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    shinri_doe

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    shinri_doe

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    ここまで書いたけど多分当初のプロットに戻すので供養…これはこれでラノベ感あって気に入ってはいた。全年齢だけどそれらしい描写結構ありますアテンションプリーズ。
    五悠宿三角関係謎パロ。

    未定◆五悠←すく

    (あれが…俺の双子の弟)
     悠仁には、虎杖宿儺という自分と同じ顔をした人間の底知れぬ恐ろしさが一目見ただけでわかった。
     アイツは笑いながら動物を殺せるだろう。ソレが他の生徒と同じ服を着て、同じように笑っているところが、尚更気味悪かった。

     悠仁の父は既に他界していた。悠仁は長い間祖父と二人で仙台に暮らしていたが、高校に上がってすぐ祖父が亡くなった。
     母と双子の弟がいることは知っていたが、会ったこともなければ話題に出ることもなかった。祖父がその話題を極端に嫌ったので、悠仁は会う前から彼らにいい印象は持っていなかった。
     祖父の死によって引き取られたこの東京の地は、悠仁にとって居心地がいいとは言い難かった。都会の街並みはどこか空虚で落ち着かない。街にも、家の中にも、学校にも、悠仁の居場所はないように思えた。
     双子の宿儺を呼び捨てに、自分のことを「くん」付けで呼ぶ母は他人としか思えなかったし、クラスメイトも宿儺ありきで悠仁と接する。
     最も顕著だったのは呼び方で、クラスの男子は宿儺を「虎杖」と、悠仁を「虎杖B」とか「じゃない方」などと呼ぶ。複雑な家庭事情で転校してきた悠仁を宿儺と同じクラスに転入させたのは学校側の計らいだろう。だが、幼い頃からクラスで一人しかいなかったその名前が既に宿儺のものとして定着しているこの教室では、なんだか自分の存在が薄れてしまうような気がした。



    (また…出遅れた)
     教室を移動する集団に混ざることができなかった悠仁は、体操着を持ったまま教室の机に座っていた。そんな彼に優しく声をかける白髪の男。
    「悠仁。次体育館だよ、場所わかる?」
    「五条先生!」
     虎杖B。兄の方、じゃない方、双子くん。そんな呼ばれ方の中で唯一、担任の五条悟だけが自分のことを名前で呼んでくれる。初対面の時からずっと。
     最も、五条はクラスの全員をファーストネームで呼ぶ教師であり、五条にとっては何人もいるうちの生徒の一人に過ぎないのだろう。しかし宿儺の付属品ではなく自分に語りかけてくれる存在に悠仁が心を開いたのは無理からぬことだった。
     光に弱いらしく、五条は昼夜を問わずサングラスをかけていた。白髪も地毛だという。サングラスから覗く瞳は青く、一見日本人には見えない。虎杖は最初五条に会ったとき、昔雑誌で見たアルビノのモデルを思い出した。
     190センチを超える長身で、白髪、サングラス、そしてやたらとイケメン。およそ教師らしからぬ風貌と高いテンションを警戒したのは最初だけで、悠仁はあっという間に五条の優しい人柄の虜になった。
    「サンキュー先生、困ってたんだ」
     本当は体育館の場所などとっくに把握していたが、五条と少しでも会話したくて小さな嘘をついた。五条は悠仁の頭を撫でて言う。
    「OK!任せなさーい」
     案内してくれるのだろうか。浮き足立つ気持ちを悟られないように、平静を装う。五条と並んで廊下を歩けると思うだけで幸せだった。何を隠そう、悠仁はこの若い男性教師に憧れていた。声も視線も指先の動きひとつでさえ、五条の発する一つ一つに悠仁はときめいた。五条のいる景色だけがキラキラと光って見える。彼と出会えたことが、この土地での一番の収穫かもしれない。
     五条と共に教室を出ようとした悠仁の心を折る声が響く。
    「悠仁」
    「宿儺…」
     自分と瓜二つの人間が存在することに未だ慣れない。名前を呼ぶその声がべっとりと全身にまとわりついた。鏡に映したようにそっくりなのに、魂はまるで逆位置にあるかのようだ。
     宿儺は悠仁の肩を抱き寄せると五条に言い放つ。
    「必要ない。コイツは俺が連れていく」
    「おー、宿儺。よかったね悠仁」
    「……ッ!」
     たすけて、と、その一言を言えたならどんなに楽だろう。宿儺の視線を感じる。
    「来い」
    「宿儺…!」
     宿儺は悠仁の手を引いて教室を出ると、体育館とは反対方向に進み始めた。屋上手前の階段の一番上、下から見えない死角に引き摺り込む。宿儺は悠仁の顎を片手で押さえつけた。ものすごい握力で骨が軋む。
    「昨晩も言ったはずだが?お前は俺のものだ。他人に色目を使うことは許さん」
    「…ッ、い、色目なんか…」
     言い返すより前に唇を奪われた。ぬるりと舌が入りこみ、口内を暴れ回る。宿儺の胸を押し返そうと拳に力をこめるがビクともしない。
     グチャグチャに口内を引っ掻き回されたあと、唇が離れる時に二人を繋ぐように涎が糸を引いた。
    「…ケヒッ、反応するようになったではないか」
     宿儺はぺろりと唇を舐めた。息を乱す悠仁の下半身は、緩く主張し始めている。宿儺はそこに手を伸ばした。
    「…ッやめ…!」
    「シィ。…授業中だぞ?」
     漏れる息を片手で抑える。
     あの夜から、毎晩のように抱かれている。



