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    harurun2908

    ご覧下さりありがとうございます(*¤̴̶̷̤́ω¤̴̶̷̤̀)⁾⁾♥

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    harurun2908

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    「これは恋なのだろうか」

    急に始まる新連載🙋
    DK🍃🌊です。二人は幼なじみ。🍃は1年生。🌊は2年生。もう一人先輩と言えばあの人…も出てきます。1年前にひっそり書いていて、読者3人だったお話をアレンジしています😂
    毎週土曜更新予定です。

    これは恋なのだろうか  第一話 「ふいうちのファーストキス」

     あれは五月のある晴れた日。俺はとんでもない目に合ってしまう。あんな形でハジメテが奪われてしまうなんて……。

     あぁ、さすがに疲れたな……。ここは高校の屋上。俺は一人になりたい時はここで昼メシを食べている。俺の家はおふくろに俺を入れて兄弟が七人。オヤジは少し前に事故で亡くなった。俺は高校に入ると同時に新聞配達のアルバイトを始めた。部活は陸上部で足も鍛えられるし、少しでもおふくろの助けになりたかったからだ。
    家では毎日弟や妹が大騒ぎだ。賑やかなのは嫌ではないが、たまには一人でゆっくりしたい時もある。

    今日は新聞配達のバイトと朝練もあって さすがに疲れたな……。と考えているうちにだんだんまぶたが重くなる。あー……これはだめだ……。睡魔に勝てずとうとう寝てしまった。

     どれ位寝ていただろうか。自分の顔に影を感じた。誰かいるのか?目を開けたいがまぶたが重くて開けられない。

    「……可愛い寝顔」

    可愛い?誰が?俺が?ぼんやりとした意識の中でこの声の主は分からない。だいたいそんな事を言う人の顔を見られないから寝たふりをする事にした。誰か分からないけど、さっさと行ってくれねェかな。そんな事を考えていたら─。

    ふいに唇に温かいものが触れた。

    ……え?何これ?まさか……キスされて…る…?

    びっくりしすぎて何も出来ない俺にその人は言った。

    「……起きてたらごめん」

    影が無くなるのを感じて、そっと目を開ける。
    ……俺、キスされたのか……?初めてが誰か分からないなんてうそだろォ……。顔が熱い。そんな俺の頬を初夏の爽やかな風がなぜていった。


      第二話 「ホントは知ってる」  

     今おれの向かいの席に座っているのは、おれの幼なじみで、親友で学校の後輩でもある実弥だ。朝から様子がおかしかったから(ずっとため息をついていた)帰りに実弥の好きなスイーツでも一緒に食べながら、どうしたのか聞いてみようと思ってスイーツ食べ放題に誘った。

    「はぁ……」
    実弥が盛大なため息をつく。さっきからずっとこれだ。
    「どうしたんだ?ため息ばかりついて。いつもならスイーツ食べ放題なんて目を輝かせて食いまくるのに」
    「実はさ……」
    やっと口を開いた実弥が昨日の屋上での出来事を話し始めた。

    「……じゃあ実弥は誰にキスされたか分からないままなんだ」
    「そういう事ォ」
    実弥はそう言って顔を赤らめた。
    「……お前可愛いな」
    「どこが可愛いんだよ!昨日の人といい」
    と実弥がぷりぷり怒りながら言い返してきた。そういう所が可愛いんだって。
    「その人も言っていたのか?」
    「寝ぼけていたからよく分かんねェけど、寝顔が可愛いとか何とか」

    ……実弥の事を可愛いと思っていいのはおれだけだ。じわりと何かが上がるのを感じる。

    「ふーん……」
    胸の中に上がっている感情を抑えるようにそっけなく返事をする。
    「義勇は心当たりないか?俺にキスした人」
    「……さあ」
    「俺のファーストキスだったのに」
    実弥が口を尖らせすねる。

    「ま、考えても分かんないんだろう?とりあえず食べたら?」
    「そうだな。じゃあいただきまーす」
    と実弥が目の前のスイーツに手を伸ばす。どう考えても持ってきすぎなのだが、全部でぺろりと食べてしまうんだよな。幸せそうに食べる実弥を見ていると幸せな気持ちになってくる。

