いしばっていた歯を更にきつく締めた。彼はこれから味わう痛みへの恐怖に、ただただ身体を震わせることしか出来なかった。「嫌ッ!」突如、母親の叫び声が部屋に響いた。どうやらテーブルから転がり落ちたオイルランプが彼女の服を燃やしたようだった。アルコールの染み込んだ絨毯の上を、炎がにじり寄るように這ってゆく。「熱い…!熱い…早く消して…!」父親は鎌を放り投げて、母親の方へと駆け寄って行く。それを見たノートンは震える腕に力を込めてなんとか上体を起こした。しばらくはその場から動けずにいたが、彼は必死で火を消そうとしている両親から目を逸らすと、ふらと立ち上がる。そうして、テーブルクロスを抱えて暖炉の火の方へと近づいていった。彼が暖炉に手を入れると、持っていた布にはすぐに火が燃え移った。ノートンの暗い瞳は炎を映し込んでゆらゆらと揺れている。彼はその瞳を瞼の奥へと仕舞い込むと、震える手のひらで顔に広がる火傷痕を愛おしそうに撫でた。「この痕はね———…。」何かを呟きながら布を手放した途端、彼の瞼の裏側を轟々と燃える炎が赤く染め上げていった。〈つづく〉ここまで読んでくださった方ありがとうございます💓いいねや感想などを頂けたらめちゃめちゃ頑張って続き書きます😭初めての長編で緊張してる…Tap to full screen .Repost is prohibited Let's send reactions! 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