     それはノックもなしに突然現れた。
     この家に引っ越してきてから三日目の夜。突然扉を開けた弟に戸惑うが、家庭内でギスギスしたくないという思いもあり悠仁はスマホから目を離してベッドから起き上がった。
    「どうした?宿儺」
    「教えてやりにきた。どちらが上かを」
     趣旨がわからない。なんの話をしているのだろうか。気味の悪い笑みを浮かべる弟に警戒心が強まる。
     宿儺は後手に扉を閉めると突然部屋の電気を消した。薄暗い部屋の中で、突然頬に痛みが走った。宿儺が自分の頬を張ったのだ、と気付いたのはじわりと痛みが広がる頃だった。
    「え…?」
     頬に手を当てて唖然とする悠仁は続け様に二、三度殴られた。今度は拳で。
    「動くな」
     喉に何かをピタリと押し付けられた。見えないがわかる。ナイフだ。
    (殺される…!?)
     悠仁は恐らく生まれて初めて心の底から恐怖した。誰かのことをこんなにも怖いと思ったのは初めてだった。
     宿儺は音を立てて笑った。その笑い声は奇妙だが、何故か既視感があった。ずっと昔にこの笑い方を聞いたことがあるような気がする。
    「きちんと躾けてやろう」
    「なに…っ!?」
    「ずっと会いたかったぞ。お前に会いたくて会いたくて…気が狂いそうだった」
     宿儺はナイフで悠仁の服をなぞった。スウェットの腰のゴム部分を切られる。目の前の化物が自分に何をするつもりなのか、悠仁はうっすらと理解し始めた。
    「充分、狂ってんだろ」
     悠仁は宿儺のナイフを奪うべく素早く動いた。宿儺はあっさりと躱したばかりか、その手を取って勢いよく引いた。
    「ッ!?」
     次の瞬間、悠仁の首元にズンと宿儺の体重が乗った。宿儺が前腕で悠仁の首をギリギリと締めた。呼吸が浅くなる。
    「…っか!は…!」
     目玉がこれ以上回れないという位置までぐるんと回った。意識を手放す寸前に宿儺が技を緩めたが、悠仁にこれ以上反撃の意思はなかった。
    「騒ぐなよ。あの女が起きる」
     母親をそんな風に呼ぶ男がまともな倫理観を持ち合わせているはずもない。
     底知れぬ邪悪さが悠仁の体を貪る。悠仁が大粒の涙を零せば、宿儺は恍惚とした笑みを浮かべてあの薄気味悪い笑い方で、笑った。