    ……こんな時間がずっと続くと思っていたのに。

    時計を見るとバイトの時間が迫っていた。
    「悪い実弥!これからバイトがあるんだ。払っとくからゆっくり食べてて」
    「いいのかァ?今度俺がおごるからな」
    「分かった」
    おれは伝票を持って席を立つ。

    ……実弥ごめん。おれ、ホントは知ってるんだ。お前にキスした人。

    多分あの人だ──。

    第三話 「風」

    ──俺はあの日、一目惚れをした。風をまとい走るアイツに。

    ゴールデンウィーク明けのある日。俺たち水泳部の部員達はプール掃除をしていた。藻だらけのプールの水を抜き、ブラシで汚れを落とす。新しく水を張ったら水泳部が一番湯ならぬ一番プールに入る。まだ五月でさすがに水が冷たいが、一番始めに入れる喜びの方が上だった。

    それも今年で最後か。俺は夏の大会で引退だ。三年間早かったな……。と若干センチメンタルな気持ちになりながら、プールサイドのゴミを拾っていた。

    するとフェンスの向こうから声が。
    「宇髄先輩!」
    「おお、冨岡か」

    下を覗くと冨岡が鎌を持って立っていた。濡れ羽色の髪にきれいなブルーの瞳。まぁ、俺の次にイケメンだな。めちゃくちゃモテるのだが、冨岡は女より花壇の花の世話の方が好きなヤツで自分で園芸部まで作って、せっせと学校の花壇の世話をしている。

    「プール掃除ですか?」
    「もう五月だからな。冨岡は花の世話してんの?」
    「今は花壇の雑草取りです。後でプールサイドの草も抜きに行きますよ」
    「お!ありがとな!」
    冨岡に礼を言い掃除に戻ろうとした時、ふとグラウンドにいる一人に目が釘付けになった。

    ──そこには風のように軽やかに走る人がいた。

    「……冨岡、あそこで走ってるヤツ誰?」
    グラウンドを指差すと、冨岡が教えてくれた。
    「あいつは一年の不死川実弥です。入ったばかりですが、陸上部のエースですよ」
    「何でそんなに知ってんの?」
    「実弥は俺の幼なじみで親友なんです」
    普段あまり表情を変えない冨岡が嬉しそうに話す。
    「ふーん……」

    再びグラウンドに目をやると不死川が走っていた。俺は陸上の事は素人だが、不死川のフォームがきれいなのは分かる。

    そして何だろう。風があいつの味方をしているように見える。

    「……きれいだな」
    思わずつぶやいていた。 

    第四話 「夕暮れの保健室」

     まだ梅雨は明けていないが、ここ数日は晴れが続き気温が高い。まだ暑さに慣れていないから、熱中症に気をつけるようにと部長の村田先輩が話していた。

    ウォーミングアップをした俺はグラウンドで練習を始めた。もうすぐ夏の大会もあるし、少しでもタイムを縮めておかないと。

    「あと一本お願いします!」
    息を切らしながら村田部長に伝えると、
    「不死川無理するなよ」
    と心配された。
    「大丈夫ですって先輩、俺丈夫なのが取り柄ですから──」
    話している途中で目の前の景色が真っ白になった。

    ──気が付くと保健室のベッドで寝ていた。
    義勇が心配そうにのぞき込んでいる。
    「実弥!良かった。心配したぞ」
    体を起こそうとした俺を義勇が支えてくれる。
    「……俺、どうしてたっけ?」
    「お前、部活中に熱中症で倒れたんだよ。もう大騒ぎだったよ」
    「……そうだったんだ」

    「……お前さ」
    義勇が口を開く。
    「頑張りすぎなんじゃないか?朝もバイトして部活して、家では兄弟の面倒見て。おれ、心配だよお前の事」
    義勇の青い瞳が潤んでいる。こいつの涙を見るのは小学生以来だ。みんなに迷惑や心配かけないようにとやってきたつもりが、結局心配させてしまっている。申し訳なさで胸が痛い。

    「……ごめん。心配かけて」
    義勇は涙を手を拭うと、
    「あ、そうだ!実弥、明日宇髄先輩にお礼言っとけよ」
    「宇髄先輩?」
    なんで?初めて聞く名前だ。
    「お前が倒れた時にキャッチしたの宇髄先輩。おれの方が近くにいたのに、すごい勢いで飛び出してきてビックリしたよ」
    「……そうなんかァ」
    「ついでに言うと、保健室に連れて行ってくれたのも宇髄先輩だからな。お前お姫様抱っこされてたからな」
    「お姫様抱っこォ!?」
    思わず想像してしまう。宇髄先輩の顔は知らないからモザイクだけど。うわァー。キッツいわァー。

    「グラウンド中の女子がキャーキャー言ってたからな。明日からかわれるな」
    「……マジかァ……」

    「今日は家まで送って行くよ」
    俺のカバンも持った義勇が言う。
    「大丈夫だ。一人で帰れる」
    そう言った俺をやれやれといった顔で見る義勇。
    「……だからお前のそういう所が心配だって言ってんの。たまにはお兄さんに甘えろよ」
    年上だけど、いつも面倒を見てるの俺じゃねェか。
    「……お前の事お兄さんと思ったことねェけどな」
    思わず顔を見合わせて笑った。

    「……帰ろうか」

    第五話「ささやくセンパイ」

    「はぁあ〜〜」 
    朝からため息が止まらない。

    昨日、熱中症で倒れた俺は3年生の宇髄先輩に助けられたらしい。し、し、しかもお姫様抱っこされたとか……!バラの花をバックにお姫様抱っこをされている自分の姿を思い浮かべてしまう。(宇髄先輩の顔は知らないからモザイクだけど)おぇー。

    絶対みんなに茶化されるのが分かるから、もう学校に行きたくねェー。(行くけど)

    教室に入ると早速クラスメイトが話しかけてくる。
    「実弥姫が来たぞ!」
    「姫じゃねェ!」
    世の中のどこにこんなゴツい姫がいるんだよ。

    これしばらく続くのか?とげっそりしていると、隣の席の茂部が声をかけてきた。
    「不死川くんを助けてくれた宇髄先輩って知ってる?」
    「それが全然知らないんだよな。気が付いたら保健室だったし」
    「宇髄先輩って水泳部なんだよ。グラウンドから遠いのに不死川くんが倒れるのが分かったの不思議じゃない?」

    ……確かにそうだ。義勇の話だと倒れかけた時にはすでに宇髄先輩がいて俺をキャッチしてたと言っていたな。村田先輩が近くにいたし、他の部員もいた。そもそも俺自身が体調が悪いと思っていなかったのになぜだろうか。

    「本当だな。何でだろう?」
    すると茂部は意味深な笑みを浮かべて
    「なんでだろうね〜」
    と言いながら、他の女子の所へ行ってしまった。

    とにかく、宇髄先輩にはちゃんとお礼を言わないとな。あのまま変な倒れ方をしてケガでもしたら大変だったし。そういや、義勇が宇髄先輩の事をよく知っているような口ぶりをしていたな。放課後聞いてみるか。

    ──そして放課後。いつも通り花壇の世話をする義勇に声をかけた。
    「実弥、身体はもういいのか?」
    「昨日はありがとなァ。すっかり良くなったよ。宇髄先輩にお礼を言いたいんだけど、顔を知らないからさ。教えてくれねェか?」
    「あ、そうか。少し待ってて」

    そう言って義勇がフェンスの向こう側に向かって声をかける。
    「宇髄先ー輩!!」
    しばらくすると、フェンスの向こうに人が現れた。あの人が宇髄先輩か。きれいな銀髪に紅い瞳。さすが水泳部って感じのバッキバキの身体。あれなら俺も楽々お姫様抱っこ出来るな……って何考えてんだ俺。

    「おー!冨岡じゃん。……あっ」
    宇髄先輩が俺に気付いたようだ。
    「不死川実弥と言います。昨日はありがとうございました」
    そう言って俺は頭下げた。
    「ちょっと待ってな」
    宇髄先輩はそう言って姿を消した。