     宿儺は乱暴にする時もあれば、人が変わったように優しくされる日もあった。決して心を許してはいないのに、体が日に日に敏感になっていくのが忌々しい。
     授業が始まった校内はシンと静まり返っていた。宿儺が悠仁の体を愛撫しながら声を顰めて尋ねる。
    「なぁ悠仁…お前は誰のものだ?」
    「俺は…ッ、誰のものでも、ねぇ!」
     肩を殴られた。腕からだらりと力が抜ける。
    「ツマランな。お前のその強情さは」
     大きく顎を舐められる。蛇に絡みつかれているかのような緊張感で嫌な汗が出た。
    (早く…早く終われ…!)
     宿儺に体をいい様に扱われる間、悠仁はひたすら耐えるしかできなかった。声を殺すために、手の甲を噛むのが癖になっていた。
     どこにも行くところがない。あの家を出て、この街を出て、それでどうする?金もない、未成年の自分がどうやって一人で生きていけるというのか。それに…。
    (五条先生…!)
     この街を出れば五条と会えなくなる。想いが叶わなくてもいい、五条を一目見られるだけで幸せなのだ。その時間を失いたくはなかった。
    (先生…せんせい)
     今自分を抱いているのが五条であると思い込むことだけが、悠仁にとって唯一の救いだった。







     部活に入れば家にいる時間が短くなると思い適当な部活を選んだ。一番最初に声をかけられたから、という理由で入った同好会の顧問が五条だったのは嬉しい偶然だった。
     オカルト研究会。悠仁は正直なところ大して興味はなかったが、二人の先輩たちが熱心に語るところを見るのは好きだった。
    「ピラミッドの内部にはやはり強力な磁場が発生していて…」
    「いや、磁場は関係なく隠し部屋だろう」
     行ったこともないエジプトの神秘から、近所の怪談話まで、興味が尽きない先輩たちの様子は微笑ましかった。同級生が一人も所属しておらず、先輩たちと宿儺は面識がなかったため、その場で「虎杖」と呼ばれればそれは悠仁こことだった。悠仁はその意味でもここが気に入っていた。
     顧問とは言え五条が同好会に顔を出すことはほぼ無い。しかし、今年で潰れると思っていたオカルト研究会に虎杖という後輩が入り先輩たちは張り切っていた。
    「合宿をやるわ」
     そう言い出したのはオカルト研究会会長の佐々木だった。おかっぱメガネでいかにも真面目そうな風貌。さぞ頭がいいのだろうと思っていたが成績は中くらいとのことだった。
    「合宿?」
     逆に家に帰ってゲームやって寝るのかなと思っていた中肉中背の2年生、井口の方が声をあげた。成績は必ず学年五位以内に入るという。人は見た目ではわからないものだ。
    「合宿なんてやったことないな。何をする?」
    「勿論!オカルトな噂の飛び交う旅館に泊まるのよぉ!」
     佐々木がガッツポーズをつくると、井口も乗り気になった。
    「それはもしや…某県の…!?」
    「そう!ホテル成仏。名前からしてオカルトの気配がプンプンするわね!」
    「有名なん?」
     虎杖は二人と同じテンションではしゃぐのは難しかったが、合宿自体にはとても乗り気だった。部活動の一環ならば堂々と外泊ができる。家に帰らなくて済む。
     オカルト研究会の三人は、早速顧問の五条に引率を頼みに行った。
     職員室を空けると五条は長い脚を組んで窮屈そうに机に座っていた。体の大きな五条には、職員室の机は少し不似合いだった。
     甘党で有名な五条の机には、山積みになったお菓子に混ざっていくつかの手紙らしきものがあった。女子生徒からのファンレターだろう。五条はとにかく人気があった。
    「へえ!面白そうじゃん」
     五条は思いの外乗り気だった。そんな部費ないですよね、という佐々木に対して不敵な笑みを浮かべて言う。
    「ふっふっふ。GTGに任せなさい!」
    「さすがです先生!GTG!頼りになる!」
     佐々木は五条の扱い方を心得ているようだった。
    (そっか…!先生も来るんだ)
     部活動とはいえ、好きな人と旅行できるのだ。五条と一緒に遠出できると思った瞬間に俄然やる気が湧いてきた。
    「せっかく行くなら周辺の心霊スポットも調べないとだよな!」
    「いいわね虎杖!こうしちゃいられないわ、情報収集よーっ!」
     佐々木の掛け声と共に合宿の準備は猛スピードで進んだ。