    「お待たせ」
    宇髄先輩がプールから俺達の方まで来てくれた。水着にパーカーを羽織った姿で、鍛え上げられた腹筋を思わず見てしまう。そしてなんか色気がやばい。

    「体調はどう?」
    と宇髄先輩が話しかけてくれた。
    「おかげさまですっかり元気です。今日は部活を休むように言われたので帰ります」
    「そっか。お大事に」
    「あの、先輩、良かったら今度お礼にメシでも──」
    と俺が言いかけた時、遠くから「義勇くーん」とおばさまたちの声がした。
    「いつものおばちゃんたちだ。先輩、実弥、行ってくる」
    義勇はそう言っておばちゃんたちの方へ行った。義勇の見事な花の咲かせっぷりに近所のおばちゃんたちが惚れ込んでしまい、しょっちゅう義勇に花の育て方を聞きにくるらしい。
    おばちゃんにもみくちゃにされている義勇を見て、思わず宇髄先輩と顔を見合わせて笑ってしまった。

    「あいつ変わってるよな〜」
    宇髄先輩がカラカラと笑いながら言う。
    「あいつ小さい頃からあんな感じで……あ、先輩、良かったら──」
    言いかけた俺の耳元で先輩が
    「……明日の昼休み屋上に来て」
    とささやいた。
    ち、近い!し、なんかこの人いちいちエロい!
    俺は
    「は、はい……」
    と返事するのがやっとだった。


    第5.5話 「まだ気付いていない」 

     あれは梅雨の時期の晴れ間が続いたある日。俺達水泳部はいつも通り練習に励んでいた。

    「5分休憩なー!」
    部長の声で部員たちが次々とプールから上がってくる。

    俺も軽く体を拭き、グラウンドを走る不死川を探した。
    ──?何か様子がおかしい……気がする。いつもなら風をまとって走っているように見えるのに、今日不死川をとりまくのはどんよりとした空気。多分、本人も気付いていない位の不調。このままだとあいつが倒れてしまうような気がしてとっさにグラウンドに飛び出した。

    「えっ!?宇髄先輩どうしたんですか!?」
    花壇で水をやっていた冨岡が、血相を変えて走っていく俺を見て驚いている。
    「いいからお前も来い!」
    「はっ、はい!」
    冨岡が慌てて俺に着いてくる。

    不死川がふらついて倒れそうになる所をギリギリで抱え込んだ。
    「セーフだったな」
    周りにはどこからともなく来た俺にざわついている。
    部長の村田が駆け寄って来た。
    「えっ!?宇髄何で……?お前プールにいたんじゃ……」
    戸惑う村田を無視し、
    「村田、こんな近くにいたのに不調に気付かなかったのかよ」
    「……すまない」

    まぁ、気付くはずないよな。きっと不死川ですら分かっていなかったと思うから。
    「多分熱中症だ。俺が保健室に連れて行くわ。村田たちは部活に戻れ」
    そう言って俺は不死川を抱きかかえた。
    息を切らしながら冨岡がやっと来た。
    「ちょっ!宇髄先輩どうしたんですか?……って実弥!?大丈夫か?」
    「保健室に連れて行くからお前も来い」

    ──その後、珠世先生に手当をしてもらい、不死川はベッドで眠っている。寝不足もあるみたいだから少し寝かせてあげて、起きたら帰っていいよと言われた。

    「……びっくりしましたよ」
    ベッドサイドの丸椅子に座った冨岡が言う。
    「そりゃ急に倒れたらびっくりするよな」
    「そうじゃなくて宇髄先輩、実弥が倒れる前に走っていったじゃないですか。何で分かったんですか?」

    「……いつも見えていた風が見えなかったから」

    「……宇髄先輩って詩人みたいな事言うんですね」 
    冨岡には何のことか分からないだろうな。俺には本当に見えてるけど。

    「……実弥はいつも頑張り過ぎなんです」
    ベッドで眠る不死川を見ながら冨岡が話しだした。
    「毎日朝からバイトして、部活も勉強も兄弟の世話も全部やって。いろいろ大変だろうに顔に出さないし」
    そう話す冨岡の目にうっすら涙が浮かぶ。
    ……多分、冨岡は不死川に友情以上の感情を持っている。冨岡は気付いていないかもしれないが。

    「じゃあ、俺部活に戻るわ。後頼むな」
    俺はそう言って保健室のドアに手をかける。
    「ありがとうございました!実弥にもお礼言わせますから」
    「お大事に」

    廊下を歩きながら考える。……冨岡がライバルか。これは手強いかもな。

     第6話「あんぱんとぶどうぱん」

    ──昼休み。俺は屋上へ向かっていた。何かよくわからないけど、あの先輩やたらエロいんだよな。取って食われたりしないか?……んな訳ないか。義勇も誘いたかったが、別れ際に一人で来てって言われたし……。

    ドキドキしながら屋上のドアを開けると、グラウンドを眺める宇髄先輩がいた。
    「宇髄先輩」
    後ろから声をかけると、先輩が振り向いた。
    「おお!不死川!もう昼メシ食った?」
    と聞かれたので、右手に持っていた弁当箱が入った袋を持ち上げて
    「ここで食べようと思って持って来ました」
    と言った。先輩も右手に持った袋を持ち上げ、
    「俺もまだだから一緒に食おうぜ」
    俺は先輩の隣に座り、一緒に弁当を食べ始めた。お礼を改めて伝えて、後は部活の事や家族の事などいろいろ話した。先輩は俺の話を優しく聞いてくれて、何であんなにびびってたんだろうと申し訳ない気持ちになった。

    「あ!そうだ!先輩に聞きたい事があったんですが、おとといどうして俺が倒れかけたのが分かったんですか?」
    すると先輩は俺の顔をじっと見て
    「……いつも見えている風が見えなかったから

    と答えた。
    「……先輩ってなんか詩人みたいですね」
    「それ、冨岡にも言われたわ」
    そうか、俺は走っている時は風が見えるのか。そもそも風って見えるのか?などと考えていると
    「なぁ、不死川。お前にとって冨岡はどんな存在なの?」
    ずいぶん唐突に聞いてくるんだな。義勇は隣にいるのが当たり前すぎてそんな事考えた事なかった。
    「どんな存在って……大切な友達です」
    義勇は大切な友達だ。この先もずっと。
    「そっか。友達は大切にしろよ」
    先輩はそう言うと横に置いていた袋からあんぱんとぶとうぱんを出して
    「どっちが好き?」
    と聞いてきた。
    「……あんぱんかな?」
    と言うと
    「これおやつに食えよ」
    とあんぱんを渡してくれた。

    「そろそろ昼休み終わるし行くわ。また一緒に昼メシ食おうぜ」
    先輩はそう言って屋上から出て行った。

    なんか心配したけど、いい人だったな。風が見えるとかちょっと不思議なことは言うけど。


    第7話 「別に」

    ──おれは最近イライラしている。原因は隣にいる実弥だ。おれ達は家が近いから、実弥の朝練が無い時は一緒に登校している。実弥とは特に約束していなくても、会いたいと思うとなぜかすぐに会えた。小さい頃からそうで、それがずっと続くと思っていた。なのに。

    「それで宇髄先輩がさァ」
    ……まただ。また宇髄先輩の話だ。熱中症の一件から、宇髄先輩と実弥は仲良くなったみたいでやれ昼飯を一緒に食べただの、一緒にトレーニングしただの、宇髄先輩の話ばかり聞かされている。

    ……今、隣にいるのはおれなのに。自分でもなぜこんなにイライラするのか分からない。実弥におれの他に仲のいい友達がいたっていいじゃないか。ただ、一番の親友のポジションだけは譲れない。おれが実弥の事を誰より分かっている。

    「それで宇髄先輩がさァ」
    楽しそうに話す実弥にイライラが止まらない。

    「……もうその話やめてくれないか」
    「義勇どうした?今日ずっとイライラしてないか?」
    実弥はそう言って心配そうに顔を覗き込む。
    「……別に」
    とどこかの女優みたいな返事をする。
    「なんだよその言い方!心配してるのに」
    さすがに実弥もイラッときたらしい。
    「誰のせいだと思ってるんだよ!顔を合わせれば宇髄先輩、宇髄先輩って。今一緒にいるのはおれなのに!」
    思わず大声で言い返した。おれの勢いに実弥は驚いて目を丸くしている。
    「義勇だって宇髄先輩好きだろ?なんでそんなに怒るんだよ」