     合宿の日はあっという間にやってきた。宿儺に悟られないように準備したつもりだったが、恐らく母親が言ったのだろう。靴を履く悠仁の背後に立つ影にプレッシャーを感じる。
    「浮かれているな」
    「んなことねーよ。部活だから」
    「五条悟と一緒に旅行ならば、浮かれるのも無理はないか」
     その名前を宿儺に口にされ、ひやりと背筋を冷たいものが走った。振り切るように立ち上がった悠仁に宿儺の低い声が響いた。
    「忘れるな。お前は俺から逃げられん。俺とお前は魂を切り分けた者同士なのだから」
     顔が同じであるなら、声も同じなはずだった。それなのに宿儺の声も、喋り方も、悠仁とは似ても似つかなかった。
    「…行ってきます」
     三日間。少なくともこの男から離れられる。その時間を目一杯楽しもう。
     生徒よりも一足遅れて集合場所についた五条の姿を見て、浮かれるなという方が無理だった。



     現地に着いて昼ごはんを食べると、初日は肝試しから始まった。既に廃線になった線路の【立ち入り禁止】の文字を堂々と跨いでいく。
     五条がいるのにいいのだろうか、と思い視線を向けると「君たちィ、写真などの証拠は残さないように」と完全犯罪を言い渡された。およそ教師らしくないが、こういうところもまた人気の秘訣なのだろう。
     二つ伸びた線路は薄暗く、出口の光は見えない。余程長いのか、あるいは湾曲しているのかもしれなかった。
    「トンネルを抜けたところに白い花が咲いてるらしいわ。右と左のトンネルの出口は同じ場所らしいから、二手に分かれていきましょう」
     五条を入れて四人であるから、二人一組になることが決まった。
    「グッとパーで、別れましょ!」
     井口と佐々木がグー、悠仁と五条がパーを出してチーム分けはあっさりと決まった。
     昼間とは言え、トンネル内は暗く懐中電灯がないと心許ない。先に立って歩き出す悠仁に五条が声をかけた。
    「悠仁はこういうの怖くないの?」
    「俺はあんまり。霊とか見えたことないし」
    「なぁんだ。こわいよ〜、とかって泣きついてくれるかと思ったのに」
     本気で五条を好きになりかけている悠仁にとって、この手の冗談は心臓に悪かった。乾いた笑いを漏らしながら言い返す。
    「そういうのは、女子に期待すんじゃね?」
     密かに佐々木を慕っているのではないかと思っている井口が今頃どうなっているかな、と考える。向こうはもしかしたらうまくいくかもしれない。でもこっちは、どんなにチャンスがあったってダメだ。
    「五条先生モテるし、よりどりみどりだろ。俺知ってるよ、毎日ファンレターもらってんの」
     職員室で見た山のような封筒を思い出す。バレンタインとか来たらあの机の上はどうなるのだろう。
    「まぁでも、好きな子に好かれなかったら意味ないから」
     五条の答えは想定外だった。てっきり、まぁね僕ってモテるのよ、みたいな答えが返ってくるものだと思っていた。
    (好きな人…いるんだ)
     告白するより前に失恋してしまった。元より気持ちを打ち明ける気など無いが。
     それでも、五条が幸せになってくれればいいと悠仁は願う。五条が笑ってくれることが、自分の幸せだと心から思えた。これが愛なのかな、なんて。
     突如、女性の甲高い悲鳴が聞こえた。佐々木の声だ!悠仁は素早く後ろを確認した。走って回り込む時間を計算するが、嫌な予感がする。謎のプレッシャー、祖父が亡くなった時に似ている。死の気配…?
    「先生、これ持って!」
     懐中電灯を五条に預けると、悠仁はトンネルの壁を殴るべく思い切り振りかぶった。勢いよく突き出したその拳を受け止めたのは、トンネルの冷たい壁ではなく五条の掌だった。
    「えっ!?」
     自分の渾身の力で殴られたら五条が無事では済まないと頭をよぎるが、力はみるみるうちに殺されていく。気がついた時には悠仁はトンネルの床に尻餅をついていた。こんなことは初めてだった。
    「!?」
    「まあまあ、慌てないで」
     五条は片手の人差し指を口にあてた。
    「ヤツの目的はこっちだから」
     五条がそう言った瞬間、壁の中から何か大きな塊が出てきて目を疑う。
    (すり抜けた!?)
     暗くてよく見えないが、明らかに人間ではない。かと言って、動物でもない。いくつも存在する目玉と長い体毛、肌は緑がかった茶色で大きく発達した手には鋭い爪があった。
     金切り声のような鋭い音を響かせて威嚇してくる。ビリビリと体を走る衝撃。不思議と怖くはなかった。
    「これは呪霊。見覚えあるでしょ?」
     五条の言う通り、初めて見る気はしなかった。紛れもなく初めて見る化け物のはずなのに…俺はコイツを、この存在を、知ってる。それは少しだけ宿儺の気配にも似ていた。
    「ううううぅみ、ぃイぃいいいぃきたアアアいィ」
     人語のようなものを発して化け物が襲い来る。五条が片手を前に出すと、赤い閃光があたりを包み異形の化け物が霧散していく。
    (化け物の狙いは…五条先生!?)
     五条は息ひとつ切らさずに振り向いて微笑む。
    「大丈夫?悠仁」
    「あ…うん」
     おかしい。デジャヴとか、そんなレベルじゃない。俺はこの光景を知ってる。俺の人生の記憶はすべてある。仙台で爺ちゃんと暮らしていたこと、亡くなったこと、それからのこと。
     じゃあ、俺は何故この光景を知ってる?
     沢山の死体と更地、意地悪く嗤う声、妙な文様のある自分と同じ顔のーーー。
    「す、くな…」
     それっきり、俺は意識を失った。
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    shinri_doe