    「〜〜っ!知らん!!」
    本当に自分でも分からない。今まで感じた事のない気持ちに戸惑ってしまう。

    「……あ、そう。義勇は俺といるとイライラするみたいだし、先行くわ」
    実弥はそう言って、ものすごい勢いで走り去って行った。

    ……確かにあれは風だ。おれは宇髄先輩が言っていた事を思い出しながら、豆粒位の大きさになった実弥を見送った。


    第8話「FLOWER NAGI」

    ──あれから数日。おれは実弥と顔を合わせていない。小さい頃からしょっちゅうケンカはしていたが、次の日には何事もないように戻っていた。だから今回もすぐに戻るだろうと思っていたのだが……。

     今、おれの真上にあるプールサイドではグラウンドを眺める宇髄先輩がいる。グラウンドにいる実弥が宇髄先輩に気づいて手を振る。宇髄先輩は手をひらひらと振り返していた。

    ……何だこれ。恋人同士かよ!と思いつつ、素知らぬふりをして花壇の花に水をやっていた。

    「おーい!冨岡!」
    上から宇髄先輩が声をかけてきた。
    おれがイライラしているのは先輩のせいなんですがと思いつつ、気付かないフリをしていた。
    しばらくしてちらっと上を見ると、宇髄先輩の姿が無くなっていたので、練習に戻ったかと思ったら、
    「よっ!」
    と後ろから宇髄先輩に声をかけられた。全く気配を感じなかった。この人は忍者なのか?

    「……何ですか」
    おれはあからさまに嫌そうに返事をした。
    「今不死川とケンカしてるんだって?」
    あー、もう全部聞いているんですね。さすが仲良しの二人ですね。はいはい。
    「……先輩には関係ないです」
    「俺の事でケンカしてるんだろ?」
    〜〜っ!実弥はそんな事まで話したのか!

    「……別に先輩のせいではないので。おれ、これからバイトなので失礼します」
    宇髄先輩は何か言いたげな顔をしていたが、気付かないフリをして帰り支度を始めた。


    ──何だあの人!いつもいつも何もかもお見通しみたいな顔して!腹立つ!イライラしながらバイト先に着いた。

    ここはバイト先の「FLOWER NAGI」。ここの花が大好きだったおれは高校に入学してからアルバイトをするようになった。
    「お前たちだけだよ、おれを裏切らないの」
    思わず花に話しかけるおれ。こんなすさんだ気持ちのおれにも花たちは優しく見守ってくれる。

    「義勇くん、お疲れ様〜」
    オーナーの真菰さんが来た。
    「お疲れ様です」
    おれがあいさつをすると真菰さんはじっとおれを見て、
    「義勇くん、何かあったでしょ?」
    と聞いてきた。いつも通りにしていたつもりだったのに。
    「……実は友達とケンカしまして」
    おれは真菰さんに事のあらましを説明した。
    「それで義勇くんはどうしたいの?」
    「……前みたいに友達でいたいです」
    それを聞いた真菰さんは素早くミニブーケを作り出した。
    「だったら話は早いわ。義勇くん、今からお友達の所へ行ってきなさい」
    真菰さんはそう言ってブーケを渡してくれた。
    「えっ!?でもまだ上がりの時間じゃないですよ」
    「私達花屋は幸せを届けるのが仕事なの。それにうちの看板息子の義勇くんがそんな顔をしていたら売上も落ちちゃうでしょ?」
    と真菰さんがいたずらっ子のように笑う。

    「……ありがとうございます」
    おれは真菰さんに礼を言い、店を出た。


    ──なんて言えばいいのか。考えている間に実弥の家に着いた。中からは相変わらず賑やかな声が聞こえる。

    今実弥に会うの気まずいなぁ。でもこのままの状態も耐えられない。

    おれは思い切って呼び鈴を押した。


    第9話「気付いた気持ち」

    「はーい」
    とドアを開けたのは実弥のお母さんだった。
    「あら、義勇くんじゃない。久しぶりねぇ」
    「こんな時間にすみません。実弥いますか?」
    するとお母さんは申し訳なさそうな顔をして
    「それが先輩と食事してくるみたいで、まだ帰ってないのよ」
    と言った。
    ……ああ、また宇髄先輩か。

    「分かりました。また来ます」
    そう言って帰ろうとした時お母さんが待って、と声をかけてきた。
    「実弥と何かあったの?あの子、毎日のように義勇くんの話をしていたのに全然しなくなったから」
    「ちょっと今ケンカしちゃっていて……」
    「あらそうなの?」
    と話しているところに一番下の妹の寿美が来た。
    「あ、ぎゆうくんだ!」
    寿美は赤ちゃんの頃からずっと知っているから、妹のように可愛がっている。
    「ぎゆうくん、なんでお花持ってるの?」
    寿美がおれが手に持っていたブーケに気が付いた。
    「実はさ、兄ちゃんとケンカしちゃって。仲直りできたらいいなと思って持ってきたんだ。兄ちゃんが帰ってきたら渡してもらえるか?」
    ブーケを受け取った寿美は満面の笑みで
    「分かった!」
    と答え、去って行った。

    「すみません。お邪魔しました」
    ドアを開け帰ろうとした時、お母さんが
    「義勇くん、今度うちにご飯を食べにおいで」
    と言ってくれた。
    「ありがとうございます」
    おれはそう言って、実弥の家を後にした。

    ……なんかうまくいかないな。せっかく真菰さんにブーケをもらったのに。明日なんて言おう。
    はぁ、とため息をつきながら歩いていると公園が目に入った。

    みなも公園。ここは近所の子どもの遊び場だ。おれも実弥とよく遊んだっけ。懐かしさがこみ上げ、中に入ってみる。

    あの頃は大きく感じた遊具もすっかり小さくなった。いや、おれが大きくなったのか。
    「……変わってないな」
    よく実弥と遊んでいたブランコに座ってみる。夜風にあたりながら、今までの事を思い出していた。
    ……なんでこんな事になったんだっけ。ああ、おれが子どもみたいに拗ねたせいか。ずっとこのままだったらどうしよう。

    じわ、と視界がぼやけてきた。……あれ?おれ泣いてるのか?どんだけ子どもなんだよ。情けないなぁとうなだれる。

    「……義勇」

    聞き覚えのある声がして顔を上げる。目の前に実弥が立っていた。
    「さっき帰ってきたら、おふくろに義勇が来たって聞いたから追いかけて来た」
    実弥はそう言い、隣のブランコに座る。

    「何でここにいるって分かったんだ?」
    「……何となく。義勇はここにいるだろうなって思ってよ」
    会いたいと思ったら、本当に実弥が会いに来てくれた。

    「……義勇泣いてんのか?」
    実弥がおれの顔を覗き込む。
    「泣いてない」
    涙を拭こうとするも、ハンカチが見当たらない。慌てる俺を見て、実弥がポケットからハンカチを出し渡してくれた。
    「……ありがとう」

    「……義勇、ごめんな。お前と一緒の時に違う人の話ばかりされていたら嫌だよな。義勇がいつも聞いてくれていたから甘えてた。本当にごめん」
    「……おれの方こそ子どもみたいに拗ねてごめん」
    そう言い合うと実弥がブランコから立ち上がり、おれの前に立った。
    「じゃあ、これでおしまいにしような」
    実弥が右手を差し出す。おれも右手を出す。
    「「はい、仲直り」」
    と握手した。
    「これ、小学生以来じゃねェ?懐かしいな。やっぱりまだ覚えてたな」
    そう言う実弥に
    「よくケンカしていたもんな、おれ達」
    二人で顔を見合わせて笑う。

    「帰るかァ」
    「そうだな」

    公園の入口まで来た俺たちはここで左右に別れて帰る。
    「義勇、花ありがとな。初めてもらったけど嬉しいもんだな」
    「店のオーナーがおれ達がケンカしてると聞いて、渡して来なさいとくれたんだ」
    「じゃあ、お礼に行かないとな。明日部活が終わったら店に行くわ」
    「分かった。待ってる」
    「じゃあ、明日な」
    そう言って実弥は帰って行った。

    「……また明日」
    実弥の背中に声をかける。

    良かった。これで明日からはまた元通りに……はならないような気がしてきた。

    右手には実弥と握手した感覚が残っている。今まで感じた事の無い感情がじわじわと湧いてきているのが分かる。

    ──この気持ち、気づかない方が良かったんじゃないか?その方が楽だったのに。


    ………おれ、実弥の事が好きなんだ。


     
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