    SPUR MEなないた新作書けてるとこまでタイトル未定。
    いつ恋愛すんのってくらいものすごくまごまごする。
    書いてる間孤独すぎて耐えられなくなってきたから誰か読んでそして頑張れと言って……
    未定(なないた) 感情をゴミ箱に捨てられたらいいのに、と虎杖は思う。
     顔を見るたびに、声を聞くたびに振り回されるのはもううんざりだ。
    (卒業、か)
     校庭の桜は卒業式の今日に合わせたかのように満開だ。桜吹雪の下には人だかりができ、みんなで写真を撮ったり抱きしめあって泣いたりしている。
    「悠仁くん!こっちおいでよ!」
     クラスメイトの吉野に手招きされる。おー、と曖昧に返事をしながらあたりを見回した。虎杖の探す社会科教師の姿はない。
     最後くらいきちんと挨拶したかった。これでもう、二度と会うこともなくなるのだから。



     工業系の専門学校を出て、大手運送会社に就職した。理由は単純で、車を運転するのが好きだったからだ。
     職場での朝のラジオ体操が好きだ。出勤は午前八時なのだが、虎杖は七時四十五分から始まるラジオ体操に欠かさず出席していた。営業所長がドライバーは腰を痛めやすいからと始めたラジオ体操の習慣に次第に人が集まるようになり、楽しくなった社員の一人がスタンプカードを作った。参加するとハンコがもらえる。最も、夏休みの児童向けのような気の利いたスタンプではなく「夜蛾」という所長の名前が刻まれた簡素なものだ。それでも、スタンプが溜まっていくのは楽しい。いっぱいになったら何かもらえるんですか、と聞いたら、夜蛾が手製の編みぐるみはどうかと提案してきたので丁重に断った。結果、スタンプを溜めた者が五人になったら飲みに連れて行ってもらえることになった。虎杖はあと三個だ。